声呼の古い戦友
その日、声呼は昔の仲間と連絡しあっていた。
未だにGATEではなくIRCを使っているという化石のような人たち。
彼らも流石に最近の連絡はGATEを使っており、そこへ『たまには顔を出せ』とメッセージが来たのだ。
声呼は久々にIRCクライアントを立ち上げ、かつて入り浸っていたルームに入室した。
【Seiko:Hello】
【Genbu:お、来た来た】
【Agito:おひさー】
【Daytone:久しぶりー】
(三人か……)
かつてはここも人が賑わっていた。毎夜、三十人前後は集まっていただろうか。
そうしてくだらない話をしたり、ゲームをしたり、つかれたら話をしたり、飽きたらゲームをしたりしてすごした。
しかしどんなことも終わりはくる。
いつの間にか一人減り、二人減り、声呼も今女入学と共に去り、残ったのはこの三人だけ、となっていた。
【Genbu:Seikoは最近、何やってんだ?】
【Seiko:んー、最近はCEばっかだなぁ】
【Daytone:ESはやってないんだ?】
ESとは|Earthshakerというアリーナ系FPSである。
声呼がやっていたゲームで、彼らはその仲間たちだ。
【Seiko:やりたかったんだけど、さすがに部活で採用されてなかったんだよね】
【Agito:部活? あー、会社にeスポーツ部でもあるんか?】
【Genbu:ちゃうちゃう。SeikoはJKよ、JK】
【Agito:えー! そうだったんか?】
【Daytone:おいおい。それ勝手に言って良かったのか?】
【Seiko:別に良いよ-。どうせ大会出たらバレるし】
【Agito:こんなおっさんだらけのコミュニティにまさかJKがおったとはw】
彼らは互いにプライベートを詮索したりはしない。
それが古くからのマナーであるからだ。
ただ、付き合いも長くなってくると、なんとなくその人の素性は見えてくる。
【Daytone:ごめん、ちょっと子供を風呂入れてくるから、少し抜けるわ】
【Genbu:OK】
皆それぞれに家庭を持ち、会社でそれなりの地位にいることは、こういうやりとりから伝わってくるわけだ。
【Agito:んで、大会って何? 何の大会?】
【Seiko:多分、年末の全国高校eスポーツ大会には出ると思うよ】
【Agito:おお! 大きい大会じゃないか!】
【Genbu:そういうことなら応援するぜ】
【Seiko:ありがとねー。わたしは今女の生徒だから。今女を応援ヨロ】
全国高校eスポーツ大会は野球で言えば甲子園のような、全国のeスポーツ部員の最終目標とも言える大会だ。
そこに出場となれば、本名も顔も明かされる。
だが声呼は、彼らなら別に構わないと思った。
これまでの付き合いから、彼らは信用できる人物だと確信があったからだ。
【Genbu:あの今女かよ!】
【Agito:eスポーツが強い女子校ってTVでもやってたぞ。有名だよな】
【Seiko:そそ。あの下今女学院だよ】
【Genbu:結構、難関校だよな。Seikoって頭良かったのか……】
【Seiko:知らなかった?w てか、良く知ってんね-】
【Genbu:いや、実は俺の娘も来年、受験なんだけどな、今女に行きたいって言ってんのよ】
【Seiko:えっ! そうなん!? 入ったら教えてよ!】
【Genbu:オウヨ。頼むぜ、先輩w】
親子ほど年が離れていると知っても、彼らは声呼に対する態度を少しも変えはしない。
声呼もはじめは気を使い、敬語を使ったりしたのだが、むしろ堅苦しいから止めろと叱られたほどだ。
そんなこの場所を、声呼は気に入っていた。
久々に帰ってきても、暖かく迎え入れてくれる、まるで実家だ。
【Agito:Genbuの娘も、もう高校生かよ。早いなー。こないだ生まれたばかりだと思ってたのに】
【Genbu:ったく。俺らも年取るわけだ】
【Agito:だな】
【Seiko:で、娘さんがやってるのはCEなの?】
【Genbu:いやー、MOBAとかカードゲームが好きみたいだな。シューターはおっさんくさいってよ】
【Agito:そりゃ風評被害だ。完全にGenbuのせいじゃねーかw】
【Seiko:そーだよ。うちでもシューター部門は人数多いよ?】
【Genbu:なんだけどな、やっぱ俺のせいだろうなw】
【Seiko:それとなく勧めといてよ。そしたらわたしのチーム・メンバーになるかもだし】
【Genbu:それは面白そうだなー。わかった。上手くやってみる】
そんな風にしばらく談笑していると、Daytoneも戻ってきた。
【Genbu:よし、んじゃやるか】
【Seiko:やるって何?】
【Genbu:ESに決まっとろーがw】
【Agito:おっさん、そのために呼びやがったな?w】
【Genbu:バレたか。ガッハッハ!】
【Daytone:いつも同じメンツじゃ飽きるもんな】
【Seiko:分かった分かった。やろう】
【Genbu:そうこなくっちゃ!】
そうして声呼はしばらくESに興じた。
久々のアリーナ系はやはり楽しく、最初は面倒と思っていた彼女も次第に興が乗ってきた。
だが年寄りたちの方の体力が持たず、ゲームはそこで終了してしまう。
物足りなさもあり、声呼はその後、彼らと共にどうしたらアリーナ系FPSが流行るか、というテーマでしばしの間、話し合ったのだった。
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