勢い
2ラウンド目はP高のエコ・ラウンドで、今女は難なく取りきった。
次は大事な3ラウンド目である。
今女はアルファへ防御を集中、良瑠だけがベータを監視するという布陣。
P高もアルファへ攻めていく作戦だった。ただ一人、『Comet』がベータにちょっかいをかけにいく。
中でも声呼は、アルファ正面のロングに出て守っていた。他の三人はショートを見ているという状況。
悪いことにロングにはアリス、『Temp』、最後尾に麗羅がいた。
声呼は先頭のアリスと鉢合わせたが、なんとかスピードで勝った。
そのまま身を隠すためエンマクを炊く。
【Seiko:ロング! 一人ダウン! まだいる!】
【Rei:ショートはいない。裏からロングに回る】
エンマクのお陰で足止めを食らうP高に、後ろから襲いかかったのは灑だった。
最後尾の麗羅を背後から仕留めるとそのまま前進する。
エンマクが消えたところで声呼も出る。が、そこは『Temp』に狙われていた。
【Seiko:やられた。 もう一人!】
さらに『Temp』は背後の銃声も察知していた。
振り返りざまに灑を落とす。が、反撃もそこまで。
続いてピークしてきた樹那にダウンを奪われる。
これで三対二となったが、悪いことに樹那はアーティファクトを持っていた。
アーティファクトを持っている者がダウンすると、その場に落としてしまう。
今女は三人でそれを拾われないようにすればいいというわけだ。
時間が過ぎていく。
残された『DarkGuru』と『Comet』はもう危険を承知で行くしかない。
が、さすがのこの二人でも、そのような不利な状況を覆すことはできなかった。
集中砲火を浴び、全滅。
大事な3ラウンド目、今女が連取した。
【Raru:よし!】
これで勢いづいた今女だったが、4ラウンド目では特に良瑠の活躍が目覚ましかった。
一人で4ダウンも奪い、チームを勝利へ導く。
続く5ラウンド目ではロケット設置を許すも、樹那、友愛、灑のコンビネーションでリテイクし、解除に成功。
なんと5連続の勝利だ。
【Riley:なんとか流れを断ち切らないといけませんわね】
【DarkGuru:確かに。みんな、落ち着いていこう】
【Temp:へぇ? 珍しいな。お前がそんなこと言うなんて】
【Comet:違いない】
【DarkGuru:おいおい、茶化すなよ】
この時はまだP高にも笑い合う余裕があった。
なんとか1ラウンド取り返し、5-1としたことで、さらに雰囲気は良くなった。
が、今女はそれをねじ伏せていく。
7、8、9ラウンドと連取。これで8-1。
【Temp:もうこれ以上は取らせられない。次が正念場だ】
『Temp』ですら、焦りを隠せなくなっていた。
9ラウンド目をどちらが取った時、もう一方が3ラウンド以下しか取れてない場合の勝率は10パーセント以下だ。
全員、もはや軽口は叩けなくなっていた。
【Temp:全員で行く】
彼の号令のもと、全員でベータを攻めるP高。
ベータを守っていたのは灑一人だけだ。
捨て身の作戦が効いたのだろう。
一人だけで守りきれるはずもなく、ベータを取られ、ロケット設置もされてしまう。
が、真希波は笑みを浮かべていた。
「おけおけ。予定通り」
独り言ち、うなずいている。
彼女たちにとって、このラウンドは”捨てラウンド”だったのだ。
キャッシュを抑え、次からいよいよ相手の息の根を止めに行く。
そのための準備。大きくジャンプするために膝を深く曲げる、そういうラウンドだった。
11、12ラウンド目、今女はそれぞれが活躍を見せ連取し、再び差を広げたのである。
スコア10-2としたところで前半を折り返す。
ここまでの差がつくと、もはやP高の逆転は絶望的だった。
さらに後半から今女は得意な攻撃側になる。
麗羅はチーム・メイトの様子を見た。
すでに諦めの雰囲気に包まれている。
(無理もないですわね)
麗羅も、ここからの逆転はないだろうと思っていた。
【DarkGuru:このゲームは無理だ。次だ、次】
【Temp:諦めるか】
【DarkGuru:ああ。けど、捨てるわけじゃねぇ。あくまで次への準備だ】
【RisuxRisu:それがベター。ここで無駄なパワーは使わないようにしようネ】
【Comet:そうだな。まだ終わってないぞ】
【Temp:というか、久々に『RisuxRisu』の声を聞いたな】
【Riley:こう見えて無口なんですわ】
【DarkGuru:へぇ。見るからに陽キャって感じだけどな】
【RisuxRisu:別に陰キャではないデス】
(そう。無口なだけですわ)
麗羅はアリスのことを、この中でも一番知っている。
彼女が余計なことを言わないのは、口下手だからではない。
無駄を極端に嫌うからだ。
(アリスは、まだ捨ててませんわ。DarkGuruも。次。次が勝負ですわ)
そこからの3ゲームは今女に献上した。それは集中力の温存という目的のためである。
第2ゲームの敗北が決まった後、真希波はじっとP高の様子を見ていた。
今度は、彼らの誰一人として席を立つことはなかった。
Riley … 麗羅
RisuxRisu … アリス
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