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攻守交代

 流れを止められた、どころの話ではなかった。

 それ以降、流れは完全にP高に奪われてしまった。


 平静さを取り戻した『DarkGuru』は、その力でやはりチームを牽引した。

 彼をカバーする『Comet』、裏のエース麗羅。彼女のカバーをするアリス。そして全員をまとめるリーダーの『Temp』。

 このチームとしての形が、ここへ来て完成したのだ。


 P高は次々とラウンド勝利を積み重ねる。

 前半を終了し、スコアはなんと4-8。

 攻守が交代するこのタイミングで、今女としてはなんとか仕切り直したいところだ。


「向こうのチーム・ワークがやっかいだね」


 真希波を中心に、今女『グラジオラス・ブーケ』は輪になった。

 ゲームの合間、この僅かな時間だけコーチと選手の会話が許されているのだ。


「『DarkGuru』と麗羅先輩が止めらんないですよ」


 友愛も珍しく、弱気な発言をしている。


「相手が乱れてくれたんだけどなぁ。持ち直したらしい。さすがにそんなに甘くはないか」

「で、真希波。なんか作戦でもあるのか?」


 樹那も眉間にシワをよせ、厳しい表情をしているが、真希波は余裕の笑みを浮かべている。


「こっから、こっちの攻撃でッスからね。あっちが得意なのは攻撃ッスが、うちらも得意は攻撃。やられたらやりかえしてやりましょうや」


 今女は互いの額がくっつくほど頭を寄せ合うと、真希波はからそれぞれに細かい指示がだされた。

 そうして気合を入れるための「オー!」という掛け声とともに、それぞれの座席に戻っていく。


(まだ気持ちは死んでないようですわね。少しは楽しませてくれるんでしょうか?)

 その様子を見て、麗羅は鼻で小さく笑った。



 後半最初はピストル・ラウンドだ。お互いに最低限の装備で飛び出していく。


 今女はベータを攻めた。P高もいち早くそれを察知し、守りを固める。

 今女は灑と樹那、P高は『DarkGuru』と『Comet』が倒れ、人数は三対三という状況。

 今女は友愛の出したギフト・ヴァンドで相手の視界を塞ぎ、なんとかロケット設置までこぎつけた。


【Seiko:解除されてる!】


 今度はP高側の出したスモークによりロケットが隠され、画面上には敵プレイヤーによる解除が始まったというメッセージが表示された。

 三人はそれぞれ、解除中の無防備な敵を倒すべく、設置場所に近づいた。

 しかし、それは当然に相手も予想している。


【Toa:箱の上! 気をつけて!】


 友愛が上から射撃され、ダウンした。

 スモークの上から見える高所に『Temp』が待機していたのだ。


 友愛のカバーをしていた良瑠は、報告を受けそちらを向いた。『Temp』の姿を視界に捉える。

 二発の弾を撃ったが、焦りからか外してしまう。


【Raru:あっ、ごめっ】


 対し、『Temp』は落ち着いていた。次の瞬間、良瑠は地面に倒れ込んでいた。

 普段の良瑠ならば、先手を取って撃ち負けることはほとんどない。

 4ラウンドの差。そういうプレッシャーはこういうところに出てくるのだ。


 スモークが消える前に、今度はアリスの使うコントラクター、フィローゾファのウォール・スフィアが展開され、解除中の麗羅を守った。


【Seiko:クッ! 見えない!】


 ウォール・スフィアを避けるにせよ、壊すにせよ、時間が足りない。

 そう判断した声呼は高所に上がるが、麗羅はウォール・スフィアのすぐ側にいたため、その姿は見えなかった。

 しかたなく、設置場所に向かって走っていく。

 それを待ち構えていたアリスと戦闘となったが、ここは声呼の反射が上回った。


 一対二の状況。だが解除は間もなく終了する。

 焦る声呼は、高所で待機している『Temp』の存在を失念していた。

 声呼のダウンとロケットの解除はほぼ同時だった。


 ラウンド・ウィン。その文字がP高のメンバーたちのディスプレイに映し出される。


【Jyuna:良瑠、落ち着いてこ】

【Raru:はいっ!】

【Jyuna:みんなも。次はエコで行くよ。負けてもともとだから、焦らないように】

【Seiko:わかりました!】

【Toa:おっけーっす!】

【Rei:切り替えましょう!】


 ラウンド差はさらにつけられ、4-9となってしまう。

 落ち着けと言われて落ち着けるのなら苦労はない。


 だが、彼女たちは決して、諦めてはいなかった。

(大丈夫。内容は悪くなかった)

 声呼は先のラウンドを振り返る。

 最初に『DarkGuru』と『Comet』のコンビを落とした、それが彼女の心の支えになっていたのだ。

 装備の差がない、単純な実力だけみれば、彼らとの差はそれほどないのだ。

 そのことを再確認できたラウンドだった。


(ボクがあそこで負けてなければ!)

 そう考える良瑠も、自省はすれど落ち込んでいるわけではなかった。


 マウスから手を離し、二、三度ほど握ったり開いたりする。それから脱力し、手首を支点として手を左右に振る。肺に限界まで空気を取り込み、ゆっくりと吐き出す。


 それが良瑠の行う、いつものルーティーンだ。それで落ち着ける、などという科学的な根拠はない。

 だが結果として、良瑠の瞳には光が蘇っていた。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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