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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
エルフの里と臆病な灯
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危うい立ち位置

「囮役は僕がやるよ」


 リュウのその言葉に、一行は一瞬静寂に包まれる。驚愕のため、冷静な思考をすることができずに各々が口を開けずにいる沈黙だ。

 そんな彼らの前で、リュウは平然と続ける。


「安定剤を使う役はジンに頼みたい。僕は使えないし、囮の次に危険だろうから一番経験がありそうな君がいい。作戦を絶対に成功させるために、それを使うとき以外は表に出てもいけない。それには忍耐力も必要だ。それから二人は……」

「待て」


 すらすらと話を続けるリュウの言葉をジンが遮る。彼はリュウを半ば睨むようにしながら低い声で話す。


「少女があんな力を持っている以上、危険は避けられないだろう。だから策に文句はない。だが……」

「囮は自分がやるって言いたいのかな」

「……ああ」


 ジンが言いたいことを先読みしてリュウは彼の言葉を遮る。自分の言葉を先出しされたジンは少し顔をしかめながらも頷いて応える。


「囮は俺がやる。安定剤を打ち込むのは、レプトかカスミでもできるだろう。お前のような若い奴が命を張ることはない」


 ジンは自分より一回りも二回りも年下の者が、自分を差し置いて危険に身を投じるのを見過ごせなかったのだろう。カスミのことからも察せられる、彼の強い責任感がそうさせたのだ。

 だが、リュウはジンの言葉に首を振って返す。


「駄目だ、囮役は僕がやるよ。さっきも言ったように僕はその注射器っていうのを使えないからね。もちろん安定剤を打ち込む役はやれないし、もしもに備える要員はそれを扱える人の方がいい」


 リュウは自分が囮役をやらなければならないということを理屈で説明する。そして、もう一つ加えて言う。


「それに、これは僕が言い出したことで、僕が君達に手伝いを頼んだんだ。言わば、君達はこのことについては他人で、僕が当事者だ。重い役をやるのは僕以外にありえない」


 リュウは強い言い方をしてジンの言葉を跳ね除ける。彼は、自分に危険な役を背負わせるように言うジンに対して、刃物のように鋭い目線を向けていた。譲る気は全くないらしい。その様子を一目見たジンは、深く息を吐くと共に「無理はしないことだ」と言う。

 リュウはジンの言葉を受けると、刀を鞘に納めるようにジンに向けていた目を静かに閉じる。そんな彼に、カスミは心配から声をかける。


「本当に大丈夫なの? 別にまた作戦を考えるとか、できないかしら」


 カスミの言葉に、リュウは軽く頬を緩めて返す。


「僕は大丈夫だよ。これでも腕に自信はある。あの子の能力は確かに危険だけど、複雑な動きをするようには見えなかった。避けることだけ考えればいいんだから大丈夫さ。それに、あまり時間をかけたくない」


 リュウは言いながら、苦虫を噛み潰したような顔をする。彼が頭に思い浮かべたのは、少女の姿だった。白い簡素な服に身を包み、そこから痩せた四肢をのぞかせる少女。ただ、リュウはそのことに思考を囚われる前に、腰に提げた刀を鞘ごと帯から抜く。そして、それをそのままレプトに投げ渡す。


「ちょ、いきなりなんだよ」


 刀をキャッチしたものの動揺を示すレプトに、リュウは首をすくめて言う。


「少しでも身軽な方がいいし、武器は必要ないからね。預かっててほしい」


 リュウはレプトの手の中にある自分の刀を示してそう言った。意図を理解したレプトは、分かったよと応えてリュウの刀を手にしかと持つ。彼の刀は、漆の黒のみに染められた鞘に、白と黒の柄巻という非常にシンプルなデザインだった。しかし、普段目にすることのない刀という道具はレプトの興味を強く惹く。彼は手に持った刀をジロジロと眺め、自分の腰に提げてある剣と見比べ始めた。

 だが、そんな脱線を許さないというように、リュウが彼を含めた一行に向けて声を上げる。


「じゃあ、話すことは以上だ。今ならあの子にすぐ追いつく、行こう」

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