全国高校eスポーツ大会
「ふむ。さすが期末テストを乗り切った者たちだ。顔つきが違う」
部室に揃ったメンバーの顔を一人ひとり見て、真希波は満足げにうなずきながら、どこかで聞いたようなセリフを吐いた。
テスト結果は、優秀組はもちろん、友愛と声呼も平均を上回り、赤点や補修を免れたのだった。
それだけ、彼女たちが懸命になったのは全国高校eスポーツ大会のためだ。
これだけを楽しみに、辛い勉強も頑張った。
そしてきちんと結果を出したのだ。チーム『グラジオラス・ブーケ』のメンバーたちはお互いを称え合うように、笑みを浮かべ、視線を合わせた。
「みんな知っての通り、関東ブロックの出場枠はたったの2。それを64チームで争うことになる。しかも、決勝まではBO1の一発勝負だ。今日は三回戦までやって、一気にベスト8まで絞られることになる」
皆、真剣な表情で真希波の顔を見る。
少し緊張感が有りすぎるような気がしたので、真希波はリラックスさせるプランを選択する。
「今日対戦する高校については調べてきた。ハッキリ言って、今のアタシたちなら問題なく勝てる相手だ。ランクが全てではない、とは言え、平均ランクはゴールドくらいだからな」
一方、今女は灑がイン・ヒューマン。その他の四人も全員がダイヤまで上げていた。
チームでランクを回すようになってから連携力も高まり、このまま続けていけば全員がイン・ヒューマンも間もなく達成されるだろう、というところまで来ている。
「いつもの力を出せば勝てる。気合入れていくぞ!」
「「おー!」」
大会出場ということで、部室のマシンはきちんと予約してある。
部室は同じく大会予選に出場する別部門のチームも来ており、土曜だというのにそれなりに賑わっていた。
いつも通り、真希波は上座へ、声呼と友愛がその左側の列に、良瑠と灑が右側の列に並んで座った。
GATEにログインすると、メンバー達は決められた大会ロビーへと集合した。
GATEはメタバースとしての機能もある。
大きな大会となると、専用ロビーも用意されるのだ。
ロビーはただの草原にルールや規約、出場校の書かれたトーナメント表の書かれた掲示板が置かれているだけの簡素なものだった。
すでに参加校のほとんどは集まっているらしく、かなりの人数が掲示板の前に固まっていた。
それぞれ自前で用意したアバターに、チームのユニフォームを来ている。
アバターは公序良俗に反していなければ自由、とのことなので人間の見た目もあれば、クマのような動物やドラゴンのような架空の生き物まで様々な人々がいた。
【Seiko:真希波先輩、なんか……わたし達、注目されてません?】
と声呼が辺りを見ながら言った。
【Makina:あー、そりゃこの見た目だからなぁ】
彼女たちが歩くと、周りになんとかフィールドでもあるかのように、人々が避け、道が開けていく。
声呼たちは本人を3Dスキャンした本人アバターというものを使用している。しかも衣装は制服だ。
なぜなら、それを使うことが義務付けられているからだ。どうやらそのせいで目立っているらしい。
学校の宣伝をかねているので予算を割いてもらえている。文句は言えない。
【Makina:あー、そうそう。ボイスは切っておけよ】
ボイスは近くにいるものであれば誰の声でも届くオープンなものから、フレンドのみ許可するもの、全てを遮断するプライベートなものまで段階的に設定することができる。
【Seiko:なんでです?】
【Makina:中にはキモい奴もいるからな】
声呼がよくよく見ると、アバター達はこちらを見ながら口はパクパクと動いている。
自分たちの噂話でもしているのだろう。
何を言われているか気にもなるが、真希波の言うように、ろくでもないことを言われているかもしれない。
そんなことで試合前に気持ちを乱したくない。
メンバー達は真希波の指示に従った。
そんなわけで、混み合っていた掲示板にも労せずたどり着くことができた。
【Rei:初戦の相手は、市立蒲瀬高校『UNDER DOGS』ってとこですね】
【Seiko:えっ! またそこ?】
【Raru:声呼、知ってるの?】
【Seiko:Phase ZEROでも対戦したんだよ】
【Toa:へー、不思議な縁だねぇ】
【Makina:eスポーツ部がある高校はまだまだ少ないからね。関東の高校は大体いつも同じメンツだよ】
などと話していると、声呼と掲示板の間に立ちはだかる者がいた。
若い男性のアバターで、黒いユニフォームらしきものを着ている。
しきりに口を動かしているが、声呼はボイスを切っているので聞こえない。
【Seiko:この人、何?】
【Makina:ほっとけほっとけ。どうせナンパだろ】
【Seiko:えっ。わたしナンパなんてされたことないですよ】
【Makina:こういうメタバースだと強気になる奴っているらしくてさ。結構、ナンパされんだよ。アタシらもよくされたもん。だからボイス切っとけって言ったの。どうせリアルで会ったら声かける自信も無い野郎だよ】
【Seiko:へー、そうなんですか】
声呼たちは他の人に場所を譲り、掲示板から離れたが、その男はしばらくつきまとい、なにやら話しかけてくる。
【Seiko:先輩、何かついてくるんですケド……】
【Makina:鬱陶しいぞコラァ!!】
どうやら一時的にボイスをオンにしたらしい真希波が怒鳴りつけると、男はそそくさと退散していった。
その迫力が凄まじかったため、部室にいた全員の注目を集めてしまった。
真希波はわざとらしく咳払いを一つする。
それだけで室内はまた平常運転に戻った。
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