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マッチ・ポイント

 席を立った『Comet』は『DarkGuru』の背後に立つと、肩をぽんと叩いた。


「ん」


 彼の返答は短かったが、『Comet』は目を細め、席に戻った。

 以前の彼ならばすでに癇癪を起こしているだろう。

 しかし今の彼は落ち着き払っている。明らかな成長が見られた。


 彼の実力は高い。だが弱点はその精神の未熟さにあった。

 そのことをわかっていても、注意すれば治るというものではない。

 むしろ、下手に口を出せば悪化しかねないのだ。


 彼らの付き合いは古い。

 最初に出会ったのは小学三年のときだ。

 この時、どういう出会いでどういう会話がなされたのかは互いに覚えてはいない。

 気づけば、常に一緒に遊ぶ仲になっていた。

 そのころからテレビ・ゲームはやっていたが、対戦ゲームをやりはじめたのは中学生になってからだ。


 最初は初心者向け、子供向けの簡単なシューター・ゲームだった。

 すぐに頭角を現した二人にとって、それは物足りないものになった。

 十五になり、本格的なシューターをやろうと二人で相談し、決めたのがCEだった。


 歯ごたえのあるゲームに出会い、喜んだ二人だったが、ここでもすぐに相手に事欠くことになる。

 特に、『DarkGuru』が我慢ならなかったのは味方のレベルの低さだ。

 負ければ味方であっても当たり散らした。

 それは『Comet』には向くことはなかった。彼が知る中で、唯一彼と同等の実力があったのが『Comet』だったからだ。


『Comet』が『DarkGuru』について面白いと思っていたのは、彼が敵の下手なプレイにも腹を立てることだった。

 なぜそうなる、そんなことをすればやられるとわからないのか、もっとエイムを磨け。なぜか敵にすら文句を言った。

 彼は、彼を楽しませてくれるプレイヤーを求めていたのだ。


 彼に必要なのは好敵手だったのだ。

 ここにきて『Comet』はやっとそれを理解した。


 ※


 今女が取ればその次のラウンドでP高が取り返す、そんな展開が続く。

 気づけばラウンドは11-11で並んでいた。

 次を取ればマッチ・ポイントという重要なラウンドになる。


【DarkGuru:次、俺の言う通りやってみてくれないか?】


 彼の言葉に驚いたのは長年の付き合いのある『Comet』だけではない。

 彼はこれまで、チームに要求があるとき、ああしろ、こうしろ、と命令口調ですることがほとんどだった。

 このように相手の反応を伺うようなことは一切なかった。

 一体、どういう心境の変化かと皆、思わず彼の方を見てしまった。


【Temp:かまわないけど、何かやりたいことでもあるのか?】

【DarkGuru:次は基本に立ち返ってやりたい。この数ラウンド、お互いに手の内を読み合うような展開が続いてるだろ? 主に『Riley』の位置を巡る読み合いが起きてる】

【Riley:そうですわね】


 麗羅はさも当然とばかりに鼻を鳴らした。


【DarkGuru:裏をかいて、その裏をかいて、その繰り返しだ。ここらでもっと意外性のあることをしたい】

【Comet:意外性なのに、基本に戻るっておかしくないか?】

【DarkGuru:意外性と奇をてらうのは違う。これまでやったことのないことを急にやってもダメなんだ。だから、これまでの流れを変える。俺たちの慣れ親しんだ方法に】

【Temp:なるほど……】

【Riley:わかりましたわ。『RisuxRisu』は?】

【RisuxRisu:みんなが良いならミーも従うデス】

【Comet:よし、それでやってみよう】


 23ラウンド目、今女の攻撃はベータへ集中した。

 そこに麗羅がいるというのが真希波の読みだった。


【Toa:ぐはぁ! また友愛が抜かれたぁ!】

【Jyuna:よし、突っ込め!】


 読みが当たったと、今女の残りの四人は意気揚々とベータに飛び込んだ。

 が、そこに別の方向から銃弾が飛んできた。


【Seiko:なっ、ダウン! 横にいる!】

【Jyuna:アリスか!】


 麗羅の位置がバレた時、敵が来るであろう進路をアリスがカバーしていたのだ。


【Riley:ナイスですわ】

【RisuxRisu:おまかせデス】

【Temp:少し持ちこたえてくれ、すぐに行く】


 ミッドにいた『Temp』もすぐに到着すると、ベータの人数差は無くなる。

 さらにアルファにいた『Comet』と『DarkGuru』のコンビが着くのも時間の問題なので、P高は無理をする必要がない。

 対し、今女は早めの仕掛けが必要な場面だ。


【Jyuna:たった一人、カバーに入っただけ、だが……】


 それがこれほど戦況に影響を与えるとは。

 それは、麗羅とアリスという、息の合ったコンビだからとも言えた。

 逆のアルファとて、『Comet』と『DarkGuru』のコンビがいる。

 この熟練コンビをそれぞれのポイントに割り振り、ミッドに『Temp』を置く体勢。これこそが彼らの基本形なのだ。


 ロケット設置を焦れば、それだけ無防備をさらすことになる。

 そうなればP高の餌食になるだけだった。

 大事なマッチ・ポイント、先に取ったのはP高となった。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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