大会へ向けて
冬休み中に全体練習をしようということで、『グラジオラス・ブーケ』はオンラインで集まった。
以前のように樹那のルームに集まったあと、パーティーを組んでオンラインのランク・マッチへ。
真希波はそれぞれと画面共有し、ボイス・チャットで参加する形だ。
【Jyuna:全員でランク行けるっていいねぇ】
ランク差が大きすぎるとパーティーでランク・マッチへ行くことができない、というのがゲームの仕様だ。
高ランク帯の者が協力し、低ランクの者のランクを、実際の実力以上に上げる行為を防ぐためだ。
最初の頃は一年はランクが低すぎ、樹那や真希波と一緒にできなかったのだ。
その制限が無くなったということを樹那は喜んでいるようだった。
【Makina:ただし、相手も強くなりますんで、お気をつけて】
【Jyuna:分かってるって】
公平性を保つため、一方のチームにパーティーがいる場合、同じ人数のパーティーを組み込んだチームと対戦するようになっている。
『グラジオラス・ブーケ』は五人全員がパーティー、いわゆるフル・パーティーという状態だ。ということは、相手も同ランク帯のフル・パーティーになり、当然、互いの動きを合わせた強敵がくることになる。
【Seiko:一人、やりました!】
攻撃側の『グラジオラス・ブーケ』、早々に声呼がダウンを奪った。
(なんだか大したことないなぁ?)
あっけなくダウンを取れ、拍子抜けする声呼。
【Toa:友愛もやりました!】
声呼の後ろに付いた友愛が続けて入り込む。
さすがに無防備すぎたか、真正面から敵をかち合ってしまう格好になったが、友愛はまったく被弾することなく、撃ち勝った。
(あら? なんか相手、反応悪いなぁ)
敵を視認してから撃つまでのスピード勝負で友愛が圧勝したため、拍子抜けしてしまう。
【Jyuna:よし。全員アルファへ】
二人の報告を受け、アーティファクトを持つ樹那とベータの様子を見に行っていた良瑠と灑もアルファへ向かう。
樹那はロケット設置を済ませると、敵が入ってきそうな通路から死角になる場所へ身を隠し、待機する。
敵もリテイクを狙ってくるが、その動きはまるで連携が取れていない。
せっかく味方が使ったスモークを生かさず、見当違いの場所から飛び出した敵を樹那が撃つ。
さらにスモークから姿を見せた敵を続けてダウンさせる。
【Jyuna:二人、ダウン】
【Makina:お、先輩。腕は衰えてないッスねぇ】
【Jyuna:いや、本調子とは程遠いな。相手が連携できてないだけだ】
【Seiko:確かに。松原と比べたら、手応え無いですね】
【Jyuna:ま、そう言ってやるな。即席パーティーなんだろ、多分。一人ひとりは決して弱くないから油断するなよ】
CEはチームでやるゲームである。したがって、SNSなどでは盛んにパーティー募集が行われている。
そのような突発的に組まれたバーティーでは、『グラジオラス・ブーケ』のように大会に照準を合わせ、日頃から連携の練習をしている者たちの力には遠く及ばない。
残った一人は多勢に無勢と無理にアルファへは来なかったが、隠れているところを灑が見つけ出し、ダウンを奪った。
パーフェクト・ゲームである。
【Rei:やりましたー】
【Toa:ナイスゥ!】
【Jyuna:おー。噂には聞いてたけど、灑、やるねぇ】
【Rei:いえいえ。まだまだです】
【Jyuna:ウチもうかうかしてらんないなぁ】
【Makina:そうッスよ。先輩なんか、すぐ追いつかれるッスよ】
【Jyuna:ふふ。どうかな?】
【Makina:お? なんか秘策でもあるんスか?】
【Jyuna:ウチはもう、進学が決まってる。そして三年はもう自由登校なんだよ。つまり、練習する時間はいくらでもある!】
【Toa:えー! いいなぁ!】
【Seiko:一日ゲーム三昧? 羨ましい……】
【Toa:声呼! 友愛達も推薦狙おう!】
【Seiko:それだ!】
【Raru:いや、今の二人の成績じゃ、ちょっと……】
【Rei:良瑠、そんなハッキリ言ったら悪いよ】
【Toa:なっ! ひどっ!】
【Seiko:クッ! 二年からちゃんと勉強するぞ!】
【Makina:すぐに始めろ、バカタレ!】
そんなやり取りに、一同は大きく笑った。
良瑠は笑っている自分に気づき、ハッとした。こんなに笑ったのはいつぶりだろう。
思えば、こんな風に仲間で力を合わせゲームをする、そんな希望を持ってこの学校、この部活に入ったはずだ。
なのに、いつしか勝つことばかりに意識を向けていなかったか。
勝利は大事だ。だがこれば部活であって自分たちはプロではない。勝利を義務付けられているわけではないのだ。
(そんな当たり前のこと、なんで分からなかったんだろう……)
ここにきて、やっとチームというものを実感できた。
(このチームならいける。いや、そんなことより、このチームで一試合でも多く試合をしたい)
負けると悔しいから勝ちたい。今まで単純にそう思っていた。
それとは違う勝利の目的が、良瑠の中に生まれていた。
同じことが、他の五人にも起きていた。それがチームとしての強さだと、その時点では彼女たちには認識できてはいなかった。
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