流れ
今女はさらに1ラウンド取り、4-3と逆転に成功した。
流れは完全に今女のものである。
【Riley:次はベータを攻めましょう】
【DarkGuru:んなことしたって、勝てんのかよ!】
【Temp:いや、この流れは変えるべきだ】
(『DarkGuru』を頼りにしていましたけど、いざってときは『Temp』のほうが役立ちますわね)
単純な戦闘力なら『DarkGuru』に軍配が上がろう。
だがこう精神面で不安定では話にならない。
麗羅のなかで、彼の評価は急降下していた。
ベータ攻めに転じ、『DarkGuru』は先頭で進んでいく。
その後ろをアリスがサポートしていた。
が、その動きは読まれていた。
【Jyuna:なるほど真希波の読み通りか】
【Seiko:本当にベータに変えてきましたねぇ】
ここまでのP高の試合を見ての予想ではない。
麗羅の性格を読んだのだ。
(そう来ると思ったよ)
メンバーの背後で試合を見る真希波は笑みを浮かべた。
【DarkGuru:だから言ったろうが!】
『DarkGuru』は良瑠を倒したものの、カバーに入った声呼、友愛によってアリスごとダウンさせられてしまう。
またも、怒りを顕に拳を突き上げるが、まだ試合中ということを思い出し、それをゆっくり下ろした。
デスクに打ちつければ、微細な振動で試合に影響を与えるかもしれないからだ。
その程度の理性はまだ彼にも残っていた。
四対三の人数不利。
今女は全員でベータの守りを固めている。
ここで『Comet』はウンゲツィーファーのスキル、ギフト・ヴァンドを使用した。
視界を遮る毒の壁を作り出すスキル、それをベータを中央から分断するように設置した。
それにより奥にいた樹那は孤立する形になった。
一時的に三対三の状況を作り出したのだ。
相手がエントリーしてくることを予想し、樹那はギフト・ヴァンドのすぐそばまで詰めた。
他の三人は、敵が入ってきにくいよう、威嚇射撃をする。
P高が攻めあぐねていると、ギフト・ヴァンドが時間切れにより消滅してしまった。
だが、次の瞬間、麗羅から灑がダウンを奪われた。
敵がエントリーしてくると予想し、わずかにピークしたところを狙撃されてしまったのだ。
体を出してきた相手の頭を狙う、そのスピードは一級品だった。
灑ですら、どこから撃たれたのかわからなかったほどだ。
【Rei:う、撃たれました! どっかから狙撃!】
【Jyuna:オーケー。狙撃に気をつけろ。迂闊に体を出すな】
その間に、『Comet』はギフト・ニーベルを使用した。これは触れば毒のダメージも入るスモークのようなものだ。
ギフト・ニーベルに身を隠し、ロケットの設置に成功。そのまま退避した。
声呼は毒ダメージを気にせずに飛び込み、勝負をかけたが、そこはすでにもぬけの殻だ。
【Seiko:中には誰もいません】
【Jyuna:解除する。二人はカバー】
【Toa:ラジャ!】
相手のスキルが都合よく、こちらにとっても目隠しとして機能していた。
それを利用し、解除してやろうと試みたのだが、この判断は失敗だった。
解除する樹那の足元に、何かが転がってきた。
『Temp』が中にグレネードを投げ込んだのだ。
【Toa:ヤバッ!】
気づいた時には遅かった。
解除中の樹那と、カバーする友愛が爆風に巻き込まれ、一気に二人が落とされた。
【Seiko:だったら、やるしかないっ】
この時点で一対三と人数は逆転されてしまった。
解除しようにも、カバーをしてくれる味方もいない。
なれば、相手を全滅させる他に勝つ手段はない。
声呼は捨て身でロケットを包むギフト・ニーベルに突っ込んだ。
やはり誰もいないので、ロケットを通り越し、向こうまで抜けると、そこで『Temp』と鉢合わせしてしまった。
この勝負は声呼が勝った。
『Temp』は突っ込んでくることを予想していなかったのだ。構えるより先に、声呼の弾が飛んできた。
【Temp:ダウンした!】
【Riley:見えていますわ】
だが、その様子は麗羅のスコープが捉えていた。
眼の前の敵を倒し、一瞬、気が緩んだ。その声呼の頭を弾丸が通過する。
最後の声呼を仕留め、これによりP高がこのラウンドで勝利を収めた。
【Temp:ナイス!】
これで4-4と再びならんだ。
勢いに乗られそうなところを止めたのは、P高にとって大きかった。
【Riley:まだまだ。相手も諦めてはいませんわ。気を引き締めていきましょう】
【DarkGuru:その……なんだ】
【Riley:何か?】
【DarkGuru:さっきはすまなかった。イライラしちまって】
【Riley:いいえ。気にしてませんわ】
(反省できるだけの脳はお持ちのようですわね)
麗羅は内心ではそんなことを思っていたが、当然、口に出すことはしなかった。
横目でアリスを見ると、彼女もこちらを見て微笑みを返してきた。
麗羅は右手の指で、眼鏡の位置をすこし上げた。
感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。