選考開始
樹那は一年の顔を順番に見ながら言う。
「レギュラー選考はこれからの一週間で行う。声呼、良瑠、友愛には二日づつ、ウチらと一緒に練習試合をやってもらう。それが終わったら、ウチらで会議をして決める。何か質問は?」
一年三人衆は互いの顔を見合わせた。
恐る恐る、声呼が手を挙げた。
「あの、順番って決まってます?」
「いや、まだだが、希望はあるのか?」
「いえ、そういうわけでは、ないんですけど」
「順番なんて、こっちはどうでもいいぞ。ジャンケンでもなんでもしてそっちで決めてくれ」
今度は良瑠がゆっくり手を挙げる。
「選考の基準はありますか?」
「エイム力、知識、チーム・ワーク。そういうのを総合的に見て判断させてもらう。どれが重要というより、バランスかな」
「分かりました」
「友愛は?」
友愛は犬が水を飛ばすように勢いよく首を左右に振った。
「よし。では早速始めようか。誰からいく?」
「あの、わたしは出来たら最後の方が……」
声呼は弱々しく言った。
あれだけのことをやらかして、希望を言うのもおこがましいとは思う。だが、今の自分では知識が足りない。
二人が先にやってくれれば四日分の時間が得られる。
そこでできるだけ動画を見るなりして知識を詰め込みたい。
「あー、ちなみに今日はここのPCを使えるぞ。あとはオンラインになる」
「それならボクは最初が良いです」
「じゃ、今日から良瑠、友愛が次、最後に声呼でどう?」
という友愛の提案に一年が合意に達し、それで予定が進行することとなった。
「じゃ、早速始めようか」
「あの、樹那先輩」
「どうした声呼?」
「今日は見学しても構いませんか?」
「もちろん。良瑠も構わないか?」
「大丈夫です」
見られたからといってどうなるものでもない。良瑠の言動にはそんな余裕が滲んでいた。
ならば遠慮なくと、声呼は良瑠の席の後ろに立った。
(先輩方のプレイも見たいけど、今日はライバルの視察しないと)
声呼はそんな風に考えていた。
今女のeスポーツ部には、三つの教室をつなげた拡張教室とも言うべき部室が二つもある。
それぞれに七十五台のゲーミングPCが備え付けられている。
CEチームは端の五台を借りていた。
二つの横並びの席と、その向かいの二つの席。その上座のように横向きにある端の一席だ。
上座に樹那。彼女から見て右手に麗羅、アリスが並び、その向かいに真希波と良瑠が座った。
ゲームが始まってすぐ気が付いたのは、IGLとしての樹那と麗羅の違いだ。
詰将棋のように相手を追い詰めていく麗羅に対し、初めて見る樹那の指示はとても直感的のように見えた。
「ウチと麗羅はアルファ。あとの三人はベータへ」
指示はマイクを通しているが、この場にいるので実際の声も聞こえてくる。
(またか。さっきそれでラウンド落としたのに)
失敗した作戦を、なぜか樹那は変えない。その理由が声呼には分からなかった。
麗羅とは、しばらくやっているうちに、指示を聞けば何を狙っているのか分かるようになっていた。
それだけ行動が理論的だったからだ。
だが樹那の狙いは、声呼にはよく理解できなかった。
良瑠もそれを感じているようだった。いつもより動き出しが遅い。そこに戸惑いが見える。
だが二年生達は特に変わりはない。樹那の指示に慣れているのだろう。
(お? おいおい)
声呼は内心で驚きの声を上げた。良瑠が樹那の指示を無視し、麗羅の後ろへ付いたからだ。
「良瑠、そこじゃない。ベータへ」
やはり樹那から咎められるが、良瑠は従う様子がない。
「良瑠!」
「はい! でもここから敵を狙えます!」
良瑠は、スナイパーで二人を援護しようというのだ。
その意図は、後ろから見ている声呼には良く分かった。
「必要ない! こっちは二人でいける!」
樹那の声が少し怒気を含みだしたので、良瑠は渋々といった様子でベータへ移動を始めた。
「麗羅。様子を見る。サポートして」
「かしこまりました」
樹那はピークして中を見ようとするが、その瞬間、待ってましたとばかりにヘッド・ショットを食らってしまう。
「麗羅、ベータへ。ベータはエントリー」
「了解ッス。フラッシュ・バン入れるぞ」
真希波は使用するコントラクター、シエラのスキルであるフラッシュ・バンをベータに投げ入れた。
殺傷力のない手榴弾だが、爆発を視界に入れてしまうと、強烈な光によって一時的に何も見えなくなってしまう。
流れるようにベータに入り込んだ三人は続けざまに3ダウンを奪い、ベータを支配する。
やや遅れて入った麗羅により、ロケットが設置された。
あとはロケット発射まで防衛するだけだが、こうなると圧倒的有利だ。
捨て身のように突っ込んできた相手を麗羅とアリスが処理し、発射を待つまでもなく今女のラウンド勝利となった。
(良瑠の動きはおかしかったけど、ベータの三人はさっきより良い連携だったな)
同じような動きだったのに、今度は勝てた。その要因はベータ側三人の連携にあったようだ。
(あまり慣れていない良瑠のための作戦だったのかな?)
声呼はそんな仮説を立てた。
それが正しいと立証するかのように、良瑠はどんどんチームに馴染んでいく。
その対応の早さに、声呼は舌を巻いた。
単なる撃ち合いだけならまだ勝つ自信はある。
だが、これだけの連携を、この短時間でできるだろうか。
声呼は腕組みする右手で、左の二の腕をぐっと握った。
感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。