GWコミュニティ大会
入学から半月ほど経ったその日。
今女CEチームは樹那のルームに集まっていた。
【Jyuna:今日、集まってもらったのは、大事な話があるからなんだ】
【Makina:んなことより、みんなが集まるんですから、ソファーの一つでも用意してくださいよ、立ちっぱなしじゃないッスか。これじゃ疲れますって】
【Jyuna:アバターなんだから別に疲れないだろ!】
【Alice:ミーもそう思いまス。疲れないと言っても、気分の問題デス。それに多少の飾りつけも無いなんて、樹那先輩は女子力ゼロなんデスか?】
【Jyuna:ぐっ! う、うるせぇ! ルームなんて普段は使わないから良いんだよ!】
【Reira:樹那先輩。それよりも大事なお話とは?】
【Jyuna:ああ、うん。それなんだが、実は大会に出ようと思う】
【Makina:おおお! 大会! 盛り上がってキター!】
大会、そう聞いても声呼は我関せずという感じでぼーっとしていた。
一年の自分に出番は無いだろうと考えていたからだ。
【Alice:どの大会デスか?】
【Jyuna:ちょうど良いのがあってな。これよ】
樹那はルームの壁にスクリーンを表示し、そこに大会のサイトを映し出した。
ルーム内ではこのように画面の共有ができるのだ。
【Reira:女性限定CEコミュニティ大会ですか。なるほど】
【Makina:女性のみッスけど、年齢制限は無し? 一般の強い人も出るかもしれないッスね】
【Jyuna:うん。でもまぁ、この大会はあくまで慣れるためだよ。勝つのは二の次】
【Alice:先輩が勝ちにこだわらないとは珍しいこともあるんデスね。クレイジーな負けず嫌いなのに】
【Jyuna:クレイジーは言い過ぎだぞ、アリス。ウチは出ないからな。二年から二人と一年の三人でチームを組んでもらう】
【Seiko:え! 一年全員、出られるんですか!?】
声呼は思わず現実世界で座っている椅子から立ち上がった。
アバターは微動だにしなかったので、それは他の皆にはわからなかった。
【Jyuna:その通り! 言ったように、慣れるため、だからな。ウチらの本当の勝負は高校生大会だから】
【Raru:うう……ボク、自信無いです……】
良瑠は弱々しい声を上げた。
皆の視線が彼女に集中する。
同じ一年である声呼と友愛が彼女を両方から挟むように立った。
【Seiko:大丈夫だよ良瑠。練習なんだから気楽にいこうよ】
【Toa:そうそう。友愛だってまだまだ全然だし。ハンバーグいっぱい食べれば平気、平気!】
【Seiko:いや、友愛。大食い大会じゃないんだけど】
良瑠の正面に樹那が歩いてきて言った。
【Jyuna:自信が無くても結構! むしろ、これで自信を付けてもらえれば最高だな。まずは勝つより楽しめ!】
【Makina:どころで先輩、二年からは誰が出るッスか?】
【Jyuna:二年は真希波と麗羅に出てもらう】
【Alice:ミーは出られないんデスか? 先輩の目は節ホールなんデスか?】
【Jyuna:節ホールて……いや、アリスはもともと度胸があるから大丈夫だろう。真希波は実力不足だから練習のために参加して欲しい。麗羅はIGLとしてメンバーをまとめてくれ】
【Makina:たはー、おっしゃる通り! 勉強させていただきまッス!】
【Alice:そういうことなら仕方ないデス】
【Reira:IGL承りました】
聞き慣れない言葉に声呼は首をかしげた。
麗羅の顔を横から覗き込んで聞いた。
【Seiko:先輩、『あいじーえる』って何です?】
【Reira:IGLとは『In Game Leader』の頭文字を取ったものよ。ゲーム内における司令塔という意味ね】
【Seiko:なるほど! ありがとうございます】
声呼はアリーナ系という、基本一人で競うゲームをしてきたため、まだチーム戦というものに慣れていなかった。
これまではゲームのルール、マップの構造、武器の性能、キャラのスキルなどなど覚えることで手一杯だったが、ゲームの理解度が上がるほど、チーム・プレイが重要であることを直感的に理解していた。
そして、このチームで司令塔としての能力が最も高いのが麗羅である、ということもなんとなく感じていた。
(樹那先輩、ちゃんとみんなのことを見てくれてるんだよなぁ)
麗羅が司令塔とするなら樹那はチームの監督という感じだった。
監督といえば、普通は顧問の教師がその役目をするはずである。
だが声呼は、シューター部門の顧問である元谷の姿を、オリエンテーション以来見ていなかった。
【Jyuna:んじゃ、ロリータ先生にはウチから言っておくから。大会はGW。あと二週間切ってるからな。これから大会を想定して練習するぞ!】
【Makina:おーー!】
【Seiko:先輩、ロリータ先生って誰です?】
【Jyuna:シューター部門の顧問、元谷響先生だよ。見たことあるだろ? ああいう見た目だから裏ではロリータ先生って言われてんだ。本人には言うなよ?】
【Seiko:そういうことですか。先生って全然、部活にこないですよね】
【Jyuna:ロリータ先生はゲーム知らないしな。来てもらっても指導はできないし。あとシューター部門はバトロワのチームのが活躍してっからな。そっちのが忙しいんだろ】
【Seiko:こっちだってPhase ZEROも全国高校eスポーツ大会も出るんですよ?】
【Alice:こっちは実績が無いんデス】
【Reira:メンバーも足りず、ほとんどやったことのない素人の寄せ集めみたいなチームで小さな大会に出たくらいですからね】
【Jyuna:事実だからってハッキリ言い過ぎだぞ、お前ら。ま、それも去年までよ。今年はやるぞ!】
【Makina:おーー! ほら、お前たちも続け!】
【Seiko:お、おーー!】
【Toa:うおーー!】
【Raru:お……おお……】
あまり運動部的なノリが得意でない声呼だったが、大会が決まり、心の内部に小さな火が灯ったのは確かだった。
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