入部希望者
真希波はその小柄な少女を頭のてっぺんから爪先まで二往復ほど見た。
このツインテールの髪型はどこかで見たような気もするが、顔は初めて見た気がする。
目は小さくはないが、口は鼻は目立たない。あまりはっきりとした特徴がないのだ。
eスポーツ部にいただろうか?
「あなた、一年?」
「はい! あちしは一年の佐藤灑と言います」
「声呼、友愛、知ってるか?」
「いえ。友愛知ってる?」
「うーん、見たことはあるような?」
「あ、お二人のことはあちしは知ってます。クラスは違いますけど」
「あ、そうなの? ごめんね」
「いえいえ。あちしは目立たないのでしょうがないです」
謝る声呼に、灑は両手を車のワイパーのように振って答える。
なんだかオモチャのようだ。
「で、チームに入りたいって?」
「はい! あの、あちしは元々CEやってたんですけど――」
「何!? 経験者か?」
思わぬ人材の出現に、真希波の目が光を放った。
獲物を見つけた狩人の目だ。
「は、はい! したっけCEのチームに入りたいってずっと思ってたんですけど、自信が持てなくて」
「そうなのか。ランクは?」
「イン・ヒューマンなんですけど」
「何ぃ?! 凄いじゃないか! 何で自信が無いんだ?」
「ずっと一人でやってたもんで、チーム・プレイが未経験でして」
「ソロで上げたってことか? ヤベェ!」
チームでプレイするゲームにおいて、ソロでランクを上げるのはとても苦労を伴う。それを“苦行”と呼ぶ人すらいる。
チーム・メイトはその都度ランダムに選ばれるため、協力プレイなど望むことはできないからだ。
突出した力を持っていなければ、ランクを上げていくのは難しい。
「したっけ、あちしでお役に立てるかどうか、心配なんですけど、何でもさっきの先生のお話では人数が足りたいとのことでしたので」
「おお-! 大歓迎だぞ。今なら即、レギュラーだ」
「ホントですか!」
「ああ。ただ、今の部門にちゃんと話を通してるのか?」
「今はバトロワやってるんですけど、そっちは全然、才能無くて。したっけ、移動しても別に引き止められることもないと思います」
「そっか。でもちゃんと断りを入れるんだぞ。もし揉めるようだったらアタシに相談してくれ」
「分かりました! 助かります!」
「うん。アタシは二年の真希波。こっちは一年の声呼と友愛だ。あと今はいないけど、もう一人良瑠ってのがいる」
「有永声呼です。声呼で良いよ」
「友愛もー! よろしくぅ。灑で良いよね?」
灑は水飲み鳥のように何度も頭を下げた。
やはりオモチャのようだ。
「ところで先輩、今日の予定はどうなってます?」と声呼。
「いや、まさかこんな事になってるなんて知らなかったからな。麗羅が予定を組んでるもんだと思ってたから、何も用意してないのよ」
「そっか。そりゃそうですよね」
「うん。マシンも予約してないし、今日のところは一旦帰って、各自の家からオンラインで練習しようと思う。灑は自宅にマシンあるか?」
「はい。あります」
「じゃ、帰ったらアタシのルームに集合な。GATEのID教えとく」
※※※
真希波のルームは、樹那のものと比べるとまだ人間味のあるものだった。
女子高生らしさこそないが、『和』のデザインで統一された小綺麗なルームだ。
床は畳敷き。各は桐の和ダンスに文机。床の間に壺と掛け軸がある。
昭和の文筆家のような部屋だ。
【Toa:うわ-! 渋いっすね、真希波先輩】
一番乗りした友愛は、手を眉にあて、物珍しそうにキョロキョロ見回している。
続いて声呼、灑のアバターも現れた。
【Seiko:お邪魔します】
【Rei:こ、こんにちは】
【Makina:良瑠はオフラインか。メッセージにも返事が無いな】
【Seiko:心配ですね……】
【Makina:うん。ま、今は考えてても仕方ない。まずは灑のお手並み拝見といこうか】
【Rei:は、はい。お手柔らかに】
【Makina:使ってるコントラクターは?】
【Rei:一応、一通り使えますんで、皆さんに合わせます】
【Toa:全部使えんの?! すげー!】
【Makina:流石、ソロでイン・ヒューマンまで上げただけあるな。なら、もう一人の野良の人も見て、色んなもの使ってくれ】
【Rei:分かりました!】
今、彼女たちは四人しかいない。空いた一枠にはソロのプレイヤーが入り、埋める形になる。
(おいおい。なんでこんな奴が今までチームに来なかったんだ?)
真希波は灑のプレイングを見て感心した。
射撃の腕、ゲームの知識、判断力、どれも申し分ない。
(ただ、一つ問題があるとすれば……口数が少ないことか)
【Makina:灑。今、何でアルファの状況を報告しなかった?】
【Rei:え? あっ、あの、忘れてました!】
【Makina:そっかそっか。チームなんだから、情報共有してくれよ】
【Rei:はい! すみません!】
(ま、じきに慣れてくだろ)
どうやら悪気があるわけではないようだ。
これまでソロでやってきたという弊害だろう。
真希波は灑のプレイを数試合じっくり観察した。そして総合力で見ればすでに自分以上の実力者と確信した。
チーム・プレイさえ学ばせれば、前のチームと遜色ないチームが出来上がるかもしれない。
これまでような分断されたチームにはすまい。真希波はそう心に誓った。
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