新たなチーム
二日連続で良瑠が来ない。こうとなると、CEチームも心配と同時に不安感が高まる。
GATEのメッセージにも未だ返事がない。
学校に来ていることは確認済みなので、昼休みに食事を終えた声呼は、良瑠の教室へと行ってみた。
良瑠の組に声呼の友達はいない。声呼は入り口から中を覗き込み、良瑠の姿を探した。
すると、窓際の後ろから三番目の席に彼女の姿があった。
すでに食事を終えたのか、頬杖を付き窓の外を眺めている。
「良瑠」
側へ行き、声呼は声をかけた。
良瑠は声呼を一瞥すると、再び視線を窓の外へ向けた。
一瞬だけ見えたその瞳には、以前のような生気が感じられない。
頬も少しこけたようだ。
「何で部活に来ないの? みんな心配してるよ?」
「うん」
外を見たまま返事を返す。
「うん、じゃなくてさ。良瑠もおいでよ」
「うん」
口ではそう言っているが、声呼の言葉は良瑠の耳を抜けて窓の外へ飛んでいってしまっているようだ。
これでは本当に来るか、怪しいものだ。
「新しい子も入ったんだよ。一年なんだ」
僅かだが、良瑠に反応があった。
声呼の方を見ようとし、すぐに思い直したような頭の動きがあった。
「そう」
「佐藤灑って子。知ってる?」
「さあ?」
「CEやってたらしくてさ、ランクもイン・ヒューマンなんだよ。何ですぐ入らなかったんだって。ねぇ?」
また頭が揺れた。
振り向きたくてしょうがないのを我慢しているようだ。
「樹那先輩も受験で抜けちゃったからさ、良瑠がいないとメンバーが足りないんだよ。戻ってきてよ」
「ん……その子以外、誰も来てないの?」
良瑠はようやくまともな返事を返した。
声呼は少し開いたドアに足を突っ込むセールスマンのごとく、ここを逃さぬとさらに言葉を続ける。
「そうなんだよー。みんなで声かけてんだけどさ。CEは見るのは良いけどやるのはって子ばっかりなんだよ。やっぱ競技性が高すぎて、新たに始めるのはハードルが高いみたい。このまんまだと大会にも出られないしさぁ。困っちゃって」
「だよね……」
良瑠もどこか、そのことを気にかけていたようだ。
その時、昼休み終了の予鈴が鳴った。
「とりあえず、今日はマシン五台、予約してっから。絶対来てよね」
「わかった」
「絶対だよ!」
声呼は良瑠が来てくれるだろうと期待を高めた。
最後の返事は、それまでの気のないものと質が違ったと感じたからだ。
※※※
声呼は早めに部室へ顔を出した。
早すぎたのか、部室には生徒はまばらにしかおらず、チーム・メンバーもまだ見えない。
予約したマシンの一台に座り、下準備を済ませておくことにした。
「おっ、声呼。早いな」
まずやってきたのは真希波だ。
右手を敬礼するようにして入ってきた。
そのままかつては樹那の席だった上座席に座る。
「先輩、良瑠と話しましたよ」
「どうだった?」
「新メンバーにちょっと興味有りって感じですよ。今日は来るかもしれません」
「そかそか。今日も来なかったらアタシからも話してみるよ」
「お願いします」
続いてやってきたのは灑だ。
二人に挨拶し、声呼の向かいに座った。
「ひゃー! 部室のマシンでCEやるの、初めてなんですよ」
興奮気味にセッティングを始めた。
しばらくすると、廊下から聞き慣れた声が聞こえてきた。
「何してんの? 入んなよ-」
友愛の声だ。
(誰と話してんだろ? ひょっとして良瑠かな?)
声呼の淡い期待通り、やがて腕を組みながら入ってきた友愛の隣には、良瑠の姿があった。
「おっ、来たな」
「はい。ご無沙汰してます」
「お前、ちょっと痩せたな?」
「そうかもしれません」
声呼も感じたが、真希波もやはりひと目でそう思ったようだ。
それはあの二人がいなくなったことと無関係ではないのだろう。
友愛は声呼の隣に、良瑠は灑の隣に座った。
「あ、あの。新しく入った佐藤灑と言います。よろしくお願いします」
「あ、ボクは氏神良瑠です。良瑠って呼んでね」
「あちしも灑で」
「さて。ようやくメンバーが揃ったところで、今後の予定を考えようか」
「ちょっと待ってください」
真希波の話を良瑠が遮った。
そのまま立ち上がり、一同の顔を見回す。
「まずその前に、皆さん、ご心配をおかけして申し訳ありませんでした。真希波先輩には失礼な態度もあったと思います」
「別に大丈夫だよ」
真希波が言い、声呼と友愛も同意を示すためうなずいた。
「やっぱりその……麗羅先輩とアリス先輩のことが引っかかっていて。ボクは今女に憧れていて、がんばってここに入ったんです。それをあっさり辞めてしまわれたお二人に失望してしまった、と言ったら失礼かもしれませんが、正直、そう思いました。麗羅先輩が引っ張るチームに期待していた、ということもあります。声呼ちゃんも友愛ちゃんもがんばっていて、どんどん上手くなって来ていたし、絶対に樹那先輩がいたころより強くなれる。そう思ってたんです。なのに、こんなことになって」
感情が溢れたのか、涙声になっていた。
「でも、声呼ちゃんから新メンバーが入ったって聞いて、しかもイン・ヒューマンだって聞いて。真希波先輩もリーダーとして新しくチームを作ろうってときに、いつまでも落ち込んでちゃダメだって思って……」
うつむいた良瑠の顔からは涙の雫がこぼれ落ちた。
真希波はそれを見て、もう良い、泣くなとでも言う風に、良瑠の肩に手を置いた。
声呼と友愛も、良瑠の側に来て、がんばろうね、もう泣かないで、などと声をかけた。
灑は遠慮がちに、座ったままそれを見守っていたが、いつしか輪に加わり、そして皆で泣きながら笑った。
感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。