動画研究
声呼は空き時間を動画による情報収集にあてた。
自室でくつろいでいる時。登下校の電車の中。トイレに入っているときすら。
まずはトップの試合を見るべきと、世界大会の配信アーカイブを視聴する。
が、これは失敗だった。
あまりにハイレベルすぎて、何をやっているのかほとんど理解できなかったのだ。
次に初心者向けと言われるものを見てみた。
さすがに自分は初心者は脱したと思っていたのだが、これは大間違いだった。
目からウロコが何枚も落ちた。
(ヘッド・ショット・ライン……気にしたことなかったな)
声呼は持ち前のエイム力で撃ち合いを制してきた。
だが、先日のDarkGuruを思い返す。なぜあの時、負けたのか。
その秘密がここにありそうだった。
ヘッド・ショット・ラインとはすなわち、敵の頭の高さに予め照準を合わせておくということである。
コントラクターの背の高さは共通のため、頭がどこにあるかは予測できる。
初めからそのラインに照準を合わせておけば、あとは水平方向だけ合わせれば良いのだ。
それが刹那の差を生むことになる。
そして親切なことに、無造作に置いてある箱の高さが人と同じ高さだったり、壁の色が変わるラインがそうだったり、マップのそこかしこにヘッド・ショット・ラインの目安となるものが隠されているのだ。
声呼は動画を見るまでそのことに全く気がついていなかった。
さらに驚かされたのがマップごとの攻略の奥深さだ。
CEには南国や、はたまた極寒の地。あるいは都市だったり軍事基地だったりと様々なロケーションの六つのマップが存在したが、そのどれもに、そこにしかない特徴が存在した。
このマップの防衛側はここで守っていることが多い。この場所からこのコントラクターのこのスキルを投げると壁を超えてここに落ちる。この壁は撃ち抜けるため、壁の裏に敵がいれば倒すことができる――などなど。
覚えることが山積みだった。
ある日、麗羅から言われた言葉――CEは知識のゲームですわ――が脳裏をよぎった。
その意味がようやく分かってきた気がした。
ひたすらに動画を見て頭に叩き込む。
自分の番まではあと三日しかない。
※※※
友愛は自信なさげではあるが、声は明るかった。
【Toa:友愛はダメだー。二人に任せたよ】
【Seiko:何? 何かあった?】
友愛のレギュラー選考が終わったあと、いつものようにボイス・チャットで会話していた。
声呼も選考を控えた身ではあったが、どういうテスト内容なのか気になり、友愛の選考が終わる頃を見計らってメッセージを送ったのだ。
【Toa:めちゃくちゃ足引っ張っちゃった。明らかに友愛のせいで負けてたもん】
【Seiko:どんなテストだったの?】
【Toa:別に、普通にスクリムやっただけだよ】
【Seiko:相手はどこ?】
【Toa:何だっけ? 何とか情報高専って感じの名前。全員男子のチームでめっちゃ強かったんだよ】
【Seiko:あのねー。今度の大会は女性限定大会じゃないんだから。相手はほとんど男子だよ】
【Toa:そっか。それにしても強かったよ。全員が前の決勝の時のイン・ヒューマンのヤツくらい強かった】
【Seiko:そんなに……】
あの時のイン・ヒューマン、DarkGuruは確かに格が違った。
声呼もランクをゴールドまで上げていたが、まだあのレベルのプレイヤーは見ていない。
【Seiko:ま、でもそれなら負けてもともとじゃない?】
【Toa:うん。先輩たちも負けは気にするなって言ってくれた】
【Seiko:そうだよ。だからまだ分かんないって】
【Toa:いやいや、ムリムリ。アリス先輩にはボロッカスに言われたもん。あの先輩、キレイな顔してめちゃくちゃ口悪いんだもん。友愛、泣きそうになったよ】
【Seiko:そうなの?】
声呼は、アリスとはまだまともに一緒にプレイをしたことがない。
果たして自分は何と言われるのか。不安で思わず身震いした。
【Seiko:ちな、何て言われたの?】
【Toa:それは……お楽しみに】
【Seiko:ちょ! 教えてよー!】
【Toa:あはは】
こんな明るい友愛が泣きそうになったとは、信じられない。
しかし、それだけ先輩達も真剣なのだ。だから言うべきことは言わなければならない。
気を使って優しい言葉を掛け合っているだけでは強いチームはできない。
そう思うことにした。
その後、二人はランクを回すことにした。
友愛はしばらくヒリついた試合ばかりしていたので、気楽にやりたいと言い、声呼は動画で学んだことを実践で試したいという思いがあった。
ランクではあるが、勝ちに固執はしない。
それが良かったのか、二人は勝ちまくった。
【Toa:ヤバッ! 声呼、上手くなってね?】
【Seiko:友愛に言われたように、動画で勉強したんだよねー。友愛も見違えたわ。どうやって練習したの?】
【Toa:練習は変わらずだよ、実践で勉強した感じ。アリス先輩、口は悪いけど言ってることは参考になるからさー】
【Seiko:へー】
良薬口に苦し、ということもある。
体罰は論外だが、厳しい指導は決して悪ではない。
アリスからいったいどんなアドバイスが貰えるのだろう。
成長のためならばどのような苦言でも受け入れよう、そう割り切ると声呼は選考の日を迎えるのが楽しみになっていた。
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