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チームの弱点

 今女はそのまま2ラウンド、3ラウンドと立て続けに負けてしまう。

 ここを落とせば流れを取り返すのは難しくなるという、重要な4ラウンド目。


【Makina:良瑠だけベータへ。あとはアルファだ】

【Raru:それ、危なくないですか?】


 この勝負どころでそこまで偏った守りで良いのかと、良瑠は疑問を投げかけた。

 だが、真希波は決して勝負を捨てたわけではない。


【Makina:大丈夫。このパターンはこっちだ!】


 先輩がそこまで言い切るのなら何か根拠があるのだろう、と良瑠も納得し、従った。

 それに真希波の声は力強さを感じさせた。目にも光が宿っている。


【Rei:ロング、二人!】灑が敵を見つけた。

【Seiko:ショートも来てる!】


 声呼も報告するが、同時にダウンも奪われてしまう。

 ヒヤリとしたが、すぐに友愛がフォローに入り、その敵をダウンさせた。

 これで一人づつダウンを奪い合った。


【Seiko:ナイス!】


 声呼は親指を立てた。が、友愛は画面に集中しているので見てはいない。


 続けて幸運が起きた。

 ロングから飛び出た敵がちょうど重なっており、真希波の射撃がその二人を貫通したのである。


【Makina:良し! 二人やった!】


 ベータへは来ないと判断し、アルファのロングを裏から襲おうと忍び寄っていた良瑠は、その真希波の報告を聞き足早にアルファへ向かった。

 念のため、クリアリングはしているが、やはりこちらは掃討してしまったようだ。


【Raru:ロング、敵なし】

【Makina:ショート、二人いるぞ! 友愛、灑】

【Rei:了解。一人やりました】


 ちょうどショートからピークしてきた敵を灑が倒したところだった。

 残る一人も慌てて飛び出してきたが、灑はすぐに身を隠し、今度は反対側から友愛の弾丸が飛んでくる。

 

【Makina:ナーイス!】


(やっぱり、真希波先輩はすごい)

 良瑠は改めて、真希波のデータと、それを基にした予測の正確さを心の内で称賛した。


 こればかりはそう簡単に真似できるものではない。『グラジオラス・ブーケ』の大きな力であり、決勝大会でもきっと通用すると確信を持った。

 だがこれでやっとスコアは1-4。首の皮一枚つながった、というところだった。


 この時だけでなく、真希波の作戦は決して大きく外すことはなかった。

 しかし、相手はそれをことごとく力で跳ね返してくる。


(エイムが、いや、立ち回りが……いや、全てが足りない!)

 真希波は歯噛みした。

 自分の力不足は疑いようもない。

 掴みかけた細い糸が、指先からするりと抜けていった気がした。


 スコアは1-11で攻守が切り替わる。

 またピストル・ラウンドから仕切り直しだ。


 チームを立て直す最後のチャンス。しかしこのとき、すでに今女『グラジオラス・ブーケ』は敗戦を予感してしまっていた。

 もはや何をしても無駄であろう。

 相手の裏をかいても、動きを読み切っていても、たまに意表をついてみても、全て跳ね返された。

 1ゲーム目で8ラウンドも取れたのは一体、何だったのか。

 相手の強さを認めるだけでなく、自分たちの力すら疑いを抱いてしまった。


 もはや真希波も、一言も発することができない。

 ゲームが始まっても、全員が最低限の報告をするだけだった。


「お疲れ様」


 試合終了と共に真希波は力なく言った。

 文字通り、本当に疲れてしまった。

 両腕をだらりと下にたらした。

 すぐに反省会、という気にもなれなかった。

 それに、反省点はすでに自分が痛いほど分かっている。

(このチーム、一番の問題は……アタシだ)


(まだ。まだ遠い、か)

 声呼は天井を見上げた。

 関東最強のチームに、少しは近づいた。

 1ゲーム目はそう思えたが、2ゲーム目で再び突き放された。

 背中に手が届きかけたように見えた。しかしその背は、また小さくなっていく。

 しかし、声呼は諦めたわけではなかった。

 決勝大会までまだ日にちはある。その間に自分が、チームがどれだけ成長できるか。

 そう考えると、すぐにでも練習したくなり、視線をディスプレイへと戻した。


 良瑠は、大会初参加にして初めての敗北を噛みしめていた。

(強かったなぁ)

 感想は、素直な相手に対する賞賛だ。

 不思議と悔しいとは思わなかった。


 灑の頭の中にはこれまでゲームの映像がリプレイされている。

(あの時、こう動くべきだったよね)

 自分の動き、相手の動き、ミニマップでの味方の動き、全て正確に記憶している。

 脳内で何度でもそれを再現できた。

 それが彼女の強さの秘密だったが、彼女自信はそのことを認識していない。

 誰もが当然にできるものと思っていた。

 大会から結果の報告があり、真希波から解散の令が下されるまで、灑はイメージ・トレーニングをやり続けた。


「お疲れっしたぁ!」


 解散の合図と同時に、友愛は飛ぶように立ち上がり、元気よく言った。

 いつまでもくよくよしていてもしょうがない。

 負けは負け。それにまだ終わったわけではない。

 すぐに気持ちを次戦へ向けるべきである。

 友愛は経験からそうしたほうが良いと判断した。

 そして敗戦のことよりも空腹に頭を支配され、この後何を食べようか、などということに思考を割いていたのである。


 こうして彼女たちの全国高校eスポーツ大会、関東予選は幕を閉じたのだった。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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