攻守交代
流れを止められた、どころの話ではなかった。
それ以降、流れは完全にP高に奪われてしまった。
平静さを取り戻した『DarkGuru』は、その力でやはりチームを牽引した。
彼をカバーする『Comet』、裏のエース麗羅。彼女のカバーをするアリス。そして全員をまとめるリーダーの『Temp』。
このチームとしての形が、ここへ来て完成したのだ。
P高は次々とラウンド勝利を積み重ねる。
前半を終了し、スコアはなんと4-8。
攻守が交代するこのタイミングで、今女としてはなんとか仕切り直したいところだ。
「向こうのチーム・ワークがやっかいだね」
真希波を中心に、今女『グラジオラス・ブーケ』は輪になった。
ゲームの合間、この僅かな時間だけコーチと選手の会話が許されているのだ。
「『DarkGuru』と麗羅先輩が止めらんないですよ」
友愛も珍しく、弱気な発言をしている。
「相手が乱れてくれたんだけどなぁ。持ち直したらしい。さすがにそんなに甘くはないか」
「で、真希波。なんか作戦でもあるのか?」
樹那も眉間にシワをよせ、厳しい表情をしているが、真希波は余裕の笑みを浮かべている。
「こっから、こっちの攻撃でッスからね。あっちが得意なのは攻撃ッスが、うちらも得意は攻撃。やられたらやりかえしてやりましょうや」
今女は互いの額がくっつくほど頭を寄せ合うと、真希波はからそれぞれに細かい指示がだされた。
そうして気合を入れるための「オー!」という掛け声とともに、それぞれの座席に戻っていく。
(まだ気持ちは死んでないようですわね。少しは楽しませてくれるんでしょうか?)
その様子を見て、麗羅は鼻で小さく笑った。
※
後半最初はピストル・ラウンドだ。お互いに最低限の装備で飛び出していく。
今女はベータを攻めた。P高もいち早くそれを察知し、守りを固める。
今女は灑と樹那、P高は『DarkGuru』と『Comet』が倒れ、人数は三対三という状況。
今女は友愛の出したギフト・ヴァンドで相手の視界を塞ぎ、なんとかロケット設置までこぎつけた。
【Seiko:解除されてる!】
今度はP高側の出したスモークによりロケットが隠され、画面上には敵プレイヤーによる解除が始まったというメッセージが表示された。
三人はそれぞれ、解除中の無防備な敵を倒すべく、設置場所に近づいた。
しかし、それは当然に相手も予想している。
【Toa:箱の上! 気をつけて!】
友愛が上から射撃され、ダウンした。
スモークの上から見える高所に『Temp』が待機していたのだ。
友愛のカバーをしていた良瑠は、報告を受けそちらを向いた。『Temp』の姿を視界に捉える。
二発の弾を撃ったが、焦りからか外してしまう。
【Raru:あっ、ごめっ】
対し、『Temp』は落ち着いていた。次の瞬間、良瑠は地面に倒れ込んでいた。
普段の良瑠ならば、先手を取って撃ち負けることはほとんどない。
4ラウンドの差。そういうプレッシャーはこういうところに出てくるのだ。
スモークが消える前に、今度はアリスの使うコントラクター、フィローゾファのウォール・スフィアが展開され、解除中の麗羅を守った。
【Seiko:クッ! 見えない!】
ウォール・スフィアを避けるにせよ、壊すにせよ、時間が足りない。
そう判断した声呼は高所に上がるが、麗羅はウォール・スフィアのすぐ側にいたため、その姿は見えなかった。
しかたなく、設置場所に向かって走っていく。
それを待ち構えていたアリスと戦闘となったが、ここは声呼の反射が上回った。
一対二の状況。だが解除は間もなく終了する。
焦る声呼は、高所で待機している『Temp』の存在を失念していた。
声呼のダウンとロケットの解除はほぼ同時だった。
ラウンド・ウィン。その文字がP高のメンバーたちのディスプレイに映し出される。
【Jyuna:良瑠、落ち着いてこ】
【Raru:はいっ!】
【Jyuna:みんなも。次はエコで行くよ。負けてもともとだから、焦らないように】
【Seiko:わかりました!】
【Toa:おっけーっす!】
【Rei:切り替えましょう!】
ラウンド差はさらにつけられ、4-9となってしまう。
落ち着けと言われて落ち着けるのなら苦労はない。
だが、彼女たちは決して、諦めてはいなかった。
(大丈夫。内容は悪くなかった)
声呼は先のラウンドを振り返る。
最初に『DarkGuru』と『Comet』のコンビを落とした、それが彼女の心の支えになっていたのだ。
装備の差がない、単純な実力だけみれば、彼らとの差はそれほどないのだ。
そのことを再確認できたラウンドだった。
(ボクがあそこで負けてなければ!)
そう考える良瑠も、自省はすれど落ち込んでいるわけではなかった。
マウスから手を離し、二、三度ほど握ったり開いたりする。それから脱力し、手首を支点として手を左右に振る。肺に限界まで空気を取り込み、ゆっくりと吐き出す。
それが良瑠の行う、いつものルーティーンだ。それで落ち着ける、などという科学的な根拠はない。
だが結果として、良瑠の瞳には光が蘇っていた。
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