恐るべき新人
その日は機材を予約できたため、メンバー五人は部室へと集まっていた。
「え、こんなの初めて知ったんだけど」
真希波は感嘆の声を上げた。
練習の前に伝えたいことがあると灑が言うので、四人は灑の後ろから彼女のディスプレイを見ていた。
そこで披露された技、テクニック、知識は、プレイ歴二年ある真希波ですら知らないものだったのだ。
「わたしも知らない……」
声呼もあれから動画による研究は続けてきた。
しかし、そんな彼女ですら知らない知識を灑は次々と出してくる。
自分の検索方法が悪いのだろうかと声呼は不安になってしまった。
「ええ。これはあちしが発見したものですので」
灑は事もなげに言った。
他の四人は互いの顔を見合わせた。
「は? 自分で見つけた?」
「は、はい。そうです」
真希波の問いはまるで詰問するようだったので、灑は少し身構えてしまう。
「どうやったの?」
声呼は灑の両肩を掴んで前後に揺すった。
「ど、どうやったって、地道に探したっていうか……」
「そんな地味なこと普通できないよ、すごいね~」
「じ、地味……」
友愛の言葉に悪意は感じないが、灑は頬を引きつらせた。
「凄いよ灑ちゃん! まだ他にもあるの?」
良瑠は子供のように目を輝かせている。
「んー、あとこのマップで言えば、この角に立って、あの看板の角にレティクルを合わせてウンゲツィーファーのギフト・ニーベルを使うと、ちょうどこの位置に落ちるんですけど、アルファからは足が見えるんで一方的に撃てるんですよね」
「おおー。こんな細かい技が。すまん、手間かけるけど、今までの文書でまとめてくれる? ちょっと覚えきれない」と真希波。
「なんも、なんも! 後でまとめてみんなに送ります」
「あんがとな。しかし、灑がこんなに研究熱心だったとはね。感心したよ」
「熱心っていうか、あちしも一緒にCEやってくれる友達がいなかったので、一人でランクを上げるには研究しかないと思って」
「あ……そうか。なんかスマン」
「え? いや、友達はいますよ!? CEやってくれる友達はいないってだけで!」
「うん。そうだな」真希波は捨てられた子猫でも見るような瞳で灑を見た。
「いや、ホントですよ!」
そんなやり取りを見て声呼は吹き出し、つられて皆も笑った。
「それで灑ちゃん。このテクニックってどっかで公開するの?」と良瑠が小首をかしげ聞いてきた。
「いや、それは考えてないよ」
「どうして? もったいないよ」
「そうなの? あちし、どうやったらいいか分からなくて」
「そんなの簡単だよ-。動画にして動画サイトにアップロードすれば――」
「待て待て待て! これ、公開する気か?」
二人の間に真希波が割って入った。
「他のチームに知られたら対策されるだろ! 秘密にしとけ!」
「えー? でも、こういう知識は共有すべきですよ。ね、声呼ちゃん」
「へ? わたしに聞かれても……」
「だって、声呼ちゃんも動画で勉強したでしょ? 独占したらダメだと思わない?」
「う、うーん。まぁ、確かに動画にはお世話になったね」
「待て待て待て! ああいうのはなー、金儲けのためにやってんだよ」
「お金儲け? どういうことです?」友愛は口をすぼめ、唇に人差し指を当てている。
「つまりな、ああいう動画サイトってのは再生回数に応じてお金が入るようになってんの。そんな知識の共有とか、意識が高い理由じゃないんだって」
「お、お金が稼げるんですか!」
それまで引き気味だった灑が身を乗り出してきた。
「うん。けどな、アタシらまだ未成年だろ? だから収益化が通らないんだよ」
「なんだ……そうなんですか」
灑のテンションがあからさまに下がる。
「そう! だからな、高校卒業まで待て。そしたらいくらでも公開して良いから!」
「なるほど。十八歳まで待てば良いんですね?」
「そうそう! 広まらないように、ここぞという時以外は使うなよ?」
「分かりました!」
灑が納得した様子なので、真希波もホッとため息をついた。
だが良瑠は違うようだ。
「お金なんてどうでも良いじゃない。日本の競技レベルが上がるほうが大事だよ」
「良瑠! お前、まだ言うかぁ!」
「でも先輩、そうじゃないですか?」
良瑠の瞳には一点の曇もない。心底、そう思っているらしい。
「いや、良瑠。お金は大事だよ」
いつの間にか良瑠の背後に立っていた灑は、彼女の肩を掴んで言った。
その手に込められた力の強さに、良瑠は青ざめた。
「イタタ! ちょ、ちょっと灑ちゃん。離して!」
「お金は大事。大事なんだよ、良瑠ちゃん」
「分かった! 分かったよ!」
振り返ると、灑の瞳はまるで肉食獣のような迫力を持っていた。
思わず声呼の背後に身を隠す。
「そんなにお金に困って――」
言いかけたが、声呼はそこで止めた。
人にはそれぞれ事情があるもの。無闇に立ち入ってはいけない。
(しかし、頼もしい奴が入って来てくれたな。これなら大会、良いとこまで行けそうだね)
新戦力、灑の思わぬ能力に真希波は期待を感じずにはいられなかった。
(あとはチーム・ワーク、だけど……)
なおも騒がしく言い合っている一年の四人を見て、その心配も無さそうだと満足げにその光景を眺めるのだった。
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