オンライン
オンラインでの対戦の前に、まずはGATEにログインする必要がある。
CEがGATEの上で動いているからなのだが、コミュニケーション・ツールとしてもGATEは有用だった。
あらかじめIDを交換し、フレンドとなっていた今女CEチームは、樹那のルームに招待された。
ルームはGATE内の仮想空間にある自分の部屋で、アカウントを作成すれば無料で提供される。
課金すれば内装に凝ることもできるし、広くすることもできた。
初期のルームは六人が定員だったので、樹那は少し課金して七人入れるようにした。
声呼は招待を受理し、ルームにジョインすると、そこは飾りっ気のない、簡素な部屋だった。
色程度なら無料で変えられるというのに、壁も天井も床もグレー一色。
家具一つないそこはルームというより巨大な箱の中という感じだった。
他のメンバーも次々とジョインしてくる。
【Jyuna:ゆっくりしてね。つまんない部屋だけど】
【Makina:ホント、いつ来てもつまんない部屋ッスね!】
【Jyuna:うるせーぞ! 真希波! どうせこんなとこ使わないんだからこれで良いんだよ】
プレイヤーは仮想世界においてアバターという仮の姿を使うのが普通だ。
だが、彼女たちは現実世界とまったく同じ顔に、今女の制服という出で立ちだった。
今女のeスポーツ部は入部と同時に3Dスキャンし、本人と同じアバターを作成する。そしてそれを使用することを義務付けられていた。
今女は競技者としての責任感を養うため、偽の姿での活動を禁じていたのだ。
女性はネットで活動するにあたり身元を隠さなければ危険だ、というのは過去の話だ。
GATEではあらゆるハラスメントに対し厳しい罰則が規定されていた。
ハラスメントを受けたものは報告することができ、報告が複数あったユーザーはアカウントを削除される。
それはもはや、永久にGATEで活動できないことを意味した。
【Jyuna:七人いるから、三対四に分かれて基本操作を練習するぞ。ウチと真希波で二人面倒みるから麗羅とアリスで一人教えてやってくれ。そうだな、お前とお前はウチのチームな】
樹那はそう言って声呼と良瑠にパーティーの招待を送ってきた。
(お、ボクっ子とか)
例のボーイッシュだ。ふと声呼が見ると、笑顔のエモートを返してきた。やはり中身は女の子らしい。
【Jyuna:よし、ではロビーに移動する。カスタム・ゲームを作るから待っててくれ】
樹那がそう言うと、世界は一瞬にして闇に包まれ、視界の中央にCEのロゴが映し出された。
ゲームの起動が始まったのだ。
ロビーというのは待ち合わせ場所のようなものだ。これから同じゲームをするメンバーはそこに集合する。
そして独自のルールを設定できるカスタム・ゲームをリーダーが作成する。大会は決まったルールで行われるが、今回は練習ということで、制限時間無し、味方へのダメージ無し、という変更を加える。
そして、いよいよゲームが始まった。
青チームにはJyuna、Makina、Seiko、Raru。赤チームにはReira、Alice、Toaの名前が並んでいる。
全員が本名なのも学校の方針によるものだ。
マップのロードが終わると、中南米の港町のような景観が現れた。
背後には美しい海もある。
【Jyuna:良瑠は初心者だったな。と言っても基本操作くらいはチュートリアルでやったよな? キーボードのWで前身、Sで後退、Aで左、Dで右。動いてみな。そうそう。スペースでジャンプ。大丈夫そうだな。視点移動はマウスな。その場で一回転してみ? うん、うまいうまい】
声呼がCEを気に入ったのは、キーボードとマウスによって操作するという、伝統的なスタイルだったからだ。昨今ではVRで銃を模した形のデバイスを構えたりする本格的なゲームも存在した。コントローラーでプレイする者も増えた。だが彼女はFPSはキーボードとマウスでやるもの、という強いこだわりがあった。
そしてこういう基本動作はこれまでやってきたアリーナ系と変わらない。
すぐに対応できるだろうという自信があった。
【Jyuna:声呼もOKだな。じゃ次に武器を購入してみようか。Bキーを押してみて】
この点は声呼の気に食わないところだった。
FPSの武器なんて買うものじゃない。その辺に落ちてるものを拾って使うものだ。そういう思いがあった。
【Jyuna:最初から持ってるのはハンドガン。キャッシュは800持ってる。ラウンド勝利で3,000、敗北だと1,900。あとは1ダウンごとに200入る。細かい事はまた後で教えよう。まずは一番安い武器、ジュノーを買ってみよう。150キャッシュだ】
ジュノーは小さなショットガンだ。
CEではメイン・ウェポンとサブ・ウェポンの二種の武器を携行することができる。
そこも声呼は好きではなかった。
武器など全部持てるもので、それらを状況に応じて使い分けるものだという考えだ。
樹那は二人がきちんジュノーを持っていることを確認した。
【Jyuna:じゃ、壁に向かって撃ってみようか。マウスの左クリックな】
声呼と良瑠は言われたとおりにした。
壁に弾痕が残り、少しすると消えていった。
【Jyuna:じゃ、左に走りながら撃ってみよう】
声呼はそのようにしたが、狙っているところとまったく違うところに着弾した。
(な、なにこれ!)
【Jyuna:狙ったところに当たらなかっただろ? これが銃の反動だ。走りながらだとまともに当たらないんだ。なので、足を止めて撃つ必要がある。これをストッピングという】
(ちょっと、冗談でしょ……)
声呼はだんだんこのゲームが嫌いになってきた。
あまりにもアリーナ系と違いすぎる。
(止まって撃つって、相手も止まってるってことでしょ? そんなの何が面白いの? お互いに高速で動きながら撃ち合うのが面白いんじゃん!)
声呼は早くも、チームを抜けようか悩み始めていた。
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