感動から遠く離れた再会
「フウ、やっぱり生きて……」
いつの間にか後ろに立っていた女、フウ。癖のある髪を携えた彼女のことを見たフェイは、彼女が自分と生き別れた妹であるとすぐに確信する。覚えのある見た目や空気感など、根拠に挙げられるものはいくらでもある。しかし、二人が互いを兄妹であると認識したのは、ひとえに両者の直感のためである。二人は顔を合わせると、十年の時を間に置いた再会に数秒心を奪われた。どちらとも、互いが生きているだろうと認識してこそはいたが、その目にしかと見定めるまではどこまで行っても半信半疑。しかしそれが、今正に確信になった。
だが、二人は再会の喜びのまま、抱き合うことはしなかった。できなかった。
「夢見たようなことには……ならないみたい」
両者はともに、互いの立場をよく理解していた。だから、思いのままに行動するなんて出来なかった。そうするには、とても今の状況は邪魔が多すぎる。フウは眉間に指を当て、小さく唸った。
「これは一体、どういうことです」
兄妹の再会を機に広がった沈黙、それをアルマが破る。彼女は何か関係があるらしいことを匂わせるフェイとフウに対し、敵意に近い視線を向けている。セフとパートと顔見知りである以上、同じくリベンジの構成員であるというフウのことも知らない訳はない。彼女は剣を抜き放つと、フェイのうなじにそれを突きつけ、高圧的な口調で話す。
「説明してもらいましょう。どうもあなたにはリベンジにいる知り合いが多いようだ。そこにいる二人に、そしてまさか、フウまで知り合いだとは」
「……妹だ。約十年間、互いに死んだと思っていたはずで……」
「細かい事情は今、どうでもいい。重要なのは、あなたがピースとリベンジの両方に通じているというこの事実……」
アルマの立場からしてみれば、フェイという存在は疑わざるを得ない相手だ。それは倉庫の中でも話した通りであり、その疑いは現在起こったことにより更に強まった。一度は諦めた追及を再開する程度には、彼女の中でその疑念は色濃く残っていたらしい。
だが、彼女の言葉は最後まで続かない。
「立場を弁えて、アルマ。あなたは今、一言だって自由に発言できる状況じゃないの」
フウだ。彼女はフェイの後ろに立って彼の命を脅かさんとするアルマに、冷徹な視線を向けながらそう言い放つ。その目には、今にも懐に収めた得物を抜き放ちかねない容赦のなさをうかがわせる冷たさがあった。だが、それを前にしてもアルマは言葉を止めない。
「これは、我々ピースとリベンジ両者に深く関係のあることです。今回の件、彼らに嵌められた可能性があるんです。疑いは一縷でもあれば徹底的に潰さねばならない、フウ、あなたもよく分かっているはずです」
「それを判断するのはあなたじゃない、私」
フウは自分達に必要なことだと言って諭そうとするアルマの言葉に取り合わず、彼女から視線を逸らす。そしてそのまま、彼女やフェイ達の後ろに立っているパートに目をやった。フウが小さく首を振る動作をすると、それに応じるようにパートは頷く。
その瞬間だ。一瞬、その場に立っていた全員の視界が揺らぐ。めまいを起こしたのではないかと錯覚するほどのそれに思わず何度かの瞬きを挟み、次に覗き見た状況を前にして、フェイ、レプト、アルマは驚愕する。
「……これは」
「囲まれてる……!?」
フェイ達が立つ三叉路、その周囲をリベンジの構成員達が囲っていた。彼らは建物の屋上や窓、路地、通り、周囲のあらゆる場所に控えていた。そのどれもが手に銃や剣などの得物を持ち、遠距離攻撃が可能な武器を持つ者達はそれをフェイ達に向けている。
(パートの能力、ですか)
周囲を敵に囲まれている現状を知ったアルマは、目線だけで辺りを見渡すと、右手に持った剣を下ろす。
(恐らく初めに足を止められた段階から仕込まれていた。フウの到着、彼らの包囲が完成するまで、私達の視界を制限していたと考えるのが妥当。彼の能力の副作用である距離に関しても、自分自身を隠すわけではないのだから少ない。視界の錯覚、敵意が無いという錯覚……うまくしてやられたというワケですか)
武器を下ろしたアルマを見て、障害を一つ取り除けたと確信したフウは改めてフェイに目を向ける。
「物分かりが良くて助かるよ。それじゃあ、本題に入ろうか」
フェイに向けられたフウの目は、とても、十年ぶりに再会した兄に向けるようなものではなかった。最早家族に向けるものとも思えないほど、それは冷え切っていた。対するフェイも、同様の視線を返す。彼らは互いに、これから起こることを理解していたのだろう。だからこそ、とても、自分達の心に従って行動することは出来なかった。
「裁判を始める。私達の仲間を殺した、この男について」
フウは懐に仕舞っていたナイフを取り出し、その切っ先をフェイに向けて宣言した。その瞬間、近くに立つセフとパート以外のリベンジの構成員達は沸き上がった。彼らの表情にあるのは、屈託のない憤怒だった。




