新チーム名決定
ようやく涼しくなり、紅葉が美しく色づく頃、全国高校eスポーツ大会の参加校募集が始まった。
この大会の主な参加条件は日本国内に在住する高校生、定時制高校生、高等専門学校生(三年生まで)、通信制高等学校生であること。チームメンバー全員が同じ学校に在籍していること。そして同じ高校から各部門に参加できるのは3チームまでという上限があった。
今女にCEチームは1つ。声呼たちしかいない。ということで、校内予選などの必要もなく、同校の代表チームとして応募することが決定した。
ある日の放課後。大会について確認するため、CEチームは部室の隣、いつもの空き教室に集まっていた。
教壇に立ち、スマートフォンを手に大会規約を読み上げる真希波。その他四人は席に座り、大人しく聞いている。
「何か質問は? ま、大丈夫か」
規約は細かく決められていたものの、それは多くのゲーム大会と大差はない。
チートの禁止、グリッチ(バグ技)の禁止、運営の指示に従うこと、などなど。少し厳しいのは煽り行為についてだろうか。高校生の大会ということもあり、相手を挑発したり、侮辱するような行為は一切禁止されていた。
その程度のことは、彼女たちであれば常識と言っていいものだ。
「で、参加者だが、言うまでもなくこの五人だ」
リーダーの真希波を筆頭に一年の四人。チーム人数ギリギリなのだから前のようなレギュラー選考の必要もない。
「ヤッター! 友愛も参加できるんだ!」
友愛は両手を上げ、満面の笑みで初参加の喜びを表現している。
「良かったなー、友愛。ま、選考があるくらいのほうが、本当は良いんだけどな。それでも樹那先輩が一年のころはメンバーが足りなくて、助っ人を頼んだって話だからな。それよかマシってもんだ」
「なんでCEってこんなに人気無いんですかね? 大会の視聴者は多いのに」と良瑠は日頃からの疑問を口にする。
「プレイするのと観戦するのは違うってことだろうなぁ。CEは敷居が高いってイメージはやっぱあるみたい」
「そうなんですね……」
「プレイヤーを増やすのも、こういう大会の目的の一つだとアタシは思うよ。だからアタシたちが活躍することで人が増えてくれたら良いよね」
そういう真希波の言葉に、メンバーたちはうなずきあった。
「んで、参加申請はアタシが代表してやるとして、そろそろちゃんとチーム名を決めないといけないんだが。なんかアイデアある?」
「そういう真希波先輩は何か無いんですか?」と声呼は問う。
「アタシはそういうセンスが無くてさー。樹那先輩のことを何も言えないんだよね」
「また『Dragons』はイヤですよ?」
「だから、みんなの力を借りたいってワケ」
その時、良瑠がおっかなびっくり手を挙げ言った。
「だったら『エリス』っていうのはどうでしょう?」
「『エリス』? 誰だ?」
「ギリシア神話に出てくる、不和と争いの女神の名前です」
「ほうほう。良いね良いね」
言いながら真希波はチョークを手に取り、それを黒板に書いた。
次に発言したのは灑だ。
「なら『ワルキューレ』はどうです?」
「それはなんか聞いたことあるな。なんだっけ?」
「北欧神話に出てくる、戦死者をヴァルハラに連れていくという女神です。戦乙女とも呼ばれています」
「良いけど、ちょっと有名すぎて被るかもなぁ」
そう言いつつ、それも黒板に書き留めた。
次に友愛が意見した。
「なら息長足姫命とかは? 日本の女神様だし、武芸の神だし」
「それは知らなかったけど、長いなぁ。でか、どういう字?」
友愛に教えてもらいつつ、それも書く。
それから皆、口々に意見を述べ、黒板には『アマゾネス』、『カーリー』、『ミネルバ』という名前も書き加えられていた。
「声呼はどう? 何かある?」
それまで発言の無い声呼を思い計り、真希波は自ら声をかけた。
「いえ、わたし、そんなに神様とか神話とか詳しくなくて……」声呼はそう言って恥ずかしそうに頬を赤らめ、うつむいてしまう。
「別に、神話にこだわらなくて良いんだぞ。むしろ、ちょっと今のところ偏りすぎてると思ってたんだ。他のアイデアも欲しいな」
真希波の言葉に、声呼以外の三人もその通りと首を縦に振り「だねー」とか「そうかも」などと言った。
「ならわたしは花が好きなので――」
「花が好き?!」
真希波が急に大声を出すので声呼は叱られたかと思い、肩をすくませた。
「は、はい。すみません」
「いや、あやまんなくていいよ。ただ意外だなーと思ってさ。ごめん。続けて?」
「はい。なので『グラジオラス』なんてどうかなーって。花言葉が『勝利』とか『尚武』で戦いに勝利するような意味があるんです。あとは『オダマキ』とか『ジンチョウゲ』なんかもあるんですけど、名前的にあんま可愛くないかなーって」
「なるほど。それ良いね」
「友愛もそれ良いと思う!」
「ボクも!」
「じゃ、グラジオラスの花束ってことで、『グラジオラス・ブーケ』なんてどうですか?」
灑の意見にメンバーたちは口々に賛成の意を示した。
「良し! 意見がなければそれで決めちゃうぞ?」
かくして今女CEチームの新しい名前は決定されたのである。
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