Phase ZEROオンライン予選
Phase ZEROは関東地区、関西地区、北地区(東北、北海道)、南地区(中国、四国、九州、沖縄)の四地区のオンライン予選を優勝した四校のみが、オフライン決勝大会に進出できる。
Phase ZEROの関東ブロック代表決定戦に登録したのは三十二校。
三十二枠が限界で、先着順ということだったので、今女はいち早く登録を済ませておいた。実際、応募希望は枠を超えるほどあった。
eスポーツに力を入れている学校だけあり、参加を即断できたのが功を奏した。
その他の参加校も、やはり大会でよく見かける名前ばかりだった。
「よーし、各自GATEにログインしておけよ」
オンライン大会ではあるが、今女は部室を借り、そこに集合していた。
各々の家から参加しても良いのだが、やはりチームで行うゲームは集まった方が結束力が高まる、という判断だった。
学校側も大会参加ということであれば、優先的にマシンを貸してくれる。
いつものように、列の一番端の五台を専有する。
上座に樹那。彼女から見て右手に麗羅とアリス。左手に真希波と声呼が並ぶ。
「ふー」
声呼は大きく息を吸い、それから肺を空にするべく、絞り出すように空気を吐き出した。
「お、声呼。緊張してんのか?」某アニメの司令のように机に両肘を付き、顎の前に手を組んだ樹那が言う。
「そりゃしてますよ。樹那先輩は平気なんですか?」
「まったくしてないって言ったら嘘になるな。でも、ウチらなら大丈夫。始まっちゃえば、勝手に体が動くよ」
二人の談笑に真希波も参加してきた。
「それッスよねー。こういう『待ち』の時間が一番、緊張するッス」
「それなー」
「それより先輩。チーム名って誰が決めたんッスか?」
「あー。みんながアイデア出さないから、ウチが適当に決めたぞ」
「だからって『Dragons』ってなんスか? アタシら中日じゃないんスよ!」
「中日じゃねーよ! ウチはドラゴンが好きなんだよ!」
「知らないッスよ!」
「じゃあ、次の大会までに全員アイデア出しとけよ! じゃないとまた『Dragons』だからな!」
思わず真希波は笑い出し、アリスや声呼も釣られて笑う。麗羅も思わず吹き出した。
そんなやりとりで少し緊張がほぐれた。こういうところが真希波の上手いところだ。
「そんなことより真希波。今日の参加チームの情報は無いか?」
「やっぱ一番ヤバいのは、神奈川の松原情報高専『MIH』ッスね。全員がイン・ヒューマンなんで。ただトーナメントの山が分かれたんで当たるなら決勝ッスね」
予選は土曜日にベスト4が決定するまで行われる。
日曜は準決勝、決勝だ。
それまで試合はBO1の一発勝負となる。
「そりゃラッキーだな」
「真希波。そんな先のことよりも、初戦のお相手の情報はないの?」と麗羅は神経質に眼鏡を上げながら言う。
「初戦は市立蒲瀬高校『UNDER DOGS』ってとこ。ランクは全員ゴールド」
「それなら勝てそうですわね。先輩」
「うん。ま、油断せずに行こう」
(全員ゴールド、わたしと一緒か。先輩たちがいるからきっと大丈夫だよね)
声呼は未だゴールドであったが、それはチーム練習を優先していたためである。
ランク・マッチを集中してやればプラチナまで上がれる実力はとうにあったのだが、本人にその自覚は無かった。
※
試合開始から3ラウンドを先取すると、その時点で今女メンバーは勝利を確信していた。
蒲瀬高校『UNDER DOGS』は撃ち合いの力はともかく、連携がまったくと言っていいほど取れていない。
チーム内に司令塔がいないと思われた。
一方で今女『Dragons』は互いのスキルを活かし、エリアを占拠していく。
真希波はシエルのスキル、サーチャーを使う。青い光を放つ狐のような四足歩行の動物型ドローンを使い、索敵するスキルだ。
アルファの敵の配置を確認し、声呼はエンマクで左側の敵を射線を切り、ハッソウで飛び込んで右側の敵をダウンさせる。
バランサーであるウンゲツィーファーを使う麗羅はすぐさまその後に続きエリアへ侵入。
ストライカーのエクスプロージョンである樹那も同時に入り、数的な優位をとって左側の敵もダウンさせた。
アーティファクトを持ったアリスがエリアに入り、設置を試みるが、その前に勝負は決した。
防御側の『UNDER DOGS』が全滅したからだ。
声呼と樹那は強気にアルファの奥に入り込み、奥に隠れていた二人をダウンさせ、続けてアルファをリテイクしに来た最後の一人も二人がかりでダウンさせてしまった。
本来ならもっと慎重に行くのだが、真正面からやりあっても勝てる、そういう判断が二人にあったからだ。
その後も今女は『UNDER DOGS』を圧倒し、1ラウンドも取らせること無く初戦を勝利で飾った。
「良し! みんなナーイス!」
勝ちが確定すると、樹那は立ち上がり、顔の前で手を叩いた。
声呼も隣の真希波とハイタッチで喜び合う。
麗羅とアリスは当然とでも言うように、少し笑みを浮かべただけで大げさに喜ぶことはしなかった。
本番での勝利、しかも圧倒的勝利に酔いしれ、声呼はまるで床から2センチほど浮いているかのような気持ちになっていた。
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