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報告

 一月三日の神社はやはり混み合っていた。

 前後左右、全てが人の壁で囲まれ、自分がどこにいるのかも分からない。

 少しずつ、前には進んでいるようだ。

 樹那、真希波、声呼の三人が先に並び、後ろに友愛、良瑠、灑がいた。


「樹那先輩はやっぱり、合格祈願ですか?」


 友愛が背中越しに樹那に問いかける。

 樹那は首だけ振り返り、答えた。


「そんな神頼み、するわけないだろー。世界平和だよ、世界平和」

「嘘くさー!」

「ホントだって。そういう友愛は何をお願いすんだ?」

「友愛たちはもちろん、大会優勝祈願ですよ!」

「コラコラ。そんなんじゃダメだぞー。実力で勝負しなきゃ」


(わたしも別に、願いなんかないなー。家内安全とか?)

 大会に勝ちたいのはもちろんだが、それを願うのは、樹那の言う通り、違う気がした。

 樹那はそのまま今度は灑に話しかけた。


「灑ちゃんっていったっけ? はじめましてだね」

「あ、はい! 佐藤灑っていいます。以後お見知りおきを」

「あはは。これはどうもご丁寧に。ウチは谷口樹那だよ。元チーム・リーダー」

「はい、お噂はかねがね」

「噂ぁ? おい、真希波。変なこと言ってないだろうなぁ?」


 言いながら真希波の頭頂部をはたいた。


「ったぁ! 言ってないッスよ! なぁ?」

「はい! 真希波先輩はいつも褒めてました!」

「ホントかぁ? どうなんだ、声呼」

「えっ! ほ、本当ですよ。わたしも褒めてましたから!」

「そっか。ま、信じてやるとしよう」


 樹那は灑から良瑠に目を移す。

 だが彼女はうつむいたまま、目を合わせようとしない。

 樹那は鼻から大きく息を吐き、前を向いた。


 楽しく喋っていると、時の流れが早く感じるものだ。

 気がつけば、声呼の目の前に賽銭箱があった。柱に『二礼二拍手一礼』と書かれているので、鈴を鳴らしてからそれに従う。



「疲れたし、どっかの店で休もうよ」


 樹那の提案で、駅の側にあったチェーン店のカフェに入る。

 テーブル席に座って、近況など報告しあうなどし、楽しい時間を過ごす。


 そこで真希波が口に拳を当て、コホンと咳払いを一つした。


「さて、ここでちょっと、みんなに言わなきゃいけないことがある」


 真希波が急に改まったので、一同は喋るのを止め、彼女に注目した。


「実はな、今日樹那先輩をお呼びしたのは他でもない……先輩にチームに復帰してもらえることになった、という報告がしたかったんだ」

「ええ?!」


 声呼と友愛は驚愕し、店内に響くほど大声を上げた。

 良瑠は何も言わず、胸の前で両手をきつく握った。


「こら。あんま大声出すな。ご迷惑になるからな」

「すみません。でも、本当ですか? 受験はどうするんです?」と声呼。

「それなんだけどな、ウチは推薦でもう合格が決まったんだ」

「えっ、推薦!? すげー! 先輩、頭いいって本当だったんだ」友愛は尊敬の眼差しを送った。

「疑ってたのかぁ? ま。それはいいとして……で、真希波から誘われたってワケ」

「でもでも、もうエントリーは済んでますよ? 今から追加メンバーってアリなんでしたっけ?」


 声呼の記憶では、エントリー時点で補欠も含め全てのメンバーを登録しなければならない、とあったはずだ。

 とはいえ、事故や病気など不慮の事態で参加できないということはありえる。ならば、そのための救済措置があっても不思議ではない。


「それそれ。ウチもそれ言ったんだけどさ。なんとビックリ。エントリーにウチの名前も入れてたらしいんだよ。信じられるか?」

「いやいや。用意周到と言って欲しいッスなぁ。なんせ、アタシらカツカツなんで。こんなこともあろうかと先輩も入れておいたんスよ」

「どんな事態を想定してたんだよ……」

「まぁまぁ。結果オーライじゃないッスか。つうことで、決勝は樹那先輩がアタシの代わりにIGLになっていただく」

「そうなると、誰が外れるんです?」


 友愛は眉をハの字にして不安そうに聞いた。樹那が入るとなると、実力的に一番危ないのは自分だったからだ。


「抜けるのはアタシだ」

「ちょっと待ってください!」


 これまで黙って聞いていた良瑠がテーブルに強く手を付き、立ち上がった。

 普段、大人しい彼女が見せたことのない剣幕だった。

 隣に座っていた灑は、飲んでいたドリンクを吹き出しそうになったほどだ。


「そんな大事なこと、相談も無しに決めないでください! せっかく真希波先輩がリーダーになって、チームがまとまってきてたじゃないですか!」


 真希波はそんな良瑠の目を、じっと見つめた。


「こないだの予選決勝をやって痛感したんだよ。このチームの足を引っ張ってるのはアタシだ、ってね」

「そんな……!」

「ま、プレイしないからって参加しないわけじゃないぞ? アタシは今後はアナリストとして参加することになる。名目上はコーチだけどね」

「うん。真希波のデータはすごいからな。ウチもいいアイデアだと思う」樹那は腕組みし、大きくうなずく。

「ボクは納得できません!」


 そう言い放つと、良瑠は通路側に座っていた友愛を押し出し、店から駆け出て行ってしまった。

 周囲の客たちは、何の騒ぎだと、去っていく良瑠と残った樹那たちを交互に見た。

 彼女たちは小さくなって、残ったドリンク類を急いで啜った。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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