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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
追手と旧友
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逃走

「止まれ」


 背の方から自分達にかけられた男の声に一行は振り返る。五人の視線の先には、フェイと彼の部下達がいた。彼は部下達の前に立つ形で五人、特にジンに目を向けていた。


「前回より大分人数が増えましたね。その女は前の時からいましたが……」


 レプト達一行にリュウとレフィの二人が新しく加わっていることにフェイは意外そうな顔をする。彼にとっては一年以上追っている相手に急に新規面子が加わっていたのだ。驚かない訳はない。

 そんな彼を目に、リュウとレフィは事態が全く分からず首を傾げた。


「えっと……あの人達は?」

「知らね。レプトかジンの友達なんじゃね?」


 事情を知らない二人が楽観的な言葉を口にするが、レプトがそれを否定する。


「いや、ちげえ。詳しい事情を話す暇はなかったけど、ここに来る前に話しただろ? 訳アリ、ってヤツさ。あいつらは俺とジンを追う軍人だ」


 詳細は省き、レプトはフェイ達が自分達を追う人間であることを説明する。それを受けたリュウとレフィはすぐに警戒を持って身構えた。

 そんな彼らを目の端に、ジンは周囲を見回して呟く。辺りの町並みには、先ほどまで道を行き交っていた人々の姿が見えない。


「人気のない場所……。それに、部下に一般人は近寄らないよう呼びかけさせているのか。気付かなかった」

「そこまでうまく隠せていたわけでもないでしょうが、気付かなかったのは、あなたの気が抜けてるからでしょうね」


 フェイはジンの独り言に反応し、言葉を投げた。その彼の視線は、最近に彼ら一行に加わったカスミ達に向かっていた。


「どういう意図でかは知りませんが、急に人を増やすからです。まあ、俺達にとっては都合がいい」

「……? どういうことだ」

「あなたほどの人でも、気遣う者がいれば隙ができるという事です」


 フェイはそう言うと、突如右腕を振りかざし、それをリュウに向けた。同時に、彼の服の袖から銃弾に匹敵する勢いの鎖が射出される。一条の鉄の線は、惑うことなく空を這い、リュウの胴にめがけて迫っていく。


「っ……!」


 自分に凶器が向けられたのに反応し、リュウは身をよじってフェイの鎖を回避する。その反応速度は尋常ではなかった。ほとんど眼前に迫っていたフェイの鎖を、体からほとんど無駄な距離を持たせずに回避したのだ。

 フェイはリュウのその運動性能を見ると目を見開く。


「今の反応……」

「怖いね……都会ってこんな感じの挨拶するの? 冗談だよね」


 突如矛先を向けられたリュウは、焦りと薄い怒りを混じらせた言葉を漏らしながら、腰に提げた刀を鞘ごと左手に持つ。本格的に臨戦態勢を取ったのだ。彼のそれを見てか、レプト達も剣を抜いて身構えた。そんな中、長年自分を追ってくる相手にレプトは冗談交じりに声をかける。


「不意打ちが十八番だな、フェイ。そういう小賢しいやり方しかできねえのか?」

「お前みたいな棒振りしか能のない雑魚だけならこんなことをする必要はない」

「はぁ? テメエも遠くから新体操のリボンみてえに鎖で遊んでるだけだろうが」

「何だと……?」


 お互い悪態を吐き合い、明確に敵意を向けるレプトとフェイ。そんな二人を現実に引き戻すようにジンが声を上げる。


「レプト、無駄な話はするな。それとフェイ。お前もそんな挑発をしている余裕があるのか?」

「…………」


 二人共、ジンの忠告を聞いて口を閉じる。共通して教導を与えた人物に対しては従順ならしい。少なくともこのような鉄火場ではレプトも彼に従うようだ。無用なやり取りを止めると、ジンはレフィの方へ振り返る。


「というわけで、レフィ。さっき言ったのを頼む」

「ん、もういいのか」


 ジンとレフィは、レプトとフェイが挑発し合っている内に何か話し合っていたらしい。何か策かを立てている様子のジン達に、フェイと彼の部下達は警戒で身構える。

 だが、そんな相手に構わずレフィは行動を起こした。


「じゃ、いくぜッ!!」


 彼女は気合の入った声を上げると、右腕を大きく横に振り払った。同時に、レプト達五人とフェイ達の間を分断するように幅の長い道に一条の炎が立ち上がる。人一人分ほどの高さの炎は完全に二者を分かつ。レフィは炎の壁を一瞬で建てたのだ。その圧倒的な能力に、フェイ達だけでなく味方であるレプト達ですら驚愕の声を漏らす。


「よし、うまくいったな!」


 レフィは自分の思惑がうまくいったのを確信し、口角を上げる。ジンと話し合っていたのはこのことだろう。これがうまくいけば、完全に追撃を避けることができる。

 敵に直接対面した鉄火場から一転、逃げても簡単には追われない状況になった。それを受けカスミは以前の状態から随分と進歩したレフィの能力に驚き、彼女に礼を言う。


「すごいわね、レフィ。アンタ、いつの間にこんな能力使えるようになったのよ。ともかくありがとう」

「へへ……慣れてきたからかな。っと、今は早く逃げようぜ」


 感謝を受け取りながらも、今の状況を長く続けるのはよくないとレフィは言う。その彼女の言葉に、共に策を立てていたジンも頷く。


「レフィの言う通りだ。フェイ達から距離を取るぞ」


 一行はジンの言葉に一様に頷く。そして、彼を先導に通りから外れ、裏路地の方へと走っていくのだった。

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