リュウの策
カスミとレフィの脱衣所でのやり取りからしばらく過ぎ、今は陽が落ちて暗闇が森に広がってくる頃合い。レプト、カスミ、ジン、リュウ、レフィの五人は一つの部屋に集まり、並んで大きい机に囲っていた。その机に乗っているのは、リュウがつくったという大量の料理だ。それらは森や川で採れるのだろう山菜を調理したものだった。魚の塩焼きや、混ぜご飯、全体的に醤油が基本的な味付けになっているようで、薄らとした匂いでそれが分かる。量が多いのもあってか、壮大にさえ見える。
「おお……これは」
「珍しい食べ物だな」
「……ごくり」
レプト、ジン、レフィは目の前に並べられた料理に喉を鳴らしていた。そんな彼らに、リュウは笑って言う。
「食べていいよ。おかわりはいくらでもあるから、遠慮なく」
料理を提供した主から出た許可を受けると、三人はすぐさま、両手を合わせて「いただきます」の号令を口にする。そして、眼前の食事に手を付け始める。レプトとジンに関しては、昨日はほとんどまともな食事を摂れていなかった。レフィも少なくともあの建物を抜け出してからは普通の食事はできていなかっただろう。三人にとっては、こういう風に落ち着いて食事をとれる状況が久しく、欲を抑えることができなかったのだろう。慌ただしく手と口を動かしている。
そんな三人を前にしながら、カスミは隣に座るリュウに声をかける。
「アンタ、これ一人でつくったの?」
「いや、昼に君達を案内させたミズハと二人で、だね」
「はえぇ……すごいわね」
「君は料理しないの?」
「全く。食べる専門よ」
「楽しいのになぁ……」
他愛のない話をしながら、食事をつまむ二人。そんな中、カスミはふと、目の前で食べ物を次々と口に放り込んでいくレフィに目をやった。彼女は見た目でハッキリと分かるほど非常に痩せていたため、空腹を満たすために食事をしている、という感じだった。もちろん味や質がいいのもあるだろうが、その様子はとめどない。そうなるほど、環境が悪かったのだろう。
そんなレフィの様子を見ながら、カスミはリュウに彼女の問題について話す。
「レフィさ、大丈夫かしら」
「ん……ああ。他人を傷つけるかもってずっと言ってるね。やってしまったことと、責任感の強さのせいかな」
「うん。能力で他人を傷つけるかもって、ずっと心配してるわ」
「僕にも言ってたよ、それ。まあ、仕方ないんだろうけどね。人を殺してしまうなんて、そんな機会は普通ないだろうし……どんな気持ちになるのかも分からない」
二人はレフィの問題について話す。彼女の問題は、人を殺してしまったという事に対する罪悪感と、自分の能力のせいで他人を傷つけてしまうかもしれない事に対する恐れだ。この二つが、彼女の他人との交流の意欲を大きく削いでいる。
「アンタが料理持ってくるまで、基本的にだんまりだったし……。レプトともジンとも、最低限は話すけど……みたいな?」
「まあ、そうだろうね。僕とも必要以上は話してくれなかったよ」
「……別にそんな心配することないのにね。力なんて、使い方次第なのに」
「使い方次第……使い方次第、か」
会話の最中、リュウはカスミの一言を反芻する。その一言に何かを見出したらしい。しばらくその言葉をうわ言のように繰り返すと、ハッとした表情を浮かべる。一瞬間抜けのようにも見える表情をした後で、考え付いたことを少しの間精査する。
「使い方……うん。いける、かな」
「どうしたのよ、独り言ばっか……。気持ち悪いわね」
「カスミ」
「ん?」
リュウは自分の思考に一旦蹴りをつけると、カスミの方へ向かう。
「レフィのことで、君に頼みたい。明日の朝、出来れば明るくなり始めたくらいの時間。僕と彼女に付き合ってくれるかな」
「朝? それも早め? ……正直、ゆっくり休みたいんだけど。ここ最近、色々ありすぎてさ」
リュウの頼みに対し、カスミは渋い表情を見せる。ただ、そんな彼女にリュウは言葉を重ねて頼み込む。
「頼むよ。レフィのための事なんだ。これをすればきっと、彼女の悩みも、それに……里の君達に対する目線も変えられるかも」
「……レフィのため、ね。う~ん……」
リュウの言葉を受けると、カスミは唸り声を上げて考え込む。自分の休息か、リュウの頼みか。少しの間黙った後、彼女は吹っ切れたように言った。
「……分かったわ」
彼女の悩みに答えを出させたのは、レフィのためという言葉だった。今まさに苦境にある彼女のためなら、流石に動かざるを得ないと考えたのだろう。
カスミの返答を受けたリュウは、口元に笑みを浮かべて柔らかい声を上げる。
「ありがとう、カスミ。それじゃあ、よろしく頼むよ」
「はいはい。……で、ここって目覚まし時計みたいなものってあるの?」
「……? 何それ」
「ないのね、分かったわ……。えっと、どうやって起きようかしら」
早朝に起きるように言われたものの、どうやって睡眠から目覚めようかとカスミは頭を抱える。そんな彼女に、全くもって問題はないと言うようにリュウは笑って見せた。
「その道具が何かは知らないけど、大丈夫だよ。僕が起こしに行くから」
「……どうも」
自分の寝顔が見られる等々、嫌なことが頭に浮かんだがそこは妥協してカスミは返事をする。その後で、彼女はそういえばと今朝のことを思い出す。
「確か、今日もアンタに起こされたわね。同じことが続くなんて、珍しいこともあるもんだわ」
「本当だ。僕達、そういう縁があるのかもね」
「え……キモイ。ゾッとすること言わないでくんない?」
「はは、悪かったよ。じゃ、朝、頼むね」
顔を青ざめさせ、カスミはリュウから距離を取った。辛辣な言葉を投げかけられたリュウだったが、彼はそれを軽く受け流し、念押しするように頼みのことを再度口にするのだった。
二人の目的は、レフィの固まった心を完全に解すこと。殺人まで冒してしまった少女の閉じた心を、二人は開くことができるのだろうか。




