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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
エルフの里と臆病な灯
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頼み

 月が夜空の中央に黄色い光をたたえる真夜中。レプト、カスミ、レフィは食事や風呂など諸々のことを終え、既に深い眠りについていた。その他の屋敷の者達や、大方の里のエルフ達も活動を終えて家の灯りを消している。

 そんな中、里長の屋敷の縁側に一人のエルフが座っている。リュウだ。彼は月を見上げながら、胡坐をかいて夜の空気と静けさを一人で享受していた。

 そんな彼に、ある人間が声をかける。


「眠れないのか」

「ん……ああ、ジン」


 縁側の向こうから歩いてきたのはジンだった。彼はリュウの姿を見つけるなり、隣に座って体を楽にしながら適当に言葉をつなぐ。


「今日は色々やっていたんだろう? 疲れていそうなもんだが……」

「ま、多少はね。でもま、自分がしたいことをしていただけだから」

「若いってのはいいな」

「まったくだよ。そういえば、ちょっと聞きたいことがあるんだけど」

「ん? なんだ」


 リュウとジンは、全く話に力を入れず、休みがてら、という感じの緩い話を続ける。


「君って、アグリじゃないよね。どうしてフードを被るんだい? 今は被ってないけど」

「ああ、そりゃ、レプトが一人でフード被ってると、あいつばかり奇異の目で見られる。それじゃ正直、顔を隠していないのと変わらないだろう? だから俺もフードを被ってる」

「……っていうと?」

「一人で奇異の目を向けられるより、二人での方があいつも気が楽だと思ってな。……まあ、話すようなことでもないんだが」

「……いや、感心したよ。そんな理由で、ね」


 リュウはジンがフードを被る理由について聞き、驚いたように目を見開く。ジンは、レプトにばかり嫌な目線がいかないように自分もフードを被っていたらしかった。


「別に驚かれるようなことでもない。困難なことをしているわけでもないしな」

「そんなことはないって誰でも言うと思うけどね。……まあ、しかし」


 ジンの謙遜を否定した後、リュウは深くため息をつく。そして、少し羨むようにジンの方を見た。


「君達やカスミが羨ましいよ。なんていうか、深い仲みたいで。僕にはそういう人がいないからね」

「……お前には友人がいないのか?」

「結構ズカズカ来るね。……まあ、そうだけど」


 ジンの問いに、リュウは両手の指をせわしく動かしながら答える。


「僕はこの里では変人だから、友達がいないんだよ。それっぽいと思えるのは……うん、いないね」

「お前がいないと思っているだけじゃないか?」

「多分そんなことはないね」

「なるほどな。まあ、俺にも友人がいないときくらいあった」

「え、本当?」

「まあな」


 リュウが首を傾げて問うのに対し、ジンは軽く笑って返す。彼は見た目四十歳くらいだが、それほどの人生の中で友人がいなかった時期もあったと言う。


「何で友人とするかでも、また変わってくるものだ。ちなみに、俺は二人のことを友人だとは思っていない。仲が浅いとは思っていないがな」

「ふぅむ」

「まあ、お前の言う通り、お前には友人こそいないかもしれないが、お前を頼りにする者はいるぞ」

「どういうことだい?」


 首を傾げるリュウに、ジンは首を振って背後にある部屋の方を示す。


「レフィはお前の友人ではないだろうが、お前を頼りにしている。それに、お前も彼女に他人以上のものを感じているだろう?」

「……ああ、確かにそうかも」

「その点で言うなら俺達だってそうだ。お前とは、友人と言うには少し近い気もするが、他人ではないだろう」

「……そういう意味じゃ、僕は人に恵まれているのかな。こうして、こんなことを話す相手にも恵まれているし」


 リュウは今の状況を俯瞰してみて、友人こそいないが別に悪いこともないのかもしれないと言う。そんなことを言いながらも、彼は最後に「一緒に遊ぶ友達もほしいけどね」と笑って付け足した。

 そんな他愛もない話を一通り終えると、リュウはスッと腰を上げて立ち上がる。そうしながら、ジンの方を向いた。


「明日、やりたいことがある。君にしか頼めないことがあるんだけど、いいかな」

「……ん? 何だ」

「ちょっと、ね。朝早くいきたい。レフィやレプト達についていくなんて言われても面倒だから。いいかな」


 リュウは昨日にカスミにしたように、翌朝ジンに頼みたいことがあると言う。その言葉を受けたジンは、逆に質問を返す。


「受けるには受けるが、内容はなんだ? それを聞かなくては判断できん」

「ん~……何と言うか、まあ、頼みづらいから断れない状態になってから言いたかったんだけど……」


 ュウは内容を後回しにした訳を素直に口にしながらも、答えをハッキリ明らかにしない。そんな彼にジンは懐疑の視線を向ける。リュウが悪人でないということは分かっていながらも、こんな前情報を聞いたらすぐに首を縦には振れないだろう。

 ジンの視線を受けたリュウは、頭を掻きながら、何とも言いづらそうにしながら口を開く。


「それは……」


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