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初詣

 年末年始は声呼のお気に入りの時期だ。

 学校は休み、テレビはつまらない、外も寒くて出る気にならない、だから退屈だ。というのが普通の感覚だろう。


 だがゲーマー声呼にとってそれは絶好のゲーム日和なのだ。

 それが正味一週間ほどある。


 親戚へのあいさつ回りは、正直に言えば面倒だ。だがお年玉を貰えると思えばそれも我慢できる。

 そのお金で新たなハードを買うか、高価なデバイスを買うか、考えるだけでワクワクする。

 そんなお年玉を狙い、ゲーム会社も大型ゲームをリリースしてくる。


 声呼もCE以外にやりたいシングル・ゲームがたくさんある。

 小出しにされる新作情報を眺め、ずっと楽しみにしてきたのだ。

 それがいよいよプレイできる。


 まさに天国だ。


 そんな日々を満喫していた大晦日の夜。

 スマホに友愛からメッセージが来ていた。


【Toa:ねぇねぇ、チームみんなで初詣に行かない?】


(初詣、か)

 初詣にあまり良いイメージは無い。

 混雑していて、寒い中長時間並ぶことになる。それに耐えられるほど信心深いわけでもない。

 家族イベントなので仕方なく付き合っているが、できれば家にいたい。

 声呼はベッドに寝転び、仰向けでメッセージを打った。


【Seiko:誰が来る?】

【Toa:まだ声呼にしか声かけてないよ。みんなにも聞いてみるね】


(もし一人でも欠けるようなら、わたしも適当なこと言って断ろっかな?)

 スマホを枕に投げ捨てるように置くと、パソコンの前に座った。

 電源を入れ起動まで数秒待つ。

 表示されたログイン画面に流れるようにパスワードを打ち込むと見慣れたデスクトップ画像が表示される。

 それからGATEを起動させる。それはいつもの儀式だった。


 が、GATEのアイコンをダブル・クリックしようとしたところで、再びスマホに通知があった。

 何事かと手にとって見る。


【Toa:みんな行くってよ。声呼も来るっしょ?】


(早っ! もう返事きたの?)

 まだ三分も経っていないだろうに、全員から返事が来たというのか。声呼はにわかには信じられなかった。


【Seiko:みんなって全員?】

【Toa:うん。真希波先輩も行くってさ】

【Seiko:えっ? 先輩も?】

【Toa:だからー。みんなって言ったじゃない】

【Seiko:にしても返事、早くない?】

【Toa:それは友愛も思ったw】


 リプライの早さは友愛も予想外だったらしい。

 となると、実は皆、かなり行く気満々なのではないか、そう声呼は予想した。

 これはもう、行かないとは言えない状況である。


【Seiko:分かった。いつ行く?】


※※※


 集合場所の駅改札にはすでに良瑠、友愛、灑の姿があった。

 どうやら遅刻らしい。声呼は「ごめん、待った?」と手を振りつつ近寄っていった。


(へー、普段着はこういう感じなんだ?)

 付き合いは八ヶ月ほどだが、よく考えてみればこれまでメンバーの私服を見たことがない。


「声呼、あけおめーことよろー」


 友愛は紫のショート丈のダウン・ジャケットを来ている。首周りは白いファーがあしらわれ、防寒性能も高そうだ。

 対象的にボトムは黒いショート・パンツで、足は黒い厚手のストッキングに包まれている。


「明けましておめでとう。声呼ちゃん。大丈夫。ボク達も今来たとこだよ」


 良瑠は黒い革のライダース・ジャケットで首や袖口からインナーの青いニットが少し顔をのぞかせている。

 下は濃いめのスキニー・ジーンズに白いスニーカーだ。


「声呼。あけおめ」


 灑は薄いピンク色のダッフル・コートに赤いチェックのマフラーを巻いている。

 そのマフラーと合わせたような赤いチェックのフリルスカートで、ムートン・ブーツを履いているが、足はなんと生足である。


「あけおめ! そっか。あとは真希波先輩だけね」


 声呼はいつもの部屋着であるスウェット上下に上から黒いベンチ・コートを羽織っただけ、というファッション・センスの欠片もない格好である。

 実際、彼女はファッションには興味がない。今日の服装も『寒かったから持っている中で最も温かい物を着ただけ』という有様だ。


 四人が輪になって、やれ今日行く神社はどこだとか、年末はどうしてたかだの話していると、聞き慣れた声が聞こえてきた。


「おっすー! スマン遅れたか」


 茶色の、ロング丈ボア・コートに身を包んだ真希波だ。


「真希波先輩、明けまして――」


 声呼はそこまで言って言葉に詰まってしまった。

 真希波の隣に意外な人物がいたからである。


「みんな久しぶり。明けましておめでとう」


 なんと赤い着物をきた樹那だった。


「えっ! 樹那先輩!? なんでここに?」声呼は驚愕の声を上げた。

「えー! どうしたんですか?」友愛も目を丸くして驚いている。

「真希波に誘われたからさ。良い機会だしな」


 久々の樹那との邂逅。声呼と友愛は喜び、軽く跳ねながら樹那に飛びついた。

 だが、初対面の灑は所在無さげに立ちすくむ。


 そして良瑠は無言のまま、その顔に影を落とした。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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