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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
追手と旧友
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ジンとメリー

「ッ! こいつ!!」


 ジンに銃口を向けるという、メリーの突如とした異常な行動に一番早く反応したのはレプトだ。緊張の糸を体に張り、剣を抜こうと身構えている。カスミやリュウ、レフィもすぐに彼女を取り押さえられるように警戒を向けた。

 だが、そんな彼らをジンが止める。


「やめろ、お前達」

「何言ってんだ、ジン。こいつは……」


 ジンのことを守ろうとしての行動を彼自身に止められ、レプトはメリーから目を離さないまま、ジンの正気を疑う。だが、命の危険に晒されている当の彼は落ち着いた口調で一行に説明する。


「俺は彼女に、それだけのことをした。言っただろう、最悪の別れ方をしたと」

「……不倫の話か?」

「違う。内容は言えんが、ともかく……」


 未だ自分の額に銃口を向けるメリーに目線を戻し、ジンは続けた。


「俺は何をされても文句を言えないくらいのことをしたんだ。そして、俺はその責任を取らずに彼女の前から逃げ出した」

「何をしたってんだよ。それで、死ななきゃならねえくらいの事なのか!?」


 こんな状況においても重要な所の説明をしないジンにレプトは怒りの声を上げた。それに呼応するように、銃を手に持つメリーが高い声で嘲笑しながら言う。


「例えるなら、何年もの時間をかけた努力の結晶を、目の前で破壊して踏みにじった……てとこか? しかも、味方面をずっとしておいて、急に手の平を返した。こっちからしてみたら、後ろから切り付けられた気分さ。気分……例えじゃなくなってしまうかな?」


 冗談めかし、メリーは笑う。それを見てついに耐えられなくなったのか、レプトは勢いのままに剣を鞘から抜き放ち、その切っ先をメリーに向ける。


「例えなんていらねえんだよ。真っ直ぐ話しやがれ! 分かんねえんだよこっちは!!」


 分からないことだらけの中、自分をずっと助けてくれた人間が銃を向けられている。そして、その恩人は死んでも構わないと言う。頭の中がぐちゃぐちゃになるような状況でレプトは吠えた。

 カスミ達もレプトと同様、状況が全く分かっていなかった。渦中にいるのはジンで、彼と一番近くにいたのはレプトだ。自分達が口を挟めば事情がややこしくなるだろうと、彼らは固唾をのんで状況が進むのを待つ。

 レプトの咆哮を聞いたメリーは、彼に冷えた目線を送る。


「すまないが説明はできない。これは私もジンも同意見だろう。これに関して、お前達はいわば他人だからな」

「他人じゃねえよ。何せ、ジンの命がかかってるんだからな」

「……私なら、ジンがいなくなった後に代わりとなれるが……もちろん、そういうことではないな」

「当たり前だろ。お前、何考えてやがる。もしお前がジンを殺して、その後お前が一緒に来るってなって、納得すると思ってんのか?」

「いや。そこのとこは最低限理解してるさ。……そうだな、じゃあこうしよう」


 メリーはジンに向けていた銃を下ろし、指を立てて言う。


「この部屋、というか私の隠れ家は、私の意志ですぐに睡眠ガスが放出されるようになっている」

「は……? お前、奴らとは違うんじゃねえのかよ」

「もちろん違うさ、お前達の記憶する研究者とはな。だが、そいつらと違うというだけで、私も普通じゃあない。まあともかく……」


 メリーは提案の内容を本格的に説明する。


「睡眠ガスでお前達を全員眠らせる。そして、フェイに差し出す。そういう強硬手段も取れるがどうだろう?」


 メリーの言葉は、提案ではなかった。脅し、という他にはない。ここでジンを殺させなければ、全員をフェイ、つまり軍人に差し出すと言っている。

 レプトはその彼女の言葉に即座に反対の声を上げようとする。だが、それよりも前にジンが口を開いた。


「それは駄目だ!!」


 ジンの張った怒声は、部屋に耳を打つような音量で響く。


「……何をされても文句を言えない、じゃなかったか?」


 先ほどまでの仮初の軽い口調をなくし、再び冷えた口調を戻してメリーはジンを睨んだ。その目線に負けずとも劣らない敵意に似た視線をジンも返す。そのまま、低い声で発された問いにジンは答えを返す。


「俺にはな。だがこの子達は関係ない。やるなら、俺だけにしろ」

「……ふざけたことを。あんなことを私にしておいて、あいつとの約束を反故にしておいて、よくもまあぬけぬけとそんなことが言えるものだな」


 腹の底に煮えたぎる怒りを無理矢理抑えているように、メリーは地を這うような声でジンに言う。彼女の抑えつけている怒りの度合いは、彼女の碧に燃える瞳に現れている。

 だが、その色を知りながらもジンは首を横に振った。


「あの責任は俺がとるべきものだ。他の者を巻き込むわけにはいかん」

「……なるほど。まあいい。それじゃあやはり、お前が死ぬしかないな」


 ジンの言葉を受け、吹っ切れたようにメリーは平静の声を取り戻す。そして、下ろしていた右手に持っている銃を持ち上げた。その銃口は、あまりにも抵抗なくジンに向けられる。そして、彼女は引き金に指をかけた。


「っ……やめろッ!!」


 反射的に、レプトは剣を振りあげる。だが、遅い。銃の引き金はゆっくりとメリーの指に圧され、沈んでいった。


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