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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
エルフの里と臆病な灯
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心を溶かす策

「で、できてるわよ、レフィ!」

「え……?」


 興奮したカスミの声を聞き、レフィはゆっくりと目を開く。すると、彼女の視界にはすぐ自分自身が発生させた炎が映り込む。それも、彼女が暴走していた時のような荒々しい炎ではなく、人が起こすような制御のとれた炎だ。


「お、おお……これが……!」


 レフィは自分が自身の能力を扱えていることに、驚きと少しの興奮が混じった声を漏らす。そんな彼女に、リュウは冷静に次の段階を試すように言う。


「大きくしたりっていうのはできるかい?」

「え、えっと……こう、か?」


 レフィはリュウの言葉を受けると、眉間にしわを寄せて自分の手の平の上にある炎に向けて力を込める。すると、彼女のそれに呼応するように、炎は二回りほども膨張した。それを見たカスミとリュウの表情は自分の事のように色めき立ち、顔を見合わせる。


「すごい……小さくはできるの?」

「こう……か」

「出力は操作できるみたいだね。つけたり消したりっていうのは自由にできるかい?」


 レフィは二人の注文を次々とこなしていく。程度の制御も、いつ発現するかの操作も今の彼女には自在のようだった。彼女は自分が恐れていた自身の能力を克服できたことに、興奮による笑みを浮かべる。


「できる……すごい、自由に使えるぜ!」

「よかった。こんなすぐに制御できるようになるってことは、元からその能力自体は自由に扱えたんだろう。重要なのは思い込みの克服だったんだ」


 リュウは先ほど考えていた可能性が正しかったことを確信する。能力自体は元から使うことができたから、これほどまでに呑み込みが早いのだろう。

 リュウはレフィが自身の能力を扱うのに成功したのを受けると、安堵したように息を吐く。


「見立て通り、すぐに済んでよかった。これなら次の段階に安心して移れる」

「次の……段階? 何かやるのか」


 能力を制御できることに興奮していたレフィだったが、リュウの言葉を聞いて眉を寄せる。彼女の疑問に対し、リュウはすぐに答えた。


「うん。君のその力で、里の人の手伝いをしてもらう」

「っ……それは」


 リュウの言葉に、レフィは顔の笑みを一気に消して顔を曇らせる。能力を扱えたとはいえ、まだ赤の他人の前で使えるほどの自信ではないのだろう。

 彼女のその不安を感じ取ってか、カスミはリュウに反対の意を示す。


「流石に急なんじゃない? もう少し慣れてからの方が……」

「いや、大丈夫さ。僕の見立てじゃ、レフィはもう能力を充分に扱える。ああ、それと……」


 リュウは全く考慮することもなくカスミの反対を受け流す。そして、何か思い出したかのようにレフィに向き直り、言う。


「里の皆は、君にあまりいい印象を持ってない。多分、森で起こしてしまった火災と、昨日のことのせいだね」

「…………」


 リュウは、里の人間がレフィに対していい印象を持っていないと言った。付け加えて、遠回しに君のせいだとも取れる言葉を含めて。レフィはそれを受けると、表情を歪めて苦悶を露わにする。


「ちょっとリュウ、アンタ、レフィにそんなこと言う必要あるの?」


 二人のやり取りを傍から見ていたカスミは、黙っていられないと言うようにリュウに詰め寄る。ただ、リュウはそんな彼女に落ち着いて対する。


「別に考え無しに言ってるわけじゃないから、安心してよ」

「……?」


 レフィに対する心配から声を荒げたカスミだったが、平然としたリュウの返しに彼女は眉を寄せる。そのままカスミの疑問にはハッキリと応えず、彼はレフィに向き直って言う。


「昨日寝る前に里を回って話を聞いてきたんだけど……異郷人に対する疑い半分、君達を連れてきた僕への信頼が半分、って感じだった。昨日のことが無ければ、まだ疑いがここまでになることはなかっただろうね」

「オレの、せいだな」

「そうだね。だけど、皆が持ってるのはただの疑惑だ。君がやってしまったことを直に見ていたわけじゃないから、ただの疑惑止まり」


 レフィの自分を責める言葉に対し、リュウはそれを肯定しつつも、別に付け加える。


「それを、これから君が晴らすんだ。いや、晴らすと言うより、覆い隠すって言う方が正しいかな」

「え……どういうことだよ」

「君の力で里の皆を助けるんだ。そうすれば、疑惑よりもいい印象が先行する。もちろん一日で皆が意見を変えるとは思わないけど……ここは田舎だから。噂が広まるのは早い。悪い噂も、いい噂もね。君自身の力で、里の皆の考えを変えるんだ」


 リュウの考えはつまり、悪い印象を持たれた今の状態から、レフィ自身の力でそれを払拭する。

 リュウはレフィと目線を合わせるように膝に手を置き、言う。


「力は使いよう、人を助けるためにも使える。それを今、やるんだ。……できるね、レフィ」


 リュウの言葉は提案というより確認に近かった。柔らかくはあるが、そこには少しの強引さも含まれている。


「…………」


 リュウの言葉と、その視線を受けたレフィは一度黙り込む。ただ、彼女のその沈黙は今までのように自信の無さや、不安に満たされてはいなかった。それより、別のものが彼女の中で大きくなっていた。


「……やってみる」


 リュウの提案に、レフィは大きく頷いて見せた。それを見たリュウは、フッと小さく笑い、立ち上がって里の方を振り返る。


「よし、じゃあ行こう!」


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