選考会議
一年三人のテストを終えた二年は、樹那のいるルームへ移動した。
相変わらずの殺風景の部屋で立ち話が始まった。
【Jyuna:一週間、おつかれさま】
【Makina:ウッスー】
【Reira:みなさん、おつかれさまですわ】
【Alice:ミーは別につかれてないデス】
【Jyuna:はは。じゃ、早速だけど、みんなの感想を聞かせて欲しい。まずは真希波から】
【Makina:はいッス。アタシが見るに、プレイが上手いのは声呼。知識量と成長速度は良瑠。ムードメーカーは友愛って感じッス。ムードメーカーはアタシと被ってるんで。さすがにアタシもまだ友愛よりは上ッスから、声呼か良瑠かどっちかッスね】
【Jyuna:どっちよ?】
【Makina:それはパイセンにお任せするッス】
【Jyuna:なんだよそれ。アリスは?】
【Alice:ミーは良瑠をプッシュしまス。真希波はプレイなら声呼と言ってマスが、ミーもやはり声呼のグロウアップは凄いと思います。もうほとんど声呼に追いついてマス。大会までに抜かすのデハ?】
【Jyuna:ふむ。麗羅は?】
【Reira:わたくしは良瑠ですわ。各人の評価は皆さんと同じです。ただ一つ気になるのは、先のコミュニティ大会でのことです。声呼は勝手な判断で先走り、幾度もチームを危機に陥れました。声呼も知識を付けつつありますが、その点が不安なのです】
【Jyuna:確かに指示を聞かないことはあったけど、今回のテストでは大分マシになってなかったか?】
【Reira:それはテストだからですわ。その期間だけいい顔をして、選ばれてしまえばあとは好き勝手にやる。あの子はそういうタイプですわ】
【Jyuna:おいおい。いくらなんでもこの短期間であいつのことをそこまで分かるのか?】
【Reira:それは一度同じチームでプレイしてみれば分かることですわ。ゲームというのは思ったより如実に人間性を浮かび上がらせるものですから】
【Jyuna:ふーむ。ということは声呼と良瑠が二票ずつで同数か】
【Alice:声呼は一票デハ?】
【Jyuna:真希波はウチに任せるって言ったんだから、ウチと同じってことで良いだろ。なぁ?】
【Makina:もちろんッス】
【Jyuna:ならば、リーダー権限で今度のロスターには声呼を入れることにする】
【Reira:ちょっとお待ちください。先輩の意見は上級生のものとして尊重はいたしますが、それはいくらなんでも横暴なのでは?】
【Alice:ミーもそう思います。声呼は実質、一票ハーフでショウ?】
【Jyuna:と言って、このまま言い合ってても平行線だろ。今回は譲ってくれ】
【Reira:今回は、とおっしゃいますが、先輩はいつもそうですわ】
【Alice:そうそう。アメリカならパワハラと訴えられマスよ】
【Jyuna:このくらいでパワハラは無いだろ。声呼を選ぶのにも根拠はあるぞ。成長、成長というが、声呼の成長だって目を見張る物があった。前の大会のころと比べたら別人だよ】
【Reira:ですから、あれは一時的なものですわ】
【Jyuna:いや、態度の話じゃない。明らかに勉強してきてただろ? 前のような力で押し切るプレーは無くなってたよ】
【Reira:それはまぁ、そうですが……】
【Jyuna:だろ? あとやはり撃ち合いになったときの良瑠はまだ不安が残る。このゲーム、最後の最後はやはりエイムだからね】
麗羅は無言になった。
アリスと真希波は二人のやりとりを見守っている。
【Jyuna:それに……これは言いたくなかったけど、ウチもこれが最後の大会になるかもしれないからさ。今回は好きなようにやらせてくれないか?】
麗羅から諦めたようなため息が漏れた。
【Reira:そこまでおっしゃるなら、分かりましたわ】
※
その場でメッセージを送り、選考結果を伝えても良かったが、それは何か気使いに欠けるような気がして、樹那は発表を週明けの部活の時間ですることにした。
マシンを使う必要は無かったため、部室の隣の空き教室に集合をかける。
ここは、よくeスポーツ部員がミーティングなどに利用している場所だ。
「集まったな。こないだのレギュラー選考の結果を発表する」
一年三人に緊張が走る。
「まどろっこしいのは抜きだ。発表するぞ。次の大会に出場するのはウチ、麗羅、真希波、アリス、そして声呼だ」
(へ? わたし?)
確かに“声呼”と言った。聞き間違いはありえない。
「やったね!」
友愛に肩を叩かれ、声呼はやっと我に返った。
「ほら、声呼。なんか一言」
「あ、ありがとうございます。頑張ります!」
樹那に言われ、なんとか言葉をひねり出した。
だが、いまだ夢から醒めたばかりのように思考がまとまらない。
拍手の音が室内に響き、和やかなムードになった。
ただ一人、手を叩かないものがそれを打ち破った。
「なんでです? 納得いきません」
良瑠だ。
その両目には涙が浮かび、白くなるほど拳を握っている。
「良瑠も惜しかったんだ。声呼と票が割れたからな」
「だったら、どうしてです!」
「そうだなー。カン、かな?」
「またそれですか!」
普段は聞いたことのない良瑠の怒声。それは教室の窓を震わすほどだった。
室内には静寂が流れ、樹那の顔からは笑みが消えた。
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