圧勝劇
麗羅の秘密を見つけなければ勝ち目はない。
真希波はそう考えていた。
単にダウンさせられる、というだけではない。
どこに身を隠そうが、麗羅には通用しない、そのように思いながらでは動きに制限が出てしまうからだ。
焦り、怖気づき、いつもできることができなくなる。そうやってどんどん追い詰められていってしまう。
事実、今の松原がその状態だ。
「まただ……」
声呼はつぶやいた。壁の裏にいた敵を、麗羅がダウンさせたのを見たのだ。
全ての壁を弾が貫通するわけではない。厚みが十分にある壁はできない。
そのような安全な場所に身を隠していた松原の選手が、薄い壁の前に歩み出たとたん、麗羅の銃撃が飛んできたのだ。
「カンがいい。ってだけじゃないな、こりゃ」
樹那は腕組みし、今何が起きたのかを考察している。
彼女だけではない。全員が試合を注視している。
「絶対に位置をつかめているわけじゃないみたいだね。何かの理由で気づかない場合もあるみたいだ」
真希波の言うように、撃ち抜ける壁の裏にいる敵を見過ごしているときもあるようだ。
それは一筋の希望ではあるが、同時にやはりチートではないという証拠にもなりうる。
しかしP高と戦うにあたって、問題となるのは麗羅だけではない。
麗羅につぎ、多くのダウンを奪っていたのが『DarkGuru』だ。
勝利した瞬間、両隣の選手と拳を突き合わせる『DarkGuru』の姿が映し出された。
その口から「よっしゃぁ!」という雄叫びも発せられている。
「やっぱ、男……だよねぇ?」
その声はどう聞いても男性のものだった。友愛は声呼に同意を求める。
「うん。だね」
となると、なぜあの時、あの大会にいたのだろうか。
疑問は残るが、今はその件に心を煩わせている場合ではない。
なんとか彼らを崩す穴を探さなければ、次に松原のような惨状になってしまうのは自分たちだ。
アリスは麗羅のサポートとして変わらぬ優秀さを見せていたし、『Comet』も相変わらず要所で活躍している。
さらに、情報の少ない『Temp』もかなりいい選手だ。まるで隙が見当たらない。
「まさかのストレート、か」
実力伯仲と思われていた両チームの戦いは、P高校の圧勝で幕を閉じた。
第1ゲームは13-2。第2ゲームは13-3である。
(あの松原が、こんなに……)
かつて声呼を苦しめた相手がこうも圧倒的に負けるということは、彼女にとっても衝撃だった。
心の中にできつつあった強固な城壁が音を立てて崩れていくようだった。
「さて、そんじゃ挨拶にでも行きますか」
言って、樹那は立ち上がった。
「挨拶? 誰にッスか?」
「決まってんだろ。明日のウチらの相手、P高『Soutermination』にだよ」
「ええー!?」
叫んだのは真希波だけではない。声呼、友愛、そして良瑠すらもだ。
灑はよく分かっていないのか、その様子をきょとんと見ている。
「いやいやいや、そりゃ気まずいッスよ!」
「なんでよ? かつての仲間だろ」
「いや、だからッスよ! なんて声かければいいんスか!」
「なんだ? そんなら真希波は来なくていいぞ。他に誰か行くか?」
「ボクは行きます」
良瑠だった。
友愛と声呼は、口をだらしなく開けて立ち上がった彼女を見上げた。
「良瑠!? 良瑠こそ気まずいんじゃないの?」声呼は良瑠の袖をつかんだ。
「そうだよ。あの二人に誘われて、断ってんでしょ?」反対の袖は友愛がつかむ。
「うん。だから、自分の中でけじめをつけたいんだ。そうしないと、明日きちんと戦えない気がする」
そんな良瑠の顔を見て、樹那も一つうなずいた。
「声呼。友愛たちも行こう」
「友愛!? な、なんで?」
「あいつらだよ。『DarkGuru』と『Comet』。あいつらが男なのかどうか、ハッキリさせようよ」
「えー!」
友愛がそのことを気にしていたとは、声呼は思いもよらなかった。
見れば友愛は口を曲げ、眉を吊り上げ、目を鋭く三角にしている。
「友愛さ、ああいうの許せないんだよ。女性限定っていってるのにさ、そのルール破るなんて」
「まぁ、それはそうだけど。小さい大会だし、そういうのも紛れちゃうんじゃない?」
「たまにいるじゃん、女性専用車両にわざと乗ってくるおっさんとかさ。許せないんだよね!」
「え。ま、まぁいるけど、それは今は関係ないんじゃ……」
「ある! バシッと言ってやんないと!」
友愛の鼻息は荒い。
だいぶ興奮している様子だ。
「こうなったら声呼も来ないとな」
「なんでですかぁ!」
「友愛が暴走しそうだったら止めるんだよ。頼んだぞ」
「なんですか、それぇ!」
樹那からわけのわからない役目を押し付けられ、声呼も行くことになってしまった。
威勢よくドアを開け、大股で堂々と歩んでいく樹那。
それに続いて肩をいからせ、歩く友愛。
彼女らに比べれば一見、普通だが、その後ろに続く良瑠の顔もいつになくこわばっている。
(い、行きたくねぇ!)
数歩遅れて、イヤイヤと声呼もついていった。その顔は苦い薬でも口に含んだかのようだった。
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