コントラクター
しばらくゲーム解説があります。面倒な方は読み飛ばしても大丈夫です。
樹那はキーボードを叩き、相手チームのリーダーである麗羅にメッセージを送った。
【Jyuna:今日はまぁ、勝ち負けとか気にせず、基本的なルールを理解するためにこのまま軽く対戦してみようか】
相手からも了承のメッセージが届いた。
【Makina:いいんスかぁ? こっち一人多いッスけど?】
【Jyuna:だから、勝ち負けじゃないって言ってんだろ。練習だよ、練習。それに多いって言っても初心者だからな】
【Seiko:ところでキャラクターはどれにしたらいいんですか? 適当に選んじゃったんですけど】
【Jyuna:CEのキャラはコントラクターって言うんだけどな。ま、最初は理解するためにも全部使って欲しいから、どれでも好きなもん使ってくれ】
【Seiko:わたしが今使ってる、このコントラクターはなんて言うんです?】
【Jyuna:そいつはフーマって言って、素早い動きが特徴の――】
【Seiko:素早い動き!? わたし、これにします!】
【Jyuna:だから一通り……ま、まぁ、気に入ったんならそれでいいわ】
【Seiko:スキルってどう使うんですか?】
【Jyuna:スキルは最初から持ってるもの、買うもの、ダウンを取ると使えるもの、色々条件がある。アルティメットはマップに落ちているウルト・キューブを一定数拾わないと使えないから注意な。そのコントラクターの一番メインのスキルはアトリビュート・スキルっていってな、デフォルトキーは〈E〉だ】
声呼は言われた通りキーボードの〈E〉を押下してみた。
声呼の操るコントラクター、フーマは一気に急加速し前方に3メートルほど動いた。
【Seiko:うおおおお! すげぇ!】
【Makina:あはは! いいリアクションするなぁ、声呼は。それ以外にもスキルがあるから一通り使ってみな】
【Raru:真希波先輩、ボクのスキルは何です?】
【Makina:良瑠のコントラクターはナイトメアって言ってな。索敵に優れたスキルを持ってる。そういうコントラクターをリーコンって言うんだ。〈E〉を押してみな】
【Raru:なんか、ボウガンみたいなの出ました!】
【Makina:そそ、それでどっかに撃つと、そこから敵を検出する電波を出すんだ。敵がいそうなとこに撃つんだぞ】
【Raru:わかりました!】
【Jyuna:コントラクターの役割についてだけど、今言ったリーコンの他には先頭に立って攻めていくストライカー。それに続いて攻めたり、裏をとったりするバランサー。それから防御や回復に優れたディフェンダーがある。それらをバランスよく組み合わせるのが大事だ】
【Seiko:フーマはどれです?】
【Jyuna:そいつはストライカーだな。素早い移動スキルを使って敵地に入り込んで、ダウンをとらないといけないコントラクターだ】
【Seiko:おおお! やっぱ、コイツが良いです!】
声呼がそう叫んだ瞬間、彼女はその場に倒れた。
一瞬のことで何が起こったのか理解できない声呼は、そのまま静止してしまった。
【Jyuna:あらら。喋ってたらいつの間にか攻められてたな】
【Makina:よし、良瑠。やり返せ!】
【Raru:えええ!?】
敵がどこにいるのかも把握していない良瑠は、その場で右往左往している。
一方、ダウンしてしまった声呼は観戦モードとなり、良瑠の視点を見ていた。
【Seiko:良瑠、あっちだ。あの通路を曲がったとこ】
【Raru:どこ? どこ?】
あっちと言われても方向が分からない。
良瑠が相変わらず迷っていると、彼女もまた、そこに膝をついてしまった。
【Makina:やられた~。撃ち返して欲しかったなぁ】
【Jyuna:真希波、一年がやられちまったから、とっととこのラウンドは終わらせるぞ】
樹那チームがわざと全滅すると、ゲームは次のラウンドへ。
声呼は今度はキャッシュを使い、スキルを買ってみた。
150キャッシュで買えるタキノボリというものだ。
【Seiko:先輩、タキノボリっての買ってみました】
【Jyuna:それは普通のジャンプより高く飛べるスキルだ。例えばあの壁の上くらいなら乗れるぞ】
声呼はその壁の側に行き、〈C〉キーを押した。
するとフーマは下から強風で吹かれたように浮かび上がった。
方向キーで調整し、壁の上に来るように空中で移動してみると、見事に壁の上に乗った。
(なるほど、これで高所を取れるわけね)
FPSにおいて高所を取ることはとても重要だ。それはアリーナ系をやり込んできた声呼にはよく分かっている。
ちょうどよく敵の姿が見えたため、その場からハデスで撃ってみる。
CEは初心者でも、長年鍛えた彼女のエイム力は、一年ながらすでにチームでもトップを狙えるほどだ。
もっと早い動きの敵を撃ち倒してきた彼女にとって、CEのキャラの動きはあまりに鈍かった。
敵は少し遠い位置にいたものの、彼女の弾は見事に頭に命中した。
ダウンを取ったことによる効果音が再生され、画面の右上にはログが表示された。
その瞬間、声呼の体に電気が走った。
その快感はアリーナ系にも匹敵するものだった。
ただの一発。
それで倒せたのは頭に当てたからだ。アリーナ系では一発で倒すなどほとんどありえない。
(このゲーム、面白いじゃん!)
一度は辞めようと考えていたことなど、彼女の頭からは綺麗さっぱり消え去っていた。
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