初大会
BO(数字)……"BO”とは、『Best Of〜』の略称で、その後に続く数字が、最大何本勝負かを示しています。
GW女性限定カウンター・エスピオナージ大会。
そう冠された大会は、有志による主催で参加条件は全員が女性であることのみ。
GATEで性別を詐称することは不可能だが、非公開にすることはできる。
さらに昨今の多様性に配慮し、あくまで性別は自己申告による。
まだ男性優位であるeスポーツを、女性の間にも親しんでもらいたい、という主旨の大会であった。
賞金も出ない小さなオンライン大会で、今回は10チームが参加する。
学校も休み期間で、大会も夜遅くまでかかる予定のため各自、自宅からの参加となった。
いつものごとくチームは樹那のルームへと集合していた。
【Jyuna:よし、集まったな】
【Makina:アリスが来てないッスよ?】
【Jyuna:アリスは今回、不参加だからな。観戦するそうだ】
大会は配信されるため、ネット環境があれば無料で視聴が可能だ。
【Raru:初戦の相手はどういうチームですか?】
【Jyuna:今回の参加者をざっと見てみたんだけど、ウチの知ってる人はいなかった】
【Makina:情報無しッスか?】
【Jyuna:ランクで言えばほぼゴールド帯。数人プラチナ帯がいる。ランクが無い人もいたけど、たぶん初心者だね】
【Reira:プラチナ帯の方々はわたくしも調べさせていただきました。ほとんどが無所属の方ですわね】
CEではプレイヤーのスキルを明示化するため、ランク・マッチというものでランク付けすることができる。
対戦をすることなどで上がっていくアカウント・レベルが20を超えると初めてランク・マッチに参加できるようになる。
一番下のランクはアイアン。次いでブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナ、ダイヤ、イン・ヒューマンと上がっていき、地域の上位500名にはゴッド・ライクという特別なランクが贈られる。
各ランクは三段階のディビジョンに分かれており、ランク・ポイントが100貯まるごとにディビジョンが一つ上がる、という仕様だ。
【Seiko:わたし、シルバーですよ?】
【Raru:ボクも……】
【Toa:友愛も!】
【Makina:お前たちは始めたばっかなんだから、そりゃそうよ】
【Reira:ええ。むしろ、この短期間でよくそこまで上げましたわ。ゴールド相手でも引けは取らないと思いますわよ】
【Raru:本当ですか、麗羅先輩!】
良瑠は声を弾ませた。
飼い主に褒められた犬のように、珍しく興奮ぎみだ。
【Makina:アタシはプラチナだし、麗羅はイン・ヒューマン間近のダイヤだから。勝てる勝てる】
【Reira:真希波の言う通り。わたくしたちがキャリーいたしますのでご安心を】
キャリーとは、eスポーツでは上手なプレイヤーが自らの活躍によってチームを引っ張る、というような意味で使われる。
【Seiko:安心してくださいよ、先輩。わたしもこの日のためにエイム特訓して来ましたから!】
【Reira:声呼、このゲームはエイム力だけで勝てるものではありません。いつものように単独で突っ込んではいけませんよ】
【Seiko:えー! せっかく鍛えたこの力、是非お見せしたいですよ!】
麗羅の盛大なため息が、ボイス・チャット越しでも聞こえてくる。
【Raru:ダメだよ声呼ちゃん! 麗羅先輩の言う事をちゃんと聞かないと!】
【Seiko:う、うん】
(ちゃん付けは止めろって言ってんのに。なんだか背筋がゾワッとするわ)
良瑠は同級生全てをちゃん付けする癖があった。
声呼は複数にわたり、止めるよう懇願したのだが、彼女に治す気は無いらしい。
【Reira:良瑠。あなたが頼みの綱ですからね。よろしくお願いしますわ】
【Raru:はい! 先輩について行きます!】
良瑠は練習を重ねるうち、麗羅の指示を盲信するようになっていった。
それほどに彼女の作戦は的確であったからだ。
相手の裏をかき、味方の特性を活かす。
彼女といるだけで、自分の力が倍以上に発揮されているように感じていた。
【Toa:麗羅先輩、友愛はどうですか!?】
【Reira:あなたは……ちゃんとご飯、食べて来ましたか?】
【Toa:はい! ハンバーグいっぱい食べて来ました!】
【Reira:ならば結構です】
【Makina:おいおい、それだけかい!】
【Reira:とても重要なことですわ。友愛は空腹時、明らかに集中力が欠落しますから】
【Toa:てへへ! 流石、先輩! 友愛のことお見通しですね!】
【Makina:てへへって、お前……ワンパクか?】
【Jyuna:お前ら、公式配信、見てっか? そろそろウチらの出番だから、温めとけよ!】
メンバーたちは返事をすると、各々がトイレに行くなど準備を始めた。
声呼は一度、ゲーミング・チェアから立ち上がり、背筋を伸ばしたり、腰を回したりしてみた。
eスポーツにそのような準備運動がどれほど効果的かはわからない。
ただ、何かやらないと落ち着かなかったのだ。
大会はトーナメント方式。決勝のみBO3で、それ以外はBO1。一度でも負ければ敗戦である。
あくまで慣れるための参加とはいえ、一年生三人はそれぞれが緊張感を持って初戦の開始を待っていた。
感想などお待ちしております。ちょっとしたことでも大変励みになります。誤字脱字などありましたらお気軽にお知らせください。助かります。