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Phase ZERO決勝

 どうあがいても時間は止まってくれない。

 決勝は予定通りに始まった。

 1ゲーム目。まずは防御側から始まった今女は、あっという間に3ラウンドを取られてしまった。


(またやられた!)

 4ラウンド目、まず声呼がファースト・ダウンを奪われた。

 これが最初ではない。これまでずっとこのパターンだ。


「声呼! 焦るな!」

「はい!」


 声呼も焦ったわけではない。

 いつも通り、クリアリングをしようとした瞬間、それを読まれたように弾丸が飛んできたのだ。

 幸いにもここはエコ・ラウンドだったので、取られることは想定内だった。


 麗羅とアリスの連携により、相手を一人まで追い詰めたものの、そこまでだった。

 並んでいたところを、最後の一人から連続で撃ち抜かれてしまう。


「オーケー! ナイス・エコ!」


 エコ・ラウンドにしてはよくやったと、真希波も精一杯声を出した。

 だが、チームの空気は良くない。


 ようやく一つ、取り返したのは6ラウンド目だった。

 真希波の三人抜きが効いた。


「ナイス! 真希波!」

「ウッス!」


 樹那と二人で声を掛け合い、重苦しい空気を循環させようと試みる。


 だが、状況は一向に改善しない。

 常に相手に一歩先を行かれる、そんな感覚を味わった。


 単純な撃ち合いならば今女も負けてはいない。

 ただスキルの組み合わせ、チーム連携の練度において明らかな差が感じられた。


 気がつけば1-11。

 もはやこのゲームの敗北は濃厚となった。


「まだ諦めんな!」


 樹那は鼓舞する。

 一人奮闘し、相手の裏を取って3ダウンを奪う。

 樹那はそこで力尽きたが、圧倒的有利となった今女は、残りの二人を追い詰め、勝利を収めた。


 2-11、やっと2ラウンド目だ。


 だが今女が取ったラウンドはその2つだけとなってしまった。

 1ゲーム目が終了し、小休止が取られた。


 樹那は立ち上がった。

 メンバーの顔を見回す。


 青い顔で呆然とキーボードを見る声呼。退屈そうに自分の爪を眺めるアリス。腕組みし、画面から目を離さない麗羅。


 唯一、真希波だけは光を失っていない目で樹那を見返してきた。


 そんな彼女たちにどう声をかけるべきか、思案するが、何も思い浮かばない。

 力の差は歴然だった。

 自分たちが勝利する、という画は見えない。

 樹那はただ、歯噛みし、拳に力を入れるしかできなかった。


 2ゲーム目の最初のラウンド。


 ゲームの最初はお互いに800キャッシュしか持たない状態で始まる。

 買うのは武器よりもスキルが中心になるため、初期装備のピストル、ハデスで戦うことが多い。いわゆるピストル・ラウンドだ。


 同条件で始まるこのラウンド、制したのは意外にも、今女だった。

 攻撃の松原情報高専は一気にアルファを取りに来るが、麗羅が4つのダウンを立て続けに奪い、勝負を決めた。


 ピストル・ラウンドに勝てばキャッシュ差で優位に立てる。


 勢いに乗りたかった今女だったが、2ラウンド目は松原情報高専がパーフェクトで取った。

 誰一人もダウンせずに勝利したのだ。

 先ほどと同じくアルファになだれ込んだ松原だったが、まるでさっきのはウォームアップだった、とでも言うような、圧倒的な勝ち方だった。


 これで完全に流れを奪われた今女は次のラウンドも奪われ、更に次も、さらに連続して奪われ……。


 またしても、1-11。

 決勝もBO3。いよいよ敗北の二文字がはっきりと見えてきてしまう。


(まさか、こんなに差があるなんて)

 声呼は何も出来ない自分に苛立った。

 すでに目には涙が浮かんでいる。


「まだ終わってないぞ」


 隣の真希波が、まっすぐ画面を見つめたまま、ハンカチを差し出してきた。

 声呼は遠慮なく受け取り、涙を拭った。

 よく見ると、それはピンク色でレース付きのガーリーなハンカチだ。思いの外、真希波は少女趣味らしい。


「これ、洗って返しますね」

「オウヨ」


 そんな口調とまったく似合わないハンカチ。声呼は吹き出しそうになった笑いを飲み込んだ。


 それで肩の力が抜けたのか、次のラウンドは声呼の活躍で勝利した。


 声呼らしい反応速度とエイムの正確さで瞬く間に4つのダウンを奪った。

 敵の位置取りが悪かったことも幸いした。

 これでやっと2-11。


 ラウンド勝利したはしたが、声呼は今女の問題が分かってしまった。


 これまでの勝利ラウンド、振り返ってみれば全て個人の活躍でのものだ。

 相手チームと比較して、味方同時の連携がほとんど見られない。


 さらに正確に言うと、このチームは分断されている。

 麗羅とアリス。そして樹那と真希波と自分にだ。

 それぞれの内部での協力はあっても、チーム全体を見ればこの二派閥はまるで対立しているようだった。


 そのことに気がついたとて、入ったばかりの一年にすぎない声呼にはどうしようもなかった。


 チームの誰一人として、最後まで試合を投げることはなかった。

 だがそれぞれの力量も今女以上できちんと全体の統制が取れている松原情報高専『MIH』ほどの相手では、彼女たちに勝つ道理はなかった。


 今女『Dragons』の大会は準優勝という結果に終わったのである。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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