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研究

 興奮のあまり寝付けなかったということもあるが、灑は深夜にPCの電源を入れた。

 今日の試合を振り返り、眠くなったらベッドに入る。しかし眠れないのでまた起きてPCをつける。

 これをもう、何度繰り返しただろうか。


(明日のために寝なきゃ……)

 そう考えれば考えるほど、余計に目が冴えてしまう。

 もう何度目かわからないが、麗羅がダウンを奪ったシーンをじっくりと見直す。


 しばらく見ていると、GATEにメッセージが入ってきた。


【Jyuna:まだ寝ないの?】

【Rei:先輩こそw】


 GATEでは、フレンドがオンラインになっているとわかるようになっている。

 何度もオンラインになっている自分を見て、樹那が心配したのだろう。


 しかし、それを見ているということは樹那も眠れていないということだ。


【Jyuna:いやー、緊張しちゃってさw】

【Rei:先輩でも緊張なんてするんですね】

【Jyuna:当たり前だろ、人をなんだと思ってんだ?w】


 自分と同じく、眠れない夜をすごす樹那を思い、少し安心した。

 フレンドのリストを見ると、他のメンバーはオフラインを表す濃いグレーの表示になっている。


【Rei:試合を見返してます。もうしばらくしたら眠る予定です】

【Jyuna:ほどほどになー。ウチももう寝るよ】


 その宣言通り、樹那の表示も暗く変わった。

 寝たかどうかはともかく、ログアウトはしたようだ。

 また試合動画に集中、しようとした矢先、今度は自室のドアを叩く音がした。


「はい」


 小さく返事をすると、暗い部屋に光が一筋、入り込んできた。

 その光が太くなっていくと、光の中から母が顔を出してきた。

 顔は灑の二十年後、という感じだが、髪は邪魔になってしまったのか短くしている。目は半開きで半分寝ている様子だ。


「灑、いつまで起きてるの? 明日、大事な試合なんしょ?」

「うん。でも午後からだから、朝はゆっくりなんさ」

「そう。ならいいけど。でもうるさいから、静かにしなさい」


 灑の部屋は一戸建ての二階部分にある。

 両親の寝室は一階だ。そこまで大きな音を出した覚えはなかったが、夜なので響くのかもしれない。


「わかった。おやすみ」


 再びPCのディスプレイの明かりのみとなった暗い部屋で、灑は手探りでイヤホンを探した。

 有線のもので、普段は使用しないのだが、こういうときのために一応、用意しているのだ。

 またしても手探りでピンをジャックに差し込む。


 再び動画を繰り返し、繰り返し見ていると、灑はあることに気づき、動きを止めた。

 そしてもう一度、麗羅の好プレイの場面を見直した。いや、正確には見なかった。

 目を完全に閉じたのだ。そして意識を集中する。

 なにかに気づいた灑は、その閉じた目を大きく見開いた。



「したっけ、音だったんですよ!」


 会場へ向かう電車の中、灑は興奮して語っている。

 樹那たちは互いの顔を見合わせた。皆、いまいち腑に落ちない表情だ。


「音は確かに重要なんだけどさ。知ってると思うけど、あの場所じゃそうとう聞きにくいぞ?」


 樹那が言うように、会場は騒音が酷く、ゲーム音がかなり聞きにくくなる。

 当然、ノイズ・キャンセリング機能つきのヘッド・セットはしている。だが、あの大歓声は防ぎきれるものではない。


「それはまぁ、そうなんですけど……でも、そうとしか考えられないです!」

「音、か……」


 真希波は腕組みし、思考を始めた。

(確かに、それなら説明つくかも)

 声呼も昨日の試合を思い浮かべた。

 樹那がダウンを奪ったシーン、確かに足音が聞こえる範囲だったかもしれない。


「先輩の言う通り、あんなんじゃ音なんて聞きにくいじゃん。お互い使ってる機材は同じだし、同条件だから別に文句はないけどさ」と友愛。

「確かに。マウスとキーボード意外は自前の機材はダメだったよね」それは声呼も覚えている。


 真希波はなにか決心したかのように、顔を上げた。


「よし。なんでだか理由まではわからんが、ともかく音だと仮定しよう。その上で、対策を練るぞ」

「対策? できるのか?」

「ええ。みんな知っての通り、歩けば音は小さくなる。危なそうな場所は歩くんだ」


 CEのコントラクターは、走って移動すると大きな足音を出す。

 歩くことで足音が小さくすることができるのだ。デメリットは遅くなること。


「それじゃ、素早い攻めができないじゃないですかぁ。それがわたしたちの売りなのに」声呼は不満げに口を尖らせた。

「そんな売りだったかぁ? ま。大事なとこだけよ。つまり、弾が貫通するところ付近だけ。最低限、そこだけは歩くようにしよう」

「ま、コーチの言うとおり、まずそれで様子見るか。声呼、いつもの癖で突っ走るなよ?」

「わかってますよー!」

「大丈夫かぁ? 良瑠。注意しておいてくれ」

「はい!」

「はい、じゃないよ! 良瑠!」


 声呼は良瑠の肩を音が響くほど叩いた。痛みで良瑠の顔がゆがむ。

 肩をさすりながら言う。


「それでなくとも声呼ちゃんはちょっと、危なっかしいからね。今日は慎重にいこ」


 それに大きくうなずく友愛。


「それな。特に最初は気をつけて! 声呼、すぐ突っ込むから」

「友愛までなんだよ!」


 声呼は頬を風船のように膨らませたが、その他のメンバーは声を出して笑っていた。

 窓の外には会場となるお台場ハイパーアリーナの、巨大な六本の柱が斜めに突き出ている、特徴的なデザインの屋根が見えていた。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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