初陣
声呼はノっていた。
ここまでのスコアは12-0。声呼は30ものダウンを奪っている。
相手に1ラウンドも取らせること無く、勝利は目前だった。
【Raru:声呼、次は防衛だよ!】
【Seiko:ダイジョーブだって!】
【Raru:本当に? 先輩からも何かおっしゃってください】
【Reira:まぁ良いですわ。好きなようにおやりなさい】
【Seiko:よっしゃぁ!!】
樹那と友愛はアルファ・ポイント、真希波と良瑠はベータ・ポイント、そしてそのどちらにもアクセスしやすい中央のルート、通称ミッドを声呼が見張る。
【Makina:サーチャーに反応なし】
真希波の操るコントラクター、シエルのスキルは索敵能力に優れたリーコンである。
【Reira:了解。引き続き、相手の出方を待ちます】
【Toa:ぎゃぁ!!】
友愛の悲鳴と銃声が響いた。
【Reira:どうしました?】
【Toa:敵と目が合いました! もう近くまで来てます!】
【Makina:応援いるか?】
【Reira:いえ。陽動かもしれません。ベータを離れないでください】
【Seiko:ならわたしが裏から回ります!】
【Reira:無理は禁物ですよ】
【Seiko:はい! 作戦があるんで!】
声呼は敵の姿を見ていない。
ならばミッドは通らないつもりと踏んだ。
アルファへエントリーするつもりの敵は、背後には無警戒だった。
声呼は物陰に潜む敵の姿を見つけると、ここまで貯めていたアルティメット・スキルを使用した。
フーマの場合、シュリケンというものがそれだ。
五本の手裏剣を構え、投げつける技で、頭に当てれば一発でダウンを奪える強力な攻撃だ。
ダウンを奪うとシュリケンは補充され、再び五本に戻る。
手裏剣といっても形は棒手裏剣で、投げナイフに近い格好だ。
【Seiko:はい、一人! おっと、二人目!】
壁に隠れていた敵は声呼に気がつくまもなくダウンした。
その敵をサポートする役目だったのだろう、すぐ側にいた敵は振り返り、声呼の姿を視界に入れた。
声呼も慌てたが、次の瞬間にはシュリケンを三発当て、倒す。
だが残りに三人は異変に気がついた。すかさず銃を構え、警戒態勢を取る。
声呼の姿を探すが、その視界をエンマクが覆った。
三人は、エンマクが切れた瞬間に声呼を狙うため、その場に待機した。
だが声呼は、ハッソウを使い、エンマクを突っ切って敵の背後を一気に取った。
振り返りざまにシュリケンを放つ。
【Seiko:遅い! オラ!】
二人は振り返る暇も無くダウン。
最後の一人はやや離れたところにいた。
声呼は銃撃を受けたが、ジャンプすることで頭部への被弾を避けた。
シュリケンの良いところは、ジャンプしようが走っていようが、狙いがブレないところだ。
そこを声呼は気に入っていた。
最後の一人の頭に狙いを定め、シュリケンの第二の攻撃方法である全弾撃ちを実行する。
五本全てのシュリケンが敵を襲った。
敵がダウンすると同時に、画面には『ACE』の文字が大きく表示される。
【Seiko:よっしゃぁ! エース!】
【Toa:ナイスゥ!】
だがそれを声高に称賛したのは友愛だけだった。
【Reira:皆様。ご苦労様でした。一度、樹那先輩のルームに帰還いたします】
【Seiko:あっ、ハイ】
麗羅はゲームから退出した。
良瑠も無言のままそれに続いた。
【Makina:声呼】
【Seiko:ハイ?】
いつもは明るく調子のいい真希波が、気味の悪いほど落ち着いた声で呼びかけた。
【Makina:このゲームは一人でやるものじゃない。チーム戦なんだ】
【Seiko:ハイ。もちろん知っています】
【Makina:……そっか、なら良いんだ】
そう言って真希波も退出する。
【Seiko:何だってんだ? 勝ったんだから良いだろ】
【Toa:ほら、友愛達も戻ろうよ!】
【Seiko:ああ。うん】
声呼は釈然としないまま、ゲームを落とした。
※
樹那のルームに集合すると、次の試合まで時間がある、ということで一度休憩をとることとなった。
各自ログアウトしていくなか、声呼だけは樹那に呼び止められた。
【Jyuna:声呼、麗羅と上手くやってるか?】
【Seiko:わたしはそのつもりなんですけど、なんか嫌われてるかもしれません】
【Jyuna:そう感じるか。なんでだと思う?】
【Seiko:……わたしが、先輩の言うことを聞かないから、ですか?】
【Jyuna:分かってるならなぜ聞かない?】
【Seiko:でも、わたしの活躍で勝ててるじゃないですか】
【Jyuna:確かに。大したもんだよ。でも、それじゃダメなんだ】
【Seiko:なんでですか? みんなにも見せ場を作れってことですか?】
【Jyuna:ちげーよ、バカ。このゲームはチーム戦なんだよ】
【Seiko:そんなこと分かって――】
【Jyuna:いや、分かってない。今回勝てたのは、申し訳ないが相手が弱かったからだ。今後は同格、あるいはそれ以上の相手が出てくる。今のままでは通用しなくなる時がくるぞ。味方と協力することを覚えろ。それができない限り、お前はチームに馴染めないぞ】
【Seiko:そんな:……】
【Jyuna:よく考えろ。さ、声呼も休憩しろ。ウチも一回落ちるぞ】
そう言い残し、樹那のアバターは空気に溶けるように消えた。
声呼はしばし、その場に立ちすくんでいた。
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