最終ゲーム
「負けた」
樹那のその報告を聞き、真希波はガックリと肩を落とした。
「何やってんスか、先輩~」
「だから! ウチこういうの弱いって言ったじゃん!」
最終戦までもつれたため、最後のゲームのマップはコイン・フリップで決められる。
そこで、今女は破れてしまったのだ。
「となると、相手が選ぶのはおそらく……」
声呼の頭には一つのマップ名が思い浮かんだ。
真希波は腕組みし、頷く。
「シェルター、だろうな」
真希波が事前に共有していた情報によれば、P高の最も得意とするマップがシェルターだ。
予選からよく選択しているマップであり、勝率は実に八割を超えるという。
「1ゲーム目で選ばなかったのは、舐めてんのかと思ったけどな」
にも関わらず、1ゲーム目は別のマップだった。
真希波は、そこはおそらく第二候補だろうと予想していた。
「そりゃ、ウチらが対策してきてると思ったんだろ。実際、してきたし」
樹那はこれまでの厳しい練習を思い返しているのか、腰に手をあて、天井を見上げながら言った。
「その通り! シェルターがきたって望むところじゃないですか!」
友愛は鼻息荒く言う。
「友愛ちゃんの言う通り。練習の成果をみせようよ」
良瑠も先の圧勝で気が大きくなっているらしい。目を輝かせている。
「絶対勝てるべさ!」
灑まで珍しく力強い言葉を吐いた。
「よーし、行くぞ!」樹那が隣の真希波、声呼と肩を組み、それは連鎖して輪になる。
「「「おー!」」」
全員で大声を出すと、互いの肩を叩きたったりしながら席に戻っていく。
(ホントに運動部みたい)
声呼はこれだけの観衆の前で声を出したことを恥ずかしく思う部分もあったが、それ以上に誇らしく感じていた。
口元には薄く笑みが浮かんでいる。
※
あれだけの圧勝の後である。観客はほとんどが今女の勝利を確信していた。
が、その予想は覆されることになった。
攻撃側、P高は全員でアルファを攻めた。
対し、今女はベータにも防御のため人を割いていた。
その隙にP高はアルファの防衛をしていた声呼、樹那、友愛の三人をダウンさせることに成功。
P高も無傷とはいかず、『DarkGuru』とアリスを失ったが、ロケット設置まで完了させた。
今女は良瑠と灑でリテイクに向かう。
ロケットはスモークで包まれていたが、そこへ果敢に二人で突入し、中で守っていた麗羅をダウンさせる。
が、そのまま解除とはいかなかった。
スモークの中にいることが分かっているため、『Comet』と『Temp』はそこに集中砲火を浴びせたのだ。
もちろん、敵の姿は見えていないが、ロケットの位置はわかっている。
目星をつけ、射撃する。そしてそれは実に的確だった。
こうしてファースト・ラウンドはP高の勝利で幕を開けた。
次のラウンドは今女のエコ・ラウンドのためP高が連取。
次は大事な3ラウンド目だ。
【Jyuna:次は落とせないぞ】
【Toa:ちょっと、樹那先輩! プレッシャーかけないでくださいよー】
【Jyuna:いや、そういうつもりじゃなかったんだけど】
【Raru:ボク、吐きそうになってきました……】
【Toa:ちょ、待って! 良瑠、大丈夫? ほらぁ、樹那先輩!】
【Jyuna:ごめん良瑠! ごめんて!】
【Raru:冗談です】
【Jyuna:オイ!】
皆、思わず吹き出した。
良瑠が冗談を言うなど、初めてのことだったからだ。
お陰で肩の力が抜けたらしい。
ラウンド開始時、P高は二手に分かれて攻め始めた。
主戦力をベータに。ミッドから『DarkGuru』が単独で陽動をかける。
が、ミッドで待ち受けていた灑が、『DarkGuru』を撃ち抜く。
【Rei:やりました!】
【Jyuna:ベータに来てる! 皆こっちへ!】
と同時に、ベータを守っていた樹那の索敵に、敵が複数引っかかった。
良瑠はその入り口を守ったが、相手が人数で上回っていたため、抑えきれなかった。
【Raru:ダウン! 急いで!】
【Seiko:もうすぐ着く!】
友愛だけ念のためアルファに残し、声呼はベータに向かう。
ミッドの灑はすでに着いていた。樹那とともに牽制射撃し、設置を防いでいる。
声呼が到着したと同時に、入り口の一つにスモークが焚かれた。
【Jyuna来るぞ!】
スモークに紛れ侵入してきた麗羅とアリスを、声呼と灑が打ち倒す。
しかし、そちらに気を取られる間、別の通路から回ってきたのが『Temp』と『Comet』だ。
一人、離れたところにいる樹那をダウンさせ、続けて後ろから声呼を倒す。
そしてアーティファクトをもっている『Comet』がエントリーに成功した。
が、灑はその動きに気が付き、瞬時に対応してみせた。
【Rei:こっち、入ってきました!】
灑が設置前に『Comet』をダウンさせる。
友愛はここまでの動きを受け、すでにベータへ到着していた。
二対一で撃ち合いとなり、灑がダウンするものの、友愛のカバーで最後の『Temp』を仕留める。
大事なラウンドを取り切り、今女は各自、隣の者同士で拳を合わせあった。
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