大詰め
【Seiko:ダウン!】
【Reira:仕方ありません、エントリーしますわ!】
無謀ではあったが、声呼がチャンスを切り開いたのは確かだ。
麗羅たちは声呼に続いてベータへ入り込む。
ロケット解除までまだ十分時間がある。
今度は慎重に、奥へ進んでいった声呼がロケットを見つけた。
【Seiko:ロケットありました! 敵、いません!】
【Reira:わたくしが解除いたします。みなさんは周りを警戒してください】
麗羅、真希波、友愛が声呼のもとへ向かう。
だがその時、三人が近すぎたことが悲劇を呼んでしまった。
三人の頭に次々に弾丸がヒット。一気に3ダウン奪われてしまう。
【Toa:ちょ! 嘘でしょ? 巧すぎぃ!】
【Makina:例の:イン・ヒューマンっぽい奴だ】
真希波はログを確認した。
ダウンを奪った敵のプレイヤー・ネームは『DarkGuru』。
そしてもう一人、『Comet』もかなりの使い手だった。
【Reira:申し訳ございません。声呼、良瑠。あとはお願いします】
人数は二対二。
まだ並んだだけのように思うが、こちらは初心者二人。
敵は下げランの被疑者である。
楽観できる状況ではない。
良瑠は弾丸が飛んできた方向へ向かい、ウォール・スフィアを展開する。
彼女の使うコントラクター、フィローゾファのスキルで、最大800ダメージまで耐える壁を生成する。
三十秒ほどで消えてしまうが、時間稼ぎはできる。
良瑠はロケット解除に取り掛かった。
その間、無防備となる彼女を、声呼は守護する。
しかし、声呼が見ていた方向とまったく逆から銃弾が飛んできた。
背後に回り込むまでの時間はなかったはず。
ということは、初めからそこに潜んでいたということだ。
声呼もそちらから来るとは思ってもいなかった。
声呼は振り向きざま、敵を撃ち抜いた。
だが、それは一歩、間に合わなかった。
良瑠と『Comet』のダウンを交換する格好となる。
これで声呼と『DarkGuru』だけが残った。
【Reira:声呼、解除は無理ですわ】
【Seiko:分かってます! 先にダウン取ります!】
【Reira:いいえ、相手はイン・ヒューマン級の実力者です。無理に戦わずとも構いません】
【Seiko:一対一です! いけます!】
【Reira:いけません。相手にダウンを献上することになります。ロケットの爆風でダウンなさってください】
【Seiko:そんな……負けろって言うんですか?】
【Reira:ここは負けで良いのです】
ダウン1つにつき、200キャッシュが入る。
ラウンド勝利にしろ、敗北にしろ、なるべくダウンを取られないにこしたことはない。
ならば最後まで逃げれば良いか、というとそうではない。
そのことを防ぐため、最後まで生き残った者は1,000キャッシュしか入らないようになっているのだ。
爆風でダウンすれば相手にキャッシュを献上することもなく、敗北時の1,900キャッシュが満額入るというわけだ。
【Seiko:やります、やらせてください!】
【Reira:声呼!】
ウォール・スフィアが消えた。
『DarkGuru』はゆっくりとベータ・ポイントへと歩を進める。
声呼の姿は見えない。
『DarkGuru』はロケットが見える位置で待機した。
解除に来るなら倒す。そうでないなら、このまま待っているだけで勝利となる。
(と、思うだろ? さっきみたいに大きく飛び出せば、コイツも外すはずだ)
成功体験からの選択。
再びオーバー・ピークを狙った。
しかし、相手はそれが通用するランクではなかった。
敵の姿を視認、DarkGuruは動く声呼に、声呼は動きを止めながら、照準を相手の頭へ正確に合わせる。
引き金はほぼ同時に引かれた。
時間にすればコンマ数秒。
僅かに勝ったのは『DarkGuru』だった。
※
【Seiko:すみませんでした!】
【Reira:いえ、ナイス・トライでした声呼。切り替えましょう】
麗羅はそう言ってくれたが、声呼には水中にいるかのような息苦しさを感じていた。
良瑠は何も言わない。
あのお調子者の真希波や友愛ですら、だ。
そこから声呼は麗羅の指示を聞くように努めた。
だがその動きはぎこちなく、良い時の彼女の姿は見る影もない。
今女は少しも良いところ無く、そのままストレートで敗北を喫してしまうこととなった。
※※※
大会後、再び樹那のルームに集まる一同。
IGLとしてチームを引っ張った麗羅から労いの言葉が贈られる。
【Reira:お疲れ様でした、皆様】
各々がお疲れ様と声を掛け合う。
そんな皆の前に、声呼が歩み出て言った。
【Seiko:あの、最後にわたしからもう一度、今日はすみませんでした!】
【Raru:声呼ちゃん。謝れば良いって思ってない?】
【Seiko:それは……その……】
【Jyuna:よせ、良瑠。各々言いたいことはあるだろうが、反省会は後日だ。今日はもう休め。良いな?】
【Reira:そうですわね。ではお先に失礼いたします。皆様】
麗羅がログ・アウトすると真希波、良瑠、友愛も続いた。
誰も声呼に一瞥もくれない。
【Jyuna:声呼。お前も負けを引きずるなよ】
樹那は肩を叩くような仕草をし、そのまま消えた。
ルームの主が落ちたため、声呼は強制的に自分のルームへと飛ばされた。
声呼は暫くの間、そこでただ佇んでいた。
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