決勝
小さなネジが一つ欠け落ちたかのような、僅かな違和感を感じつつも今女チームは無事、決勝に進出した。
チームプレイとは何か。
そのことを意識せざるを得ない声呼は、ここまで動きの精彩を欠いていた。
言われたことから自分なりに考え、味方の動きをよく見るようにした。
だがそれを重視すると、ここ、という自分のタイミングで動くことができない。
どうしても息苦しさを感じてしまう。
ダウンをとった数は明らかに減少していた。
だが、それを考慮しても、決勝の相手はこれまでと違った。
初戦のスコアは6対13で今女の負け。第1ゲームを先取される。
次で負ければ敗退という状況だ。
【Toa:敵チーム、強くないですか?!】
【Makina:おかしい。プラチナが二人、あとはゴールドのはず。それ以上の強さを感じるね】
【Reira:プラチナのお二人は、お一方はわたくしのランク、ダイヤ帯程度の実力がありますね。もうお一方にいたってはさらに上。イン・ヒューマンくらいはありそうですわ】
【Seiko:それってどういう……?】
【Makina:仮説だけど、ひょっとしたら下げランかも】
【Raru:下げラン……って何です?】
【Reira:わざとランクを下げる行為のことですわ。今回の大会はランク制限はありませんので、そこまでやるメリットは薄いと思いますが】
【Seiko:弱く見せようとした、ってことですか? 汚ったねぇ!】
【Makina:まぁ、決めつけは良くないよ。あんた達だって、シルバー帯とは思えない強さなんだし】
【Reira:仮にそうだったとしても、大会の規約違反ではございません。言っても詮無いことですわ】
【Seiko:でも!】
【Makina:落ち着きなって、強い相手と戦えるってのはいい経験だよ?】
【Reira:真希波のおっしゃる通りですわ。そもそも今回の参加はあなた方一年生の経験のため。勝つことが目的ではないのですわ。胸をお借りするつもりでいきましょう】
【Raru:そうですよね。ともかく、今出せる全力でぶつかりましょう!】
【Toa:おー!】
チーム・メイトの言うことは何一つ間違っていない。
それを理解していないわけではないが、声呼は納得できなかった。
自分の実力を偽るなど、eスポーツ・プレイヤーとして許しがたい行為だ。
気持ちの切り替えが間に合わないまま、第2ゲームが始まった。
今女は特に作戦を替えなかったため、第1ゲームと同じように1ラウンドを落とした。
【Reira:このラウンド、武器は買い控えてください。エコ・ラウンドとします】
エコ・ラウンドとは、キャッシュを節約するラウンドのことである。
勝利で3,000、敗北時は1,900キャッシュが入る。
1ラウンド目を敗北したことで、キャッシュの差を付けれられてるのが現状だ。
このラウンドは捨て、次に賭けるという作戦である。
【Seiko:なんでですか! 絶対、買ったほうが良いですよ! じゃないと勝てないです!】
【Makina:このラウンドは落としてもしょうがない。次から取り返すってことだよ】
【Seiko:落としてもしょうがないって、そんなの弱気すぎます!】
【Reira:声呼、いつも言ってますわよね? 時には引くことも大事だと】
【Seiko:くっ……!】
ただでさえ第1ゲームを落としている現状。声呼は1ラウンドたりとも譲る気はなかった。
(なら、わたし一人で勝ってやる!)
声呼は800キャッシュで買えるピストル、ダイアナを購入した。
ピストルとは言え、そのダメージは馬鹿にならない。
頭に当てさえすれば、一撃でダウンをとることも可能な武器だ。
守備側の今女は、麗羅から固まって動くことを指示された。
【Reira:エコ・ラウンドでは装備で劣る分、数的優位を作るのがポイントです】
全員でアルファ・ポイントへ。
運良く一人で歩いていた敵を倒すことに成功した。
その周りを警戒するが、敵の気配がない。
【Reira:ベータに移動します】
倒した一人からの情報により、ベータ側が手薄であることが漏洩してしまった可能性があった。
全員が固まっていたことの弊害が出てしまった格好だ。
(こんなの、作戦ミスだろ!)
声呼は内心、麗羅を非難した。
案の定、すでにベータに敵は到達しており、ロケット設置に取り掛かろうとする最中だった。
突入しようにも、入り口にスモークを焚かれ、相手の位置が把握できない。
スモークが消えるのを待っている間、ロケットが設置されてしまったことがアナウンスされる。
【Seiko:間に合わない! 行きます!】
【Reira:お待ちなさい。声呼!】
スモーク消失と共に入ってくるだろうことは敵も分かっている。
すでに出てきそうなポイントに照準を合わせ、待ち構えていた。
声呼は飛んで火に入る夏の虫、となるところだったが、その入り方があまりに思い切りが良すぎたため、相手の照準の位置を飛び越えてしまった。
遮蔽物から飛び出すことをピークと言うのだが、それは図らずもオーバー・ピークと言われるものになった。
敵の弾は声呼の頭をわずかに外してしまう。
声呼はその銃弾が飛んできた方向を瞬時に察知、鍛え抜いたエイムで相手の頭に照準を合わせると、そのまま撃ち抜いた。
今女が大きな2つ目のダウンを奪うことに成功したのだ。
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