大事なラウンド
クレジットの差もつけた今女は続くラウンドも取り、これでスコアは2-2と振り出しに戻った。
3-2と勝ち越し、ここから今女はさらに勝ちを積みたかったところなのだが、P高も食い下がる。
3-3、3-4と連続してラウンドを取り返し、逆転に成功した。
「引き離されないようにね」
真希波は一度メンバーを集め、念を押した。
「わかってるよ」
樹那はそう返答したが、状況は少し苦しい。
連敗でキャッシュ差がついているのだ。
それを全員が理解しているため、メンバーも顔色は良くない。
「次、絶対勝つぞ」
大事なラウンドであることは『DarkGuru』もよく承知している。
P高の面々も無言でうなずいた。
勝たねばならない。が、皆力みすぎず、程よい緊張感が漂っている。
そうして始まった第8ラウンドは、P高のペースで進んだ。
アルファを飛び出し気味に守っていた声呼が、まずはダウンを奪われてしまう。
【Seiko:やられた! 正面!】
(くそっ。また『DarkGuru』か)
声呼はいつの間にか『DarkGuru』に対し恐怖心を持たなくなっていた。
それは、自分自身が成長したからだと思っていたし、事実そうであった。
しかし『DarkGuru』とてまだまだ若い。成長の余地を大いに残している。
ゲームの腕が急に上がることはないが、人の精神は時として急激に成長することがあるのだ。
【DarkGuru:エントリーする。カバー任せた】
【Riley:かしこまりました】
彼はこれまで『Comet』以外のメンバーを心から信頼していなかった。
その必要すら感じていなかった。どんな状況でも、自分ひとりで打開できると信じていた。
自分と同等、あるいはそれ以上の相手など、普段の大会では会ったことが無かったからだ。
今女と戦ううち、そんな独りよがりのプレイに限界を感じていた。
自分を見つめ直し、回りのメンバーをよく見てみれば、自分など決して特別では無いのだと気づかざるをえなかった。
特に麗羅の存在がこれほど頼もしいとは思いもよらなかった。
(俺がやられても、後ろがいる)
彼女が後ろを守ってくれている、そう思うとエイムに迷いが無くなる。
【Jyuna:入られたぞ!】
ロケット設置にとりかかる『DarkGuru』だったが、今女もさせじと妨害にくる。
樹那、良瑠が『DarkGuru』を視界に捉えた瞬間。麗羅の弾丸が飛んできた。
ロケット妨害に神経を割きすぎていたのだろう、カバーしている彼女に二人とも気がついていなかったのだ。
連続してダウンを奪われ、二対五の人数さをつけられてしまう。
友愛と良瑠もリテイクに向かうが、すでに設置を終え、防衛に専念していたP高の守りは固かった。
パーフェクトでP高の勝利である。
【Jyuna:大丈夫、すぐ取り返せる】
何の根拠もない。だが、樹那はそう言わなければならない。
それがリーダーの役目だ。
【Toa:オーケー、オーケー! みんな気にしない!】
こういう時、友愛の底抜けに明るい声は役に立った。
なぜか窮地であることを忘れさせてくれる。
9ラウンド目はベータを巡る攻防となった。
今女はアルファに樹那と友愛。ベータに声呼、良瑠、灑を配置していた。
P高はアリスだけがアルファを牽制し、残りはベータへ向かった。
ここで、またしても『DarkGuru』が活躍を見せた。
【Seiko:正面から二人!】
声呼は二人相手に応戦し、『DarkGuru』に大きな傷こそ負わせたものの、そこで力尽きた。
良瑠は声呼の位置へ向かう。
ロケット設置中の『DarkGuru』に襲いかかるが、そこをまた麗羅に邪魔される格好になった。
が、今度は灑がそれを読んでいた。
【Rei:二人やったべさ!】
良瑠に気を取られている相手二人を横から倒す。
だが、残った『Temp』にやられ、これでベータの守りがいなくなってしまった。
樹那と友愛は急いでベータへ向かうが、道中でアリスの妨害にあってしまう。
二人がかりで倒したものの、その間に設置の続きを完了されてしまう。
『Comet』と『Temp』はロケットの防衛に入り、樹那と友愛はリテイクにかかる。
ここで『Comet』は、背後から襲うべく、思い切ってベータを出ていった。
【Jyuna:慎重にいくぞ】
樹那は当然、二人で守っていると思っている。
人数差が無い以上、先に一人やられたほうが不利になる。
ここは慎重にならざるを得ない。
そんな彼女たちの背後から『Comet』が忍び寄っていく。
次の角を曲がれば、樹那の背中が見える。その様子を、すでに倒されたP高の面々は固唾を飲んで見守っていた。
麗羅は祈るように、両手を組んでいる。
ここで樹那は、アルティメットであるスペクターを使用した。
近くにいる敵に自動で寄っていき、当たれば視界を悪化させるというものだ。
当然、ベータに入っていくと思ったそれが、何と背後へ向かっていった。
【Jyuna:後ろにいる!】
振り返るが、気取られてしまった『Comet』は引かざるを得ない。
【Toa:今! 一人です!】
後ろに一人、ということは中には一人しかいないことになる。
友愛と樹那は背後の敵を無視し、ベータに入った。
一時的に一対二の状況にするためである。そうなれば、あとは一人づつ処理していくだけだ。
P高を全滅させ、あとは落ち着いてロケットを解除する。
これで4-5、再び今女は食らいついた。
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