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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
旅の始まり
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カスミの事情と二人の背景

 十数分ほど走り続け、レプト、カスミ、ジンの三人は街の喧騒がついてこない裏路地にまで入り込んだ。三人の運動能力は人攫いの男達を手間取らずに倒したり、人を殴って吹っ飛ばすだけあって高く、疲れている様子はない。

 影が覆う暗い路地裏で、周囲に人目がないことを確認してレプトは一つ息を吐く。


「これで、ひとまず落ち着けるな」

「落ち着ける、じゃない。まったく、本来ならこんなことはしないつもりだったんだが……」


 安全な場所まで来て体を伸ばすレプトにまだジンは小言を投げる。そんな二人の様子をカスミは一つ距離を置いたところで見ていた。

 そんな彼女にレプトは何か思い出したように声をかける。


「そうだ。カスミ」

「えっ、なにかしら?」

「お前、これからどうすんだ?」


 レプトが聞いたのは、カスミの今後だ。


「成り行きで引っ張ってきちまったけど、お前も一応あいつらに攫われてたんだもんな」

「一応って何よ……。まあ、ウチに帰りたいけど……」


 そう言って彼女は周囲を見渡す。そして、腕を組んで唸り始めた。


「多分、私の家はここから大分距離があるの。家の周りとこの辺りじゃ建物の見た目が全然違うし。ていうか、まずここがどこかもハッキリ分からないから……」


 カスミは目的こそハッキリしているが、それに至るために必要な情報や手段が整っていないことをレプトに話す。その彼女の言葉にジンが反応する。


「誘拐されてきたのだから当然だな。それに、どうもお前の身なりはここら辺の人間が着る服じゃない。衣服を大量生産できるくらいの技術がある……恐らくは車が走っているような設備の充実した街だろう。近くにそんな街はない。そういう街があるのは首都周辺かそこと繋がる街だ」


 ジンはカスミの服装から彼女がどのような街で暮らしていたかを予想する。その上で、彼女をどうするかということについて首をひねった。子供であるレプトとカスミは、三人の中で唯一大人のジンがどう判断するかを待つ。

 しばらく経つと、ジンはカスミに向かって複数の問いを投げかける。


「カスミ。お前の歳は」

「十五よ」

「地図とか読めるか?」

「全く」

「手持ちの金は」

「一銭もないわ」

「家族や家の人間との連絡手段は?」

「……ない」

「…………なるほどな」


 質問を重ねていくほど、ジンは顔を俯かせる角度を深めていく。そして、彼の質問の意図を理解し始めたカスミもどんどんと顔を青ざめさせていった。

 ジンの質問で分かったのは至極単純なことだ。カスミがこれから家に戻るのは、非常に困難であるということ。

 自分の状況を理解したカスミは、即座にジンに頭を下げて激しく頼み込む。


「お願いしますジンさん! 必ず役に立ちますから、面倒を見てもらえないでしょうか!」


 明日の生活すら危ういカスミには他の手段がないのだろう。当てもない彼女には今目の前にいるジンとレプトだけが頼りなのだ。


「ちょ、急に何してんだよ」


 ジンとカスミの話をあまり聞いていなかったレプトは急なカスミの行動に驚く。そんな彼に、ジンは頭を掻きながら内容を要約して説明する。


「居所がないから、俺達についてきたいらしい」

「ああ、俺はいいぜ」


 ジンの言葉にレプトはノータイムで返答する。それに食いついたのはカスミだ。彼女は「ホント!?」と高い声を上げて彼に詰め寄って問う。レプトはそんな彼女の様子に少し引きながらも頷いた。

 だが、二人の間にジンが割って入って話を止める。


「待て、レプト。そんな簡単に決めていいことじゃない」


 ジンは即座に首を縦に振ったレプトを制止し、カスミに真剣な声色で言う。


「カスミ、俺達の旅にお前を連れていくのは全く構わない。だが逆に、俺達の方からお前に聞かなくてはならないことがある。まだついてくると決まったわけではないから詳しく事情を説明することはしないが、これだけ、言っておかなければならない」


 ジンはそう言って、一息つく。彼の隣にいたレプトも、先ほどまでは深く考えていなかったのだろうが、ジンの言葉を受けて静かになる。それを横目で確認した後でジンはカスミに言った。


「ついてくるのは危険だ。ひどい怪我を負う、あるいは死ぬ可能性まであるくらいにな」


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