エースの活躍
良いプレイがチームを調子づかせるというのはよくあることだ。
【Jyuna:っしゃぁ!】
【Toa:ナイスです!】
が、P高も決して心が折れたわけではない。
【Temp:次!】
【DarkGuru:集中!】
短い言葉だが、それで十分に伝わる。
そしてエースの活躍はさらにチームの血流を良くさせるものだ。
このラウンド、『DarkGuru』は三つものダウンを奪っていた。
今女側も協力し、一人、また一人と倒していく。
声呼が麗羅を倒したところで、気づけば残ったのは『DarkGuru』と声呼のみ。
すでにロケットは設置済み。
声呼は解除しなければならない。
設置されたロケットをエンマクで覆う。が、これは罠だった。
解除の阻止に来たところを倒す、その予定で銃を構える。
声呼にとって計算外だったのは、その銃の先が、わずかにエンマクの外へ出てしまったことだ。
それを『DarkGuru』は見逃さなかった。
銃口の向きからエンマクの中にいる声呼の位置を推測し、トリガーを引く。
全弾撃ち尽くす勢いだったが、その前に声呼は倒れた。
【DarkGuru:やった!】
【Riley:素晴らしいですわ!】
エース同士の一対一を制したのは『DarkGuru』となった。これには珍しく麗羅も大きな声を発した。
4ー6とP高が再び突き放す。
さらに悪いことに、今女はエコ・ラウンドを強いられる。
絶体絶命、そんな言葉が今女を応援する観客の頭に浮かんでいた。
【Jyuna:おいおい、声呼。見てたぞ。先っぽ出すなよ】
【Toa:あっはっは! 先っぽって!】
友愛は腹から大きく笑った。
から元気などではない。心からの笑いだ。
【Seiko:ちょっと! イジんないでくださいよ!】
声呼も言い返す。灑や良瑠も肩を震わせている。
さっきの敗戦など、まるで気にしていないようだった。
【Seiko:次、次! 先輩、ミスんないでくださいよ!】
【Jyuna:お前が言うかぁ?】
11ラウンド目、P高はベータに『DarkGuru』とアリスの二人が向かった。
そちらはフェイクで、本命はアルファに向かった麗羅、『Comet』、『Temp』だ。
今女は見事、引っかかってしまい、ベータに戦力を集中させた。
そのおかげで『DarkGuru』とアリスは討ち取ったものの、設置は許してしまう。
【Seiko:くっそ! アルファか! 急ごう!】
アルファに一人残った友愛はダウンされてしまい、残り四人は声呼と良瑠、樹那と灑の二手に分かれてリテイクへと向かう。
人数差は四対三だが装備差があり設置もされている。状況的には今女が不利だった。
裏手から回り込む樹那と灑だったが、そこを守っていたのは麗羅と『Comet』だ。
ここで『Comet』は致命的なミスをしてしまった。
半分ほど射撃していた銃を、リロードしたのだ。
【Riley:なっ!】
実はリロードの音はかなり大きい。そして当然ながら、リロードの瞬間は射撃ができない。
もし敵が近くでその音を聞いたら、突入してくるに違いない。
このタイミングでリロードはありえないのだ。麗羅は我が耳を疑った。
そして、それは現実となった。
樹那と灑がなだれ込んでくる。
リロードが終わると同時に『Comet』はダウン。
麗羅はせめて一人でも道連れに、と射撃するが、灑は狙われていることを察知し、角に身を隠す。
と、同時に樹那がカバーとしてピークしてきた。これには樹那も対応することができなかった。
【Jyuna:二人! やった!】
状況を見て、声呼と良瑠も突入する。
敵はあと一人。仮に先に入った声呼がやられても、良瑠がカバーできる。
そういう計算だったが、そこには誰もいなかった。
最後の一人、『Temp』は裏を取ろうと外へ出てしまっていたのだ。
戻ろうにも、相手は四人。多勢に無勢である。
『Temp』はこのラウンドを諦めた。
【Seiko:クリア!】
声呼の報告を聞き、周囲に誰もいないと悟った樹那は解除に入る。
残り三人は回りを警戒するが、誰も来る様子はない。
【Jyuna:よし! もう終わる!】
解除までの残り時間が九割ほど進んだところで、樹那は勝ちを確信した。
エコ・ラウンドでの勝利。これは1ラウンド以上の価値を持っていた。
【Toa:よし! よし! よし!】
今女は息を吹き返した。
応援しているファンも盛大に声や拍手を送る。
対し、一気にP高の空気は重くなった。
【Comet:すまん……】
いつもはこんなミスをする男ではない。
大会での緊張、やや不利だった状況、勝利への渇望、そういった様々が彼の判断力を鈍らせた。
【Temp:気にすんな! まだ勝ってる!】
こんなとき、率先して声を出さなければならないのが彼だ。
【DarkGuru:切り替えろ!】
以前なら腐っていただろう、この男も味方を鼓舞する。
だが、麗羅の表情は晴れなかった。
(アレはいくらなんでも……ありえませんわ)
眼鏡を外し、こめかみを右手の中指と親指で押さえた。
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