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メディア対応

 大会まで一ヶ月を切った。


 『グラジオラス・ブーケ』の面々もより一層、練習に熱が入っていた。

 だからこそ、樹那も不機嫌になろうというものだった。


「なーんで、こんな忙しいときに、こんなことやらなきゃいけないんですか?」


 眉は釣り上がり、眉間には深い溝が刻まれ、腕組みした右手の人差し指はリズムを刻むように自らの腕を叩いている。

 顧問、元谷が相手でも、樹那はイラつきを隠そうともしない。


「ま、まぁまぁ、谷口さん。これも大事な部活動ですよ」


 樹那に上座を譲り、立っていた真希波は背後から言った。

 いつもの席に座る残りのメンバーは、その様子を固唾を飲んで見守っていた。


「これの、どこが、部活動なんですか!」


 樹那は机に手を叩きつけた。

 機材などをセッティングしていたスタッフ達も、その音に驚き、何事かと振り返る。


「樹那先輩、しょうがないッスよ。こっちも部費貰って活動してんスから。ちったぁ役立たないと」

「売名にかぁ? ったく、学校も商売上手なこった」

「いやいや、メディア対応ってもんッスよ。これは大会側の規約でもあるんで、断れないんス」

「そ、そうそう! 暁さんの言う通り。主催者による取材に協力すること、ちゃんと書いてあったでしょ?」

「だったらもっと早めにやって欲しいもんですねぇ。こっちは大会間近で寸刻も惜しんで練習してるんですから」

「申し訳ありません。お忙しいことは重々承知しているのですが……」


 申し訳なさそうに頭を下げたのは、ベージュのスーツに首から社員証かなにかをぶら下げた女性だった。

 紺色のハイヒールを履いているとはいえ、それを脱いだとしても平均的な男性の身長くらいはありそうだ。

 髪の毛など邪魔なだけと言いたげなショート・ヘアは耳が完全に出るほど短い。

 それでいて鋭い目つき、キリッとした直線的な眉、高くまっすぐな鼻筋にシャープな輪郭をしているのだから、人によっては美男子と身間違ってしまうかもしれない。


「谷口さん。こちら毎朝新聞の――」

「毎朝新聞社、新規事業グループ、eスポーツ担当の田名部(たなべ)と申します」


 田名部がじっと見つめてくるので、仕方なくという風に、樹那も頭を下げた。


「下今女学院、eスポーツ部シューター部門、CEチーム『グラジオラス・ブーケ』のリーダー、谷口樹那です」


 すると田名部は結んでいた口を開き、白い歯を見せた。


「今日はよろしくお願いします。楽しみにしていたんですよ。なんせ、今女はどの部門も女性だけのチームですから!」


 樹那ですら、心を奪われかねないほど魅力的な笑顔だった。

 その破壊力で、先程までの勢いを完全にそがれてしまう。


「は、はぁ……」

「さ、まずは写真撮影をちゃちゃっと終わらせちゃいましょう。私もすぐにお話を聞きたいので」


 田名部が目配せすると、カメラを抱えた男性がうなずき、フラッシュを光らせた。


「ゲーム画面を開いて、いつも通り、リラックスした感じでお願いしますよ」


 彼の指示通りしようとするが、リラックスとしろというのは無理がある。

 全員、関節が錆びついてしまったかのような動きだ。


「プレイ風景はこんなとこでしょう。続いて、インタビューよろしいですか?」


 元谷に案内され、一行は今度は隣の空き教室へと移動した。

 席を八つ組み合わせ、田名部、樹那、真希波、声呼が並んで座り、向かいには元谷、良瑠、友愛、灑が座った。


「今女は全部門が決勝大会へ進出していますが、その強さの秘密はなんでしょう?」

「他の部門のことは知らないですけど、やはり、こういう設備が整っていることが大きんじゃないかと思います」


 主に樹那が答える。


「みなさんは女性というだけでなく、四人が一年生というのも凄いですよね。これはなぜですか?」

「あ、それはもともと二年がいないってだけッス。唯一の二年だったアタシもコーチに転向しましたし」

「あ……そ、そうそう。コーチがいるっていうのも珍しいですよね。今回、決勝に残ったチームではここだけですよ。これはプロを参考にされたんですか?」

「いや、そういうわけではないですね。単に真希波……暁の希望によるものです。な?」

「ええ。どう考えてもこの一年たちのがアタシより上手かったんで。それにアタシはデータ収取のが得意ッスから」


 田名部はうなずきつつ、手元のパソコンのキーを叩いた。

 その側に置いてある、銀色のボイス・レコーダーも回しているようだ。


「私も女ですので気になるのですが、男子に混じって試合をするというのは不利だと思いますか?」

「うーん。普通のスポーツであれば体力勝負なので、当然そこの差は出てしまうと思いますが、eスポーツはそういう壁は低いほうですよね。みんなどう?」


 声呼たちは無言でうなずく。


「皆さんもどんどん、発言してもらっていいんですよ?」


 そう言われても、と困った顔で一年たちは互いの顔を見合った。

 話を振られたので一つ、二つは何か答えた気がしたが、声呼は緊張のあまり何を話したのかまったく記憶に残っていない。


 そんなインタビューは毎朝新聞紙上にカラーで掲載される他、ネットでも公開されるらしい。

 このことは絶対、親、親類には黙っていようと思った。が、新聞に載ったという話はあっという間にどこかから親まで伝わってしまった。全国紙の力を甘く見ていたようである。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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