声呼の場合
樹那のルームに五人が集まると、簡単な説明だけがあり、すぐに選考テストは開始された。
【Alice:声呼、よろしくネ】
【Seiko:はい! お願いします!】
アリスがフレンドリーに話しかけてきたが、友愛の話もあったので、声呼は少し警戒していた。
【Alice:ひょっとしてナーバスになってル?】
【Seiko:そうですね、ちょっと緊張してますね】
【Alice:そんなナーバスにならなくてダイジョーブ。どうせ良瑠がセレクトされるヨ】
【Seiko:え、え? そうなんですか?】
【Alice:アハハ! ショック受けタ? ジョークだヨ】
【Seiko:あ、はぁ】
たちの悪い冗談だ。
声呼はなぜ彼女がそんなことを言うのか理解できず、困惑した。
【Jyuna:ウチと真希波はアルファ。麗羅はセンターを見て。アリスと声呼はベータへ】
そんなアリスと二人にされたのは、不安を感じる。
(でも一緒のチームなんだから、うまくやっていかないと)
声呼は少しずつ、敵のいそうな場所を確認しながら進んでいく。
【Alice:ちゃんとクリアリングはできるみたいネ】
【Seiko:はい!】
動画で学んだことをさっそく活かせて声呼は一安心し、弾んだ声で返事をした。
【Alice:さ、こっからヨ】
【Seiko:はい!】
ここまで敵に遭遇してはいない。
すでにベータ・ポイント目前まで迫っていた。
しかし、この先は隠れるポイントが多数あり、すべてを確認することは不可能だ。
どこかに潜んでいる可能性は高い。
だが声呼の使うフーマ、そしてアリスの使うフィローゾファには索敵スキルがない。
【Alice:まずはシチュエーションを伝えて】
【Seiko:ベータ手前まで来てます。ここまで敵なし】
【Jyuna:りょ。エンマクは?】
【Seiko:あります】
【Jyuna:指示あるまで待機。センター?】
【Reira:敵影ありませんわ】
【Jyuna:ふーむ。妙だな】
樹那が敵の行動を読みかねていると、目の前に突如、茶色の巨大ブロックで出来た壁が出現した。
敵フィローゾファのウォール・スフィアだ。
【Jyuna:おっと、ウォール・スフィアで塞がれた】
【Makina:壊すッスか?】
【Jyuna:いや、待った。声呼とアリス。アルファに来てくれ】
【Reira:お待ちを。せっかく声呼がベータ手前を抑えたのに、もったいないですわ】
【Jyuna:そっち嫌な予感がする。全員でアルファにラッシュする】
【Alice:ヘイ! 予感なんて信じられないヨ! 声呼もそう思うヨネ?】
【Seiko:え? いえ。樹那先輩がそうおっしゃるなら、従います】
【Reira:あら。わたくしにはついていけないと? 残念ですわ】
【Makina:揉めてる場合じゃねーよ! 先輩の指示を聞け!】
【Alice:チッ!】
(ひぃ! 完全に舌打ちした! こわっ!)
三年の先輩相手に、アリスは苛立ちを隠しもしない。
そんな態度を取りつつも、アリスはアルファへ移動を開始したため声呼もあとに続いた。
到着するころにはウォール・スフィアも時間切れで消滅していた。
【Jyuna:よし、一気に入るぞ。スキルは各自の判断で使え】
樹那の許可もでたため、声呼はまっさきにエンマクで視界を遮りつつ、ハッソウで侵入した。
いそうな場所を一気にクリアリングするが、敵はいない。
【Seiko:誰もいません!】
【Makina:こっちもッス!】
【Jyuna:やっぱしか】
樹那の予感が的中した。
敵はベータ・ポイントへ集中していたようだ。
【Reira:敵、見えましたわ】
報告と同時にログには相手がダウンした情報が流れる。
アルファの様子を見に来たのだろうか。
これによりベータへ敵が回ってくる可能性が出たが、ロケット設置の時間はたっぷりとある。
【Makina:ロケット設置完了ッス!】
あとはもう、有利な位置を抑えた今女が、解除にやってくる敵を潰すだけだ。
このラウンドは完勝である。
なぜかこの日は樹那のカンが冴え渡り、指示は的中した。
だがその非論理的な作戦に対し、麗羅とアリスは明らかに不満げだった。
抗議、反論はもちろん、ため息や舌打ちも容赦なく飛んでくる。
勝っているチームとは思えない空気の悪さだった。
声呼はIGLである樹那に従うべき、と考えていたため、麗羅とアリスからは疎まれたようだ。
【Alice:ヘイ! 声呼、今そのスキル使うタイミングじゃないデショ!】
【Seiko:は、はい! すみませんでした】
【Jyuna:いや、おかげでエリア取れた。結果オーライだ】
【Seiko:はい!】
【Alice:……クソが】
(ひっ! クソって言った!?)
声呼の耳には完全にそう聞こえたが、樹那は何ら反応をしない。
聞こえなかったのか、聞こえないフリをしたのか。
真希波すら言葉少なくなり、チームの雰囲気は最悪である。
次の日のスクリムもそんな具合で、声呼は生きた心地がしなかった。
ただ、自分は力をアピールできたはず、そういう確信があった。
試合に勝利したのもその証拠であろう。
「フーッ!」
選考終了。声呼は椅子の背もたれを思い切り倒し、背中を伸ばす。
たった数戦やっただけなのに、疲れが溜まっていたようだ。
(あとは果報は寝て待てってか)
声呼はベッドに横になると、ものの数秒で眠りに落ちた。
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