表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
63/78

立て直し

 次のゲームまで、五分の休憩が与えられた。

 今女『グラジオラス・ブーケ』は椅子を回しPCに背を向け、真希波の方を向いた。


「なかなか良かったよ。今のゲーム」


 負けたというのに、真希波は平然とそう言い放った。

 落ち込まないよう、あえてそう言っている、という雰囲気でもない。

 平穏な表情、落ち着いた口調は、真にそう思っているのだろうと聞く者に感じさせた。


「後がないってのに、余裕ですねー」


 友愛も口ではそう言っているが、その顔に焦りは無い。


「まー、最初は向こうの得意マップだからね。次はこっちの番よ」


 互いに選んだマップを使用して2ゲーム行う。そこで決着がつけば良し。

 最終戦までもつれた場合、そこでのマップはコイン・フリップできめる。それが大会ルールだ。

 最初のゲームはP高の選んだマップだった。負けることは想定済みだった、ということだ。


「といって、P高の不得意マップってわけでもないからね。気を抜かないように」

「樹那先輩のおっしゃる通り。というわけで、次の作戦だが――」


 他方、P高『Soutermination』は各自、飲み物を飲みに行ったり、トイレへ行ったりしている。

 麗羅は席についたまま、遠目に今女の様子を見て目を細めた。


 何を話しているかは分からないが、時折笑いが漏れている。

 負けた悲壮感や追い込まれた切迫感は感じない。


(ワタクシがあそこにいたら……)

 あの輪に自分がいるところを想像する。

 おそらく、重苦しい空気になっていただろう。

 自分には作り出せない雰囲気だ。


 正しいと思ったら、空気など気にせず、言ってしまう。それが彼女だ。

 それがどれだけ相手を傷つけるか、不快感を与えるか、悲しませるか、そのようなことは考えない。

 別に人をやり込めようなどというわけではない。むしろ、相手のためだと思ってやっていることなのだ。


 恨みを買うこともあった。


 だがそれは、自分のレベルについてこれない者の嫉妬だ。そう思っていた。


 だから大きく環境を変えてみたのだ。

 事実、ここのようなハイレベルなチームであれば、これまでのような”お小言”を言う必要は無くなった。

 少し幼さがあった『DarkGuru』も、ここにきて精神的に成長したように見える。


(でも、あの感じ、あれはワタクシ達には作れないでしょう)

 今女と自分たちには何か決定的な違いがある。だがそれが何なのかが分からない。


(後悔? まさか、そのようなこと)

 麗羅は自分の中に生まれた不思議な気持ちが説明できなかった。

 今までに感じたことがないものだったからだ。


(こんなもの。勝利さえすれば消えますわ)

 離れていたアリスが隣に座った。そろそろ次のゲームが始まる。

 麗羅は少しだけディスプレイの角度を調節した。



 次のマップ、攻撃はP高から始まる。

 できるだけ差をつけて折り返したいところだ。

 ところが、そう上手くはいかないものである。


 P高はアルファに『DarkGuru』と『Comet』。ベータに麗羅、アリスそして『Temp』が、向かう。

 対し、今女はアルファに声呼、灑、樹那。ミッドには友愛。ベータに良瑠を配置していた。


 良瑠は一対三の状況になっていたが、本人はそれを察知できていない。

 彼女はキャッシュで買える安価なショットガン、ジュノーを持ち、ドアの前で待ち伏せていた。

 そこへ、麗羅とアリスが近づいていた。

 近づく足音が聞こえた良瑠は、思い切って飛び出し奇襲をかけた。それが二人の意表をついた。


 眼の前でのショットガン、二連撃。ジュノーは決して強い武器ではないが、至近距離であれば一撃でダウンを奪える。

 熟練の二人を持ってしても反応できないスピードだった。


【Raru:二人やった!】

【Toa:ナーイス!】


 少し後ろをカバーしていた『Temp』は、それを見て引いた。


 一対一ということを知っていれば勝負したかもしれない。だが彼には後ろにまだ敵が控えているかも、という可能性を否定できなかった。

 アーティファクトを持っていたこともあり、無理はできなかったのだ。


 とっさにアルファへと進路を変更する。


 ベータで二人倒した、ということはアルファは最悪でも三対三ということだ。

 声呼と灑は強気に前に出た。そのままベータへ向かうのか、というほど遠くまで出てくる。

 その強引さに『DarkGuru』と『Comet』は腰が引けてしまった。


【DarkGuru:こっち、二人だ!】


 報告しつつ引いていくが、それではどちらが攻めかわからない。

 足を止め曲がり角で待ち伏せる。が、声呼は彼の予想を超えて大きく飛び出した。

 オーバー・ピークだ。


 彼が狙いを修正する刹那に、声呼の弾丸が彼を貫いた。

 『Comet』もピークするが、そちらはカバーに出てきた灑が仕留める。


 残されたのは『Temp』。

 両サイドから攻めてくる気配を感じた彼は、ミッドへ逃げた。

 が、そこには友愛が待ち受けていた。


 これによりパーフェクトで大事なファースト・ラウンドを今女が奪ったのである。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ