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決着

 真希波はすかさずロケットを設置した。

 声呼は物陰から敵を警戒する。

 麗羅とアリスはアルファに向かいつつあった。


「間もなく到着いたします」


 麗羅たちが到着すれば、勝ちは見える。

 声呼は今の時間が一秒が途方もなく長く思えた。

(相手は後がない。絶対リテイクに来る。こっちも真希波先輩がいるし、数的に不利じゃない。落ち着け!)

 自分自身を鼓舞する。


 奪われたポイントを再び取り返しに来ること、それがリテイクであるが、明慧(めいけい)高校『Soy(ソイ) Beans(ビーンズ)』は不利だろうがもう行くしかない。

 今、突入すれば数は二対二。さらにスキルをほとんど使い切った今女に対し、彼らはまだ余裕がある。


 だが、それらを知る方法はない。そこでアルファにサーチ・ショットを使った。

 ナイトメアというコントラクターのスキルだ。

 ボウガンを撃つと、矢が着弾したところから敵の位置を探る電磁波が発生する。それは声呼の体に触れた。


「位置、バレました!」

「声呼、移動しろ。援護する」


 真希波は矢が飛んできた方向から、敵の侵入ルートを予測し、照準を合わせた。

 それを狙いすましたかのように相手のフラッシュ・バンが炸裂し、真希波の視界は真っ白な光に覆われた。


「フラッシュ食らった!」


 真希波は感覚で壁の裏に身を隠しながら言った。

 だが声呼も同様に、視界を失ってしまっていた。

 悪いことに、移動中で無防備に体を晒している時だった。


「すみません! ダウンしました!」


 声呼も倒れ、状況は今女に不利になった。

 真希波は視界の回復を待っていたが、うっすら見えてきたその目の前にあったのは、敵のナイト・ドローンだった。

 これもナイトメアの偵察用スキルだ。


「しまった!」


 真希波は反射的にそのドローンを撃ち落としたが、すでに位置は暴かれてしまった。

 次の瞬間。目の前にピークしてきた敵ナイトメアにダウンさせられてしまう。


「アルファ、取られた!」

「お待たせしました」


 真希波の悲痛な叫びが部室に響いたあと、麗羅の落ち着き払った声がそれに続いた。

 アルファをリテイクしたと確信した敵のナイトメアがロケット解除へ移った。


 その彼の視界を、緑色の球体が包み込んだ。


 麗羅の放ったウルト、インセクエネストである。

 ウンゲツィーファーのスキルで、広範囲に毒霧を展開する。中に入った敵は、衰弱効果により、徐々にとアーマーと体力を奪われてしまう。

 さらに敵は緑の霧の影響により、周りが見えにくくなるが、ウンゲツィーファーは敵が赤く強調表示され、見やすくなる。


 この状況で、麗羅が負けることはありえなかった。


「あと一人ですわ」

「こっちも仕留めたヨ」


 アリスが事もなげに残りの一人を仕留め、その瞬間、今女の勝利が確定した。

 決勝進出だ。


「ナーイス!」


 樹那が立ち上がり、頭上で手を叩いた。


「ナイスぅ!」

「ナイスです!」


 真希波と声呼も思わず立ち上がり、互いにハグをする。

 そこへ樹那も加わり、三人で飛び跳ねて勝利の美酒に酔った。


「お疲れ様です」


 だが麗羅はそこに加わることなく、部室の出入り口へ歩いて行ってしまった。

 アリスはそのまま座っているが、目は画面に向けられたままだ。

 声呼は恐る恐る、アリスの元へ行った。


「あの、お疲れ様でした。最後、助かりました」

「別に良いヨ」

「はい。次の決勝もお願いします!」

「ハイよ」


 声呼は体をくの字に曲げ、頭を下げた。振り返り、自分の席へと戻る。

 その時だ。


「ふん。余計な事しやがって」


 背後から、そう聞こえた。

 その声は布がこすれ合う音のような小ささだったので、声呼は気のせいかとも思った。

 振り返り、アリスの顔を見た。


 無表情の彼女の瞳は、ディスプレイの明かりを反射し、白く瞬いていた。



 これから決勝の相手が決まる準決勝のもう一試合が始まる。

 しばしの休憩時間だ。


「さーて、松原情報高専のお手並み拝見といきましょうや」


 真希波は舌なめずりしながら配信画面を開いた。

 今日の試合は全て配信されている。位置情報などが重要となるCEにおいては、五分の遅延配信が実施されている。

 配信で映されているのは五分前の世界というわけだ。


 声呼は真希波の後ろから、その画面を覗き込んだ。

 彼女はこの短期間でずいぶんと成長できたと満足していた。

 決勝まで進めたのがその証拠だ。

 もちろん、先輩方の力があってのことだが、以前よりずいぶんとこのゲームを理解できるようになった。


 だからこそ、今画面で起こっていることが信じられなかった。


「松原情報高専、やるな……」


 樹那の独り言が聞こえてくる。


 やるどころの話ではない。一方的だった。

 相手高校のレベルが低いのか。いや、それは決して無い。

 今の声呼にはそれが分かる。分かってしまう。


 実力は今の今女と同じ程度だろう。ということは、次にこうなるのは自分たちということだ。

 食い入るように画面を見つめる声呼は、背中に冷たい汗が流れるのを感じた。


 感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。

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