新パターン
やはり初戦を勝ち上がり二回戦目の相手となったのは、バロック大阪高等学校『Burning』であった。
ランクで言えば今女の方が上だが油断してはならない。事前にそう話し合っていた相手だ。
試合は今女がやや優勢ながらも、かなりの接戦となっていた。
【Seiko:やっぱカンタンにはいかないね】
【Makina:予定通り、新パターンを試してみるか。決勝までとっておきたかったけど、しゃーない】
おそらく、このままでも勝てるだろうというのが真希波の予想だ。だが万が一ということもある。
思いのほか苦戦している理由は明らかだった。それは、相手がこちらの対策をきちんとしてきているからだ。
ここまでの勝ち上がってくるということは、公のもと行われた試合数もそれなりになる。
お互いに、手の内は隠しようがないのだ。当然、こちらがそうするように相手も対策も練ってくる。
(新パターン、アレか……)
声呼は不安だった。確かに練習は何度もしてきたが、果たしてこの本番で通用するのかどうか。
前半の防御側が終了し、ここまで7対5で2ラウンド勝ち越している。
この場面で、そのリスクを負うのは正しいのだろうか。
【Raru:よろしくね、声呼ちゃん】
【Seiko:うん。背中は任せるよ】
新パターンとは攻撃時、戦力を二つに分ける作戦だ。
一つは突破力に優れる声呼と良瑠を組ませる。
もう一つは、それぞれに弱点を補い合える残りの三人で組む。
真希波の計算では、これで戦力は同程度になるとのことだった。
【Makina:声呼たちはアルファへ。アーティファクトは良瑠が。樹那パイセンたちはベータね】
【Jyuna:了解】
【Seiko:分かりました】
アーティファクトを持っている方をメインとしているが、どちらかが制圧に成功した場合は、そちらに集まることになっている。
【Seiko:ショートから行く】
【Raru:オーケー】
声呼は始めると同時に迷いなく最短ルートを素早くクリアリングしつつ進んだ。
良瑠はその後に続き、声呼の手が回らないであろうところを注意しつつ、カバーしている。
アルファの外にいた敵一人を一瞬で倒した声呼は、そのままアルファへ入る入り口から中を覗きつつ通過し、向こう側まで渡った。
良瑠はそのまま手前側で待機する。
【Seiko:同時に行こう】
【Raru:いいよ。せーのっ!】
良瑠の掛け声と共に二人は同時にエントリーした。ダブル・ピークである。
声呼はハッソウを使い、大胆に行ったのに対し、良瑠は通常のピークだ。
その入り口を見張っていた敵は一人、声呼に気を取られ、そちらを向いた瞬間に良瑠からダウンを奪われた。
さらに奥にもう一人いたが、そちらは声呼が持ち前の撃ち合いの強さで難なく倒す。
二人は内部をクリアリングしたが、他の敵は見当たらない。
【Seiko:アルファ、クリア】
【Raru:設置します】
【Makina:了解。みんなアルファへ】
【Jyuna:よし】
このラウンドは新パターンが気持ちよく決まり、勝利をおさめた。
(うん、敵も焦ってるな)
声呼もホッと胸を撫で下ろす。
これまで無かった攻め方、しかも虚を突くためハイ・スピードだったため、敵の対応が遅れたのだろうと考えた。
だが勝因はそれだけでは無かったらしい。
【Seiko:また一緒に行くよっ】
【Raru:うん。さん、にー、いち、ごー!】
二人の組み合わせの相性が、本人たちの想像以上によくなっていた。
練習でも手応えは感じていたが、なぜかその時よりも遥かにスムーズになっている。
最小限の伝達をするだけで、相手が何を望んでいるのかお互いに理解できた。
(何でだろ。今日は上手く決まるなぁ)
それがなぜなのか、声呼にはまったく分からなかった。
【Jyuna:ナイス! 次もいくよ!】
【Toa:みんな、ナイスー!】
作戦が上手くハマると、チームのテンションも高まっていく。
気づけば今女は2ラウンド、3ラウンドと連取していた。
【Jyuna:そろそろパターン変えるか?】
【Makina:いえ、上手くいっているうちは変えないでいきましょう】
同じことを続けていけば相手も対応してくる。
当然、バロック大阪高等学校『Burning』も臨機応変に対処できるだけの力はある。
だが彼らでも、声呼と良瑠のコンビを止めることはできなかった。
【Seiko:良瑠っ】
【Raru:いいよ!】
もはや、彼女たちの連携は以心伝心と言っていいほどのものになっていた。
それゆえ、プレイングのスピードも早まっていく。
もはや、見てから動く、考えてから動くという対応では間に合わない。
『Burning』も二人の動きを予想し、待ち構えてはいる。
しかし、二人はその予想を軽々と超えてみせた。
終わってみれば、後半は6ラウンドを一気に取り、第1ゲームを勝利した。
この作戦の強さを確認した真希波は、第2ゲームからそれをあえて封印した。
そのせいで苦戦することにはなったが、13-11でなんとか勝ちきり、今女は準決勝を2ゲーム連取でストレート勝利したのだった。
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