表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
25/78

夏休み明けの事件

 夏休みが明けた。


 クーラーの効いた部屋で、日がな一日ゲームをしてダラダラ過ごす、夢の日々が終わってしまった。

 声呼の足取りは重い。


 学校が嫌いな訳では無い。クラスに友達も増えた。

 とはいえ、面倒なものは面倒だ。


 同じeスポーツ部のチーム・メイトである良瑠と友愛は違うクラスだ。

 放課後。その一人、友愛が声呼のクラスに飛び込んできた。


「声呼、声呼! 大変だ!」


 猪突猛進、とはこのことか。

 教室にいた生徒を突き飛ばしながら声呼の元へ駆けてくる。

 声呼は思わず、のけぞってしまう。


「と、友愛。そんな慌てて、なによ? これから部室行こうと思ってたのに」

「大変なんだって! 麗羅先輩とアリス先輩が学校辞めたらしい!」

「は……はぁ!? なんで!?」

「そこまでは友愛も知らないよ! 早く部室に行こうよ!」

「分かった!」


 声呼はカバンに荷物を放り込み、転げるように教室を出た。

 走りながら考える。

 二人が辞めたとして、理由は何なのか? なぜ二人同時に?


 しかし、考えたとて、答えがわかるはずもない。自然と足が早く動いた。


 三年生の多くが引退した今、eスポーツ部部室は少し広くなったように見えた。

 すでに集まった部員たちの話題は、やはりあの二人のことのようだ。


「先輩! 麗羅先輩とアリス先輩が学校辞めたって本当ですか?」


 早速、友愛は見知った上級生から情報収集を始める。

 社交的な彼女に比べ、友愛は話せる上級生は真希波しかいない。


 集団の中から真希波の姿を探す。


 彼女は大声で喋っていたのですぐ見つかったが、上級生で輪を作って話し込んでいたため、その外側せ声呼はそれが終わるのを待った。

 そこへ、友愛が声呼が戻ってきた。


「やっぱ、本当に辞めたらしい」

「嘘でしょ? なんで?」

「それが……理由は誰も聞いてないらしい」

「先生は?」

「先生は流石に知ってると思うけど、プライバシーにも関わることだから、教えてくれないかもって」


 そんな二人のところに、片手を挙げて真希波が合流してきた。


「よ、友愛、声呼。元気か?」

「それどころじゃ無いですよ! 麗羅先輩とアリス先輩について先輩は何か聞いてます?」と友愛。

「ああ。アタシもびっくりだよ。ところで良瑠はどうした?」

「わたしは見てません」

「友愛も」

「まさか、アイツまで辞めたってことはないよな?」

「それは流石に……」


(確かにあの二人に良瑠は懐いていた感じだったけど、一緒に辞めるなんてことは無いよ……ね?)

 高校を辞めるということは、そう簡単にできることではない。

 厳しい試験を突破して来たのだ。普通、辞めるとなればよほどのことだ。

 仲のいい子が辞めるから一緒に、などという理由ですることではない。

 憧れの先輩が辞めるから、というのも同様だ。


 その時、騒がしかった部室が急に静まった。

 何事かと声呼が周りを見ると、生徒たちの視線が一点に集中している。

 その先を見ると、そこには顧問である元谷の姿があった。


「皆さん、そのままで良いので少し先生の話を聞いてください。まず、すでに知っている方も多いとは思いますが、小峠麗羅さんと森木アリスさんが自主退学しました。その理由と現在どうしているのか、ということについては本人たちの希望を尊重し、皆さんにお伝えすることはできません」


 とたんに部室が騒がしくなった。


 二年の中には、彼女たちと親しかったものもいる。

 見れば、涙を流している者もいた。

 近くの生徒がそこ子の肩に手を置き、別の者は背中をさすってやったりしている。


 声呼も考えがまとまらず、ただ呆然としていた。

 ショックなのか、悲しいのか、自分でも分からない。ただ、元谷の声が耳に入っては抜けていくようだった。


「三年の谷口樹那さんは受験に専念されるとのことですので、これでCEのチームは暁真希波さん、有永声呼さん、氏神良瑠さん、角谷友愛さんの四名となってしまいます。このチームは先のイベントPhase ZEROにて、関東ブロック予選決勝まで進んだチームです。非常に有望なチームですので、参加したい方を募集いたします。希望の方は私のところまで来てください。eスポーツ部であれば、部門間の移動に制限はありませんので。ただ、元の部門ともよく相談してくださいね」


(良かった。良瑠はいるのね)

 まだ良瑠の姿は見えないが、最悪の事態は避けられたらしい。


 安心したところで、徐々に頭の働きが戻ってきた。

(そっか。人数足りなくなっちゃうんだ)

 声呼は腕組みし、思考を巡らせる。

(まさか樹那先輩に戻ってもらうわけにはいかないし)

 受験生にとって、これからが大事な時期だ。まさか戻って欲しいと言うわけにはいかない。

(なら、やっぱり他から引っ張ってくるしかない、か)


「ね、声呼。誰か入ってくれそうな人、いない?」


 友愛も同じ考えらしく、そう言ってきた。


「いや。友愛もいない?」

「友愛も心当たりはないねー。誰でも良いってわけでもないしねぇ」

「ま、やる気さえあれば、この際ランクは問わんぞ。アタシも二年に声かけてみっから、一年は三人でよろしく」


 そう言う真希波の後ろに、これから告白でもしようかというような緊張した面持ちの生徒が立っていた。

 声呼と友愛はその生徒に気づき、視線を向ける。

 その目線に真希波も気づき、振り返る。


「ん? 何か用?」

「あ、あの。突然なんですけど、CEのチームに入れてもらえませんか?」


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ