落着の後
「俺達にも言ってくれよ! 全部済んだ後じゃ遅いぜ」
ジンがフェイを退けた後、車はそのまま走行を続けてフェルセの街を抜けた。その中で、事態が安定してからジンに運転を任せて車のリビング部分に戻ったメリーはそこにいたレプト達に状況を説明する。
何が起きたかを知ると、レプト達は自分達も手助けできたと主張する。それに対してメリーはタバコを口に咥え、クッションのついた椅子に深く腰掛けながら応える。
「状況が状況だった。一人で戦った方がよかったんだよ。私達の中で一番戦闘能力があるのはジンだ。あいつに任せるのがベストだった」
メリーの冷静な言葉を受けても、レプトやレフィ、カスミはまだ納得がいっていないようだった。ただ、そんな三人に反し、メリーの言葉を理解しきった様子のリュウは彼らに落ち着いた口調で話す。
「説明された通りなら、無暗やたらに何人もで戦うよりかはジン一人で行った方がよかったよ。二人の考えに非はないし、僕達にもない。ともかく、安全に済んでよかったよ」
結局安全に切り抜けることができたのだからそれでいいだろうとリュウはまとめる。その言葉に、三人は少しだけ不服そうな色を残しながらもそれぞれ手近な場所に座った。
そんな中、カスミはふと、自分達を追ってくる相手であるフェイのことを思い返す。同時に、彼女の視線は彼の部下に傷つけられたレフィの腕に向かった。
「……あいつ。あのフェイって奴。相当レプトやジンにご執心みたいね。あんな汚い手を使ってまでアンタ達を捕えようとするなんて……」
呆れと苛立ちが混じったような口調でカスミはこぼす。その言葉に同調したのはレプトだ。
「ああ。俺ってよかジンだな。随分とお熱らしい。何度追い払っても向かってきやがる」
「ジンにお熱なのに、ジンの仲間を躊躇いなく傷つけるのね。自分よりも一回りも二回りも年下の子供のこと。それに……」
カスミは、レプトと共にメリーの隠れ家に身を潜めていた時に聞いた話を思い出す。メリーが事情を説明したのに、フェイが信じることはできないと言った時のことだ。
「メリー、友達だったんでしょ?」
「まあそうだが」
「友達の言ったこと、全く信じようともしないなんてあいつ最低よ。あいつの師匠だっていうジンまで同じ話をしてるのに信じないんでしょ? だったら一体何を信じてんのよ」
カスミは仲間であるレフィが傷つけられたことを相当根に持っているようだ。そして、メリーの言葉を一切信じようとしなかったことも彼女の印象に残ったらしい。カスミから見たフェイは最悪の人物といったところだろう。そして、彼女の言葉を他の三人も否定しない。
だが、そんなカスミの言葉を聞いたメリーはタバコを大きく吸いながら、ふと呟く。
「友達の悪口を聞いて黙ってられるほど、私は温厚じゃないぞ」
言葉を聞いた一行は、メリーの方へと一斉に目を向ける。彼女は指で挟んだタバコの灰をトントンと叩いてテーブルの灰皿に落としている。指には余計な力が籠っていた。
「まあ、相手がガキだから仕返しなんてしないがな」
「は? ……アンタが悪い奴じゃないってのは分かったけど、あのフェイって奴は少なくともアンタと同じ感じじゃないわよ」
「ああ、同じじゃないな。私や、ジンなんかよりよっぽど出来た人間さ」
反発するように強く返すカスミだが、更にメリーは重ねるようにして彼女の言葉を否定する。彼女の中のフェイは、カスミ達が抱いている印象とは大きく違っているらしい。それに納得がいかないのか、カスミはメリーに問う。
「何でそう思うのよ。友達のアンタの言葉を、全然信じてくれなかったのよ?」
「ぐ……あれはまあ、正直私もショックだったんだが」
カスミの言葉を受けると、メリーは刃物で刺されたのと同じような苦悶の表情を一瞬浮かべる。その後で、深くため息を吐きながら説明した。
「フェイは馬鹿正直で、愚直で、友達思いで、芯の通った奴だ。本当は今日みたいなことをする奴じゃない」
「……って言われても、実感湧かないわよ。じゃあ何で今日はレフィにあんなことをしたのって話だし。それに、メリーの言葉を信じるか考えようともせず否定したのは、どう考えても納得いかないわ」
「仕方ないのさ。あいつの中では、それ以外は二の次になってしまうほどの、絶対的に信頼しているものがある」
メリーは自分がそれに勝れなかったことを惜しむように、腹の底から漏れるような深いため息を吐いた。
「長話は好きじゃないが……友達の名誉がかかってる。舌に鞭を打つとするかな」
メリーはこれからする長話に向けてか、古いタバコを一本吸い切り、新しいのを懐から出して口に咥えると、それに火を付けた。




