他人任せの不純な怒り
「テメエら、黙って聞いてりゃあ気色悪すぎんだろッ!!」
レプトの言葉に、リベンジ達は言葉を返さない。自分達が恨む相手の仲間らしき人物でありながら何も分からず、それでいて顔の異様を晒されたという衝撃が単純に大きかった。彼らは怒りの返しをするよりも前に、レプトが何者であるかについて周囲の仲間達と話し合う。その間に、レプトは自分達を囲う者達を見回して言葉を続ける。
「一体なんだってんだよ! 普通、仲間が家族と再会したってんなら嬉しがってやんのが普通だろうが。そこにうざったくて面倒くせえ因縁があろうが、そういうの、ちょっとでも理由とか事情とかがあったんだって、そういう風に考えてやる努力ってのはしねえのかよッ!!?」
フェイとフウが兄妹であるという事実はこの場にいるリベンジ全体が知る所。その間にどのような事情があって生き別れたのかまでの仔細を知っているかはともかく、長年会えなかったのであろうことは同じ組織にいればうかがえるはず。それを分かっていながら、彼らは譲歩の姿勢も一切見せなかった。
しかし、そこには確固たる理由があるからだ。戸惑いよりも怒りの勝ったリベンジの一員が、道の中央で怒りを発露させるレプトに言葉を返す。
「外野は黙ってろッ!! 俺達は仲間を殺されてんだ。テメエの言ってるような小せえ問題じゃねえんだッ!」
「こっちだって仲間奪われてんだよ。お前らが捕まえたってジンは、俺と、こいつの命の恩人で、仲間だ。……お前ら、ジンをどうした」
自分とフェイを救い、育てたジン。彼は以前のリベンジとの接触で足を撃たれ、彼らに拘束された。以降の足取りは掴めなかった。今、レプトが怒っているのは、フェイとフウの関係をリベンジ達が蔑ろにしているからだけではなく、彼の安否も含めての事だった。
レプトの問いにリベンジ達は答えない。全員が押し黙ることで返した。そんな中で、レプトの煽るような言葉に応じず、冷静なままでいたパートがジンの処遇について返答する。
「彼のその後はソーン、俺達の頭目預かりだ」
「実際にはどうなったとか、本当にジンがお前達の仲間を殺してたかってのは?」
「俺達には伝えられていない」
「は? ……それじゃあ、尚更意味分からねえよ」
レプトはパートの言葉に一瞬目を丸くした後、すぐに怒りを思い出し、歯を食いしばって声を絞り出す。
「お前ら、自分達の近くにいたっつー仲間を殺したかもしれない奴のことをハッキリさせなかったのか? 何で何も知らないままで、聞かないままでいられたんだよ? それでなんだ、今度は同じようにその場にいた疑わしいってだけの奴を、事情もハッキリさせないまま、その家族に殺させるってのか? なあ、やってることが訳わからないって理解してねえのかよ」
リベンジの目線から見て、仲間のシエスを殺した犯人だという疑惑を向けるのはフェイ、ジン、シフの三人のはずだ。その一人を、内情すらはっきりさせないまま殺害の現場にいたソーンに任せ、そのしばらく後、また別のフェイを犯人扱いする。敵である人物に疑いを向けるのは当然であり、三人全員で殺した可能性も考えるのなら全員処断の対象とするのは至極真っ当と言えるが、この場にいるリベンジ達はその内の一人、つまりジンを野放しにしている状況だ。目の前のフェイを仲間殺しという罪で殺したいほどに憎む人間達が、同様の疑いを向けられるジンを気にしないというのは、あまりにも筋が通らない。
「疑わしい奴らを全員犯人と決め込んで恨むならまだ理解できるし、許せねえけど気色悪いとは思わねえ。けど、お前らはその内の一人を捕えてるってのに、事情も状況もハッキリさせずに野放しにして、別の人間を殺そうとしてるってことだろ。訳わかんねえよ。そのソーンってのがどんだけ信頼できるのかは知らねえけどよ、この中にいる何十人全員に、仲間を殺したって奴のことを説明しない奴が信用できるとは、俺は思えねえ。それに、解決できたその問題をハッキリさせずに別の人間を殺そうとしてるお前達のやってることは、八つ当たりでしかねえだろうがよ」
レプトは言葉を区切ると、腰の剣を抜き放つ。彼はそれを、周囲を囲むリベンジ達全員に挑発するように向けてみせた。
「さっきどっかの野郎が言ってたな。家族を傷つけたくないってのが下らない理由だって。……下らないのはお前達のやってることだろ。こんな大勢が揃いも揃って、自分達の安っぽい怒りを他に受け持たせる。本当に怒ってんのは何人だ? ……そんなカス共になんて、絶対負けてやらねえし、フェイも渡さねえ」
レプトは剣を構えると、銃を撃たれたフェイをかばうように彼の前に立ち、総員五十人にはのぼるリベンジ達の前に立つ。レプトの言葉に応じるように、リベンジ達もまた、各々の得物を彼に向ける。最早、言葉で何か返すつもりもないのだろう。元より交戦は避けられない状態であった。それが今まで遅れてしまっていただけの事。
得物を構えるリベンジ達の中で、彼らの上に立つフウ達もまた自分達の武器を手に取る。セフは斧を、パートは拳銃を、フウはナイフを手に持った。だが、戦うのに必要な恐れや決意という感情は、彼らの表情に見受けられない。三人の視線はレプトとフェイに向けられている。彼らのそれは敵に向けるものとは思えない、棘のない視線だった。
「まったく、肝が据わってるな。レプト」
「……あ? フェイ?」
ふと、レプトは後ろで何かが動くのを感じる。敵を目の前にしている状況で背を向けることは出来ないため、目線だけチラと後ろにやると、そこにはフェイが立っているのがあった。彼は何ということも無さそうに、先ほど撃たれた肩すら抱えることなく立っていた。彼は剣の構えを解けずにいるレプトの隣に立つと、両手に帯びた鎖を構える。
「お前撃たれてたよな……?」
「鎖でガードしてたんで大丈夫だ。肩パン喰らったくらいで済んでる」
「じゃあ先に言えよ。どう考えても俺一人じゃ切り抜けられねえし……いや、何人いても厳しいけどよ」
「俺もそう思ったから、妹の立場が悪くならないようにジッとしてたんだがな。お前のせいで気分が変わった」
「チッ、悪かったかよ」
「いや、いい気分だ。付き合ってやる」
危機的状況は変わらないというのに、レプトとフェイの間には普段通りの空気が戻ってくる。目の前にある困難を乗り切れる確率は低いというのに、それをものともしていないかのようだ。
「随分と変わりましたね、レプト」
「……アルマ?」
そんな二人の纏う空気に触発されてか、リベンジの裁判が始まって以降沈黙していたアルマは、二人の隣で自らの剣を構え直す。彼女は隣で疑問符を浮かばせるレプトを目に映し、過去、シージに初めて来たときの彼のことを思い返す。
「ジンの後ろで小さくなっていたのが嘘のようです」
「う、うるせえな。それ一年以上前だろ。それに、お前フェイのこと疑って剣まで向けてたろうが」
「そういう事もありましたね。さて、フェイさん」
「こんな時に、一体なんです?」
レプトのなじりを受け流すと、アルマは臨戦態勢を緩めることなく、フェイに声をかける。その声色は、レプトに向けた冗談めかしたものとは大きく離れた真剣なものだ。
「あなたの話、どうしても私達ピースの頭目に聞かせなくてはならない。あなたを見捨てて私の口から聞かせるというのもアリですが、あなた本人の所感を聞かせたい」
「……さっきの、ソーンという女の話ですか」
「ええ。もし、彼女がリベンジの仲間を殺したというのが事実なら……信じたくありませんが、あいつが変わったというのなら、私達も今のままではいられませんから」
仮定に仮定を重ねるアルマの口調から察するに、彼女はフェイの言葉を信じたくはないようだ。しかし、ピースの組織で立場のある彼女としては、可能性を考えなくてはならない。アルマは苦い顔を携えながらも、レプトとフェイの隣に立った。
「しかし……この状況、どうやって生き残ります?」
「全員無事、というのはほぼ無理でしょうねぇ。多いだけならともかく、あなたの妹さん結構強いですし」
「んなこと言ってたって始まらねえだろ。……行くぞ」
弱気なことを言っているフェイとアルマに対し、レプトは先陣に立って喝を入れる。どうしたって、いつかは戦い始めなくてはならない。勝ち目がほとんどない状況だからこそ、逃げの一手が通じる可能性も低いのだ。ここから先は一歩の予断も許されない。レプトの言葉で気を引き締めると、フェイもアルマも改めて構えなおした。
「…………」
臨戦態勢を整えたレプト達を前に、この場のリベンジ達を率いるフウはその手の内のナイフを強く握る。そして、祈るようにゆっくりと目を閉じると、大きく息を吐き、号令を上げた。
「奴らの発言は気にするな。どちらにしても彼らを捕えなくてはならないという状況に変わりはない。それ以外は些末事だ」
士気を下げかねないレプトの発言を自ら切って捨てると宣言した後、フウは右手のナイフをフェイに向ける。自分自身がまず家族への情を断ち切るという形を見せる意図だろう。その姿勢を目に留めると、リベンジ達は再び自らの内に含まれていた敵意や怒りを思い出し、いつでも動き出せるように備えた。
その時、戦いの火蓋は切って落とされる。だが、その端緒を開いたのは、この三叉路に立つ者ではなかった
「お前達一体……ぐあッ!」
「敵だッ! こっちから来てるぞッ!」
男の悲鳴。同時に、リベンジらしき人間の報告がレプト達の後方から聞こえてくる。突然の事態に、レプト達、そしてフウ達でさえ何事かと声のした方向へと目を向けた。
二股に分かれた道、その両方の奥。リベンジの構成員達と何者かが戦っているようだ。金属の得物がぶつかり合う音、銃声、戦いの場に立つ者の雄叫びと悲鳴。その数からして、一対多ということではなく、多対多であることがうかがえる。捕えなくてはならない敵を前にしての部外者の登場にリベンジ達は焦り、レプト達は逃亡の機会をつくりだせるかもしれない機会に希望を見出した。
交戦の音が響き始めて、十秒ほど経ったかという時。突如、両者がぶつかり合っている場所から一人分の人影が飛び出す。その人影が足を止めた場所は、三叉路の中央に立つレプト達の元だ。
「っ……お、お前……!?」
「何故ここに……?」
その人物は、レプトとフェイにとって見覚えのある人物だった。
二人とアルマの前に姿を現したのは、亜人の少女だ。魚類のそれのような鱗に覆われた右手には、細長く柄が薄い水色をした槍を持っている。彼女はレプトとフェイから驚愕の目線を受けながら、その手に持った槍を振るい、宣言した。
「君達を助けに来た」




