レギュラー選考
学生の本分は勉強である。
今女でも一学期期末試験が実施された。
全部活動共通のルールとして、赤点を取ってしまった生徒は部活動を休止しなければならない。
この期間ばかりは、声呼も好きなゲームの時間を抑え、勉強に集中した。
部活動も自由参加となる。
ここさえ乗り越えればその後は夏休みが控えているのだ。
オンラインで対戦したいのを堪え、一日数十分のエイム・トレーニングだけで済ませる日々を過ごす。
あれ以来、良瑠とはなんとなく接するのを避けていた。
試験勉強を体の良い言い訳にしていたかもしれない。
友愛とは時々オンラインで会話をしたり、少しだけCEを一緒にやったりした。
無事に試験が終わり、すぐにGATEにログインすると、友愛の名前があったので、声をかけた。
すこし練習しようということで、友愛のルームに集合する。
友愛のルームは女の子らしい部屋だった。
全体的にパステル調のパープルに統一されてたカラーリング。
窓際には小さな観葉植物が置いてある。
三人掛けソファーはやはり紫で、その上には何かのキャラクターらしいぬいぐるみが五つほど置いてあった。
壁には親しい友だちたちと撮ったのであろうスクリーン・ショットが額に入れて飾られてある。そのどれもにハート・マークのスタンプやら、書き文字やらで装飾が施されていた。
二人はテスト結果の予想などの会話を楽しみ、流れは自然にゲームのことへと移った。
【Toa:CEってさ、キルとかデスって言葉、使わないようにしてるって知ってた?】
【Seiko:あー、確かに。ダウンって言うもんね。なんで?】
【Toa:あれって実はリアルなVR空間でやってる模擬戦、っていう設定なんだって。だから死んだわけじゃないんだってさ。なんでそうするかっていうと、死ぬとか殺すとかいう言葉を使うと世間から叩かれるから、らしいよ】
【Seiko:なるほどね。最近はそういうのうるさいもんね】
【Toa:ゲームの中でゲームやってるってことだよ。ややこしい。でもおかげで高校生でもできるようになったみたい】
【Seiko:そっか。そういう意味じゃありがたいね。全国高校eスポーツ大会の種目になったのもそのおかげかな】
【Toa:たぶんそうだよ】
そんなとりとめのない会話をしていたが、すこし静寂があった。
すると意を決したように友愛が話だした。いつもより、低く、落ち着いた口調だ。
【Toa:最近、良瑠と話してる?】
【Seiko:ううん。全然】
【Toa:話しなよー。なんか二人、空気悪いよ?】
【Seiko:分かってるけどさー。なんか色々あったし、ね】
【Toa:ま、そう言う友愛も良瑠とはあんまなんだよね】
【Seiko:へぇ? なんで?】
【Toa:こっちから話しかけても、面倒くさそうにされてさ。忙しいから、みたいな感じ。友愛より麗羅先輩と一緒にいるみたい。練習してるんじゃないかな。良瑠って入部したときは全然初心者だったのに、今では先輩にもついていけるらしいよ】
【Seiko:いつの間に、そんなに?】
【Toa:友愛たちじゃ、足引っ張っちゃうのかもね】
確かに良瑠の成長ぶりには目を見張るものがあった。
だが声呼にはここまでアリーナ系FPSをやってきたアドバンテージがあったはずだ。
その界隈では、少しは名のしれたプレイヤーでもあるのだ。
CEもルールさえ覚えればすぐに上級者になれると思っていた。
【Seiko:わたし、最近はエイム練習しかできてないんだよね】
【Toa:だろうねー。声呼はエイムは良いんだから、あとはもっと動画を見ると良いよ。上手い人が解説動画いっぱい出してくれてるから。細かいテクニックがすごいあるんだよ。電車に乗りながらとか、なんか待ってるときとか、そういう時の暇つぶしにもなるし】
【Seiko:動画か、確かに見てなかったかも】
CEはアリーナ系とは違う、チーム戦である。数々の覚えるべきことがある。
コントラクター、スキル、武器、マップなどの基本からコントラクター同士の合せ技、あまり知られていない小技も多数ある。
知識でテクニックをカバーすることも可能なのである。
声呼に圧倒的に足りないのはそこだった。
その後、二人で数ゲーム遊んだ。
やればやるほど、CEというゲームの奥深さが分かってくる。
友愛もどこで覚えたのやら、驚くようなテクニックを身につけていた。
このままでは置いていかれる。もっと学ばなければ。声呼の心の中にそういう焦りが生まれていたが、それは決して不快なものではなかった。
知るほどに成長を実感できるということに、喜びすら抱いていたのだ。
※※※
週明け。
その日はテスト終了後の初の全体練習がある。
広い部室の一角に集ったCEチームを前に、樹那が話を始める。
「みんな。知っての通り、七月最終週の日曜にPhase ZEROの関東ブロック代表決定戦が行われる。それに向け、チームのレギュラー選考を行いたいと思う」
(予想はしてたけど、もうそんな時期なの?)
声呼は暑さが原因ではない汗を流した。
友愛もいつものヒマワリのような笑顔が消えている。
そんな中、良瑠だけは何か含みのある微笑を浮かべているのだった。
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