里を襲う思惑
レプト達五人がシュウの屋敷で話している時、フューザーは近隣の街に向かってか、迷わず森林を歩いていた。彼の後ろには里にいた頃と変わらず軍人達がついている。
「……この辺りでいいでしょうかね」
森林をしばらく闊歩していると、先頭を歩くフューザーが足を止めて背後を振り返る。ただただ自分達を先導して歩くだけだった彼が急に立ち止まったのを受けて、軍人達は何事かとフューザーの様子をうかがう。彼は、懐から何かを取り出しながら後続の者達に指示を出す。
「周辺で手ごろな魔物を見つけて来てください。そうですね、五匹ほどがよろしいでしょう」
「……はあ、しかし、いったい何故?」
急な意図の分からない指示に、その場にいる軍人の代表として進み出た男は首を傾げた。そんな男の疑問に対し、フューザーは全く隠すことなく答える。
「あのエルフの里に送るのです。暴走状態にして」
「え……?」
「グリドに言われていましてね。今回も交渉に応じないようなら、こちらも手段を選ばないと示してくれ、と。それがこれです」
フューザーは懐から何かを手に取って、それを軍人の男に見せる。彼が取り出したのは赤みがかった透明の液体が入った注射器だ。
「この薬品を魔物に投与すれば、普段おとなしい魔物であっても気性を荒くするでしょう。あなた方の捕らえた魔物にこれを使い、あの里に誘導するのです」
フューザーの言ったことがそのままうまくいけば、攻撃的な状態の魔物がリュウ達の里に入り込むことになる。その魔物がどれだけの被害を出すかに関わらず、里の者達は彼らに恐れを抱くことになるだろう。
ただ、軍人の男はフューザーの考えに欠点を見出し、それについて触れる。
「しかし、それでは私達の仕業だと里の者達に伝わらないのでは?」
男の意見とは、里のエルフ達にこちらの恐ろしさを伝えるための考えなのに、自分達の意図したことだと伝わらなければ意味がないのではないか、ということだ。
男の言葉にフューザーは全く動揺の無い平坦な口調で返す。
「分かるはずです。資料によれば、この森には人類を襲うような気性の荒い魔物はいません。そういう事例がないわけではありませんが、繁殖期だったために通常より警戒心が高くなっていたためのもの。今はその時期からは外れています。つまり、魔物が彼らを襲うようなことが起これば、何かしらのイレギュラーが起こったと考えるのが普通。そして、ごく最近の異変として私達が訪れています。彼らがこの二つを結びつけない訳はありません」
フューザーは自らの考えを男に説明しきる。彼の策は、里の者達に恐怖心を植え付けるのには充分合理的なものと言えるだろう。
話し切ると、彼は欠伸をしながら軍人達を振り返って言った。
「では、手早くお願いします」




