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ヘキサゴントラベラーの変態  作者: 井田薫
シャルペス動乱編
370/391

突如

「お、おいアルマ……!」

「ちょっと、これどういう……」


 アルマは倉庫に入るなり、フェイに己が得物を突きつけた。彼女の暴挙とも取れる行動を前にしたレプトやジア達は、自分達に味方するはずの人間が敵意を向けてきていることに動揺する。一瞬にして、倉庫内には緊張が走った。そんな中、最も冷静だったのは一番危険な状況であるはずのフェイだった。


「……一体どういうつもりですか?」


 フェイは後ろのレプト達に静かにするよう手を上げると、正面に立つアルマに問う。対するアルマは、メリーと会話している時に感じられた弾みなどは一切感じさせず、抑揚のない機械のような声で話す。


「外ではリベンジがこの街を襲撃しています」

「……!」


 レプトとフェイはその名を聞くと、驚愕と同時に疑問を覚える。だが、そんな二人の反応などにはかまけず、アルマは続けた。


「どうやら私達を攻撃目標にしているようではないみたいです。ハッキリとはしませんが、恐らく目的はこの街にある超遺物でしょう。あれは、世界の均衡を変え得るものと言って言い過ぎでもない代物。だからこそ街にはそれを守護する者達が存在し、同時にピースも近くに居を構えています。……ただ、今そういう細かいことはどうでもいい」

「……肝心の、俺に剣を向ける理由とは関係ないんですね?」

「ええ。重要なのは、なぜ今なのか……。実のところ、私はあなたがこの事態を手引きしたのではないか、そう考えています」


 アルマの言葉に、話の内容を理解できるレプトは疑問に眉を寄せた。彼は話について行けずに固まっているイル達を背に、アルマに詰め寄った。


「おいアルマ、どう考えたらそんな訳の分からない結論になるんだよ。フェイがんなことする意味はねえだろ。大体俺達はシャルペスの人達を……」

「レプト、あなたはフェイが家族をリベンジに奪われた、という話は知っていますか?」

「……ああ。だけどそれがどうしたってんだよ?」

「この人には、リベンジだけでなくピースも、つまりリベレーション全体を恨む理由がある。以前、メリーがピースの長スタルクに話したことを考えてみてください。私達とリベンジには、衝突するには充分な確執がある。方向性の違い、彼らが犯した罪の数々……ピースはリベンジが襲撃をしている場所に立ち会った場合、それを全力で止めざるを得ない」


 アルマは説明に集中しながらも、右手に持った剣に込める力を緩ませることはない。彼女はその全神経をフェイという一人の人間の一挙手一投足に向けていた。


「彼、フェイはそれを分かっていたのでは? リベンジを恨み、興味を向けているという事は我々の情勢を多少なりとも把握している可能性があるという事。であれば、両者が顔を合わせた際に起こることも想像できるはず。そして今、正にそうなっています。外では我々ピースとリベンジ、そしてこの街の守護者達との乱戦状態です。……彼はこれを狙った」

「だ、だからよ。フェイがどうしてそんなこと……」

「ここを、我々全体への復讐の場に選んだ。ピースとリベンジの衝突を狙い……ピースをシャルペスの解放、リベンジは別のやり方で集めた。……違いますか?」


 冷たい双眸でフェイを見据えたアルマは、答えを促すように剣の切っ先を更にフェイへ近付ける。攻撃する気はないと分かっていたが、仲間の危機を後ろで見ていたレプトは気が気でなかった。関わることすらままならないジア達も同様だ。

 そんな四人の心配を背に受けていたフェイは、ジッと固まって何か考えているようだった。言葉を発さず、彼は押し黙って思考し続けている。どうすればこの筋の通った疑いを晴らせるか、それを考えるためにはどうしてこんな状況になったのかを把握し……。無表情を装っているフェイの頭は、パンク寸前だった。


「……違う。俺は何も知らない」


 訳も分からない状況を前に、フェイはもっともらしい言葉を立てるのではなく、素直に問いに答える。悪意を持ってこの状況を仕掛けたことはなく、想像すら及ばなかった。そのありのままの思考をアルマに露わにして見せた。


「…………」


 真っ直ぐな刀身を、揺らぎなくフェイの首にあてがっていたアルマは口を固く閉ざしたままで彼の処遇について頭の中で思案する。一挙手一投足ですら判断材料にしようとする彼女の目は、フェイという一人の人間の体をくまなく見つめ直した。

 両者の言葉が終わって、およそ十秒。重苦しい沈黙の中、アルマは重いため息を吐いて体に込めていた力を抜くと、剣を下ろして鞘に納めた


「失礼、あなたを試させていただきました。何分、経験上裏切りには敏感になっていまして」

「……そ、そうですか」


 目の前に迫った命の危機がとりあえず遠ざかると、フェイは全身に張っていた緊張の糸を緩め、冷や汗の浮かんだ額を押さえる。そんな彼を前に、アルマは淡々と、直前までしたことをどうとも思っていないかのように話を続けた。


「まあ状況説明も兼ねていましたし構いませんよね?」

「いや、構う……こんなことはもう勘弁してください」

「状況が状況ならまた同じようにしますよ。あなたは疑われる要素満載だったので。今もあなたを信用しきったわけではありません。元の予定通りではありますが、事が終わったらシージで話をさせてもらいますよ」

「…………」

(厄介なものを抱えたな)


 数分前までは予想もしていなかった事態、そしてそれにまつわる不安な将来を抱えることになったフェイは頭を抱える。そんな彼の後ろで、レプトはとりあえず仲間の身に迫る危険はなくなったと判断すると、フェイに敵意を向けてきたアルマに追及の目を向けた。


「……細かいことは分からねえけど、フェイがそんなことするわけねえだろ。俺達の仲間だぞ」

「まあ、レプトのことは多少なりとも理解しているつもりですが、彼自身については何も知りませんでしたから。大目に見てください。さて……こんな無駄話をしている暇はありません」


 裏切りという不安要素を確実とは言わないまでも排除することの出来たアルマは、フェイ、レプト、そしてシャルペスの面々をそれぞれ見て指示を振る。


「あなた達の頼みが無ければ元は被ることのなかった危険ですから、当然手は貸してもらいます。レプト、フェイ、あなた達は私について来てリベンジの鎮圧を手伝ってもらいます。あなた方は、つつがなくシャルペスの住人達の運搬が終わるようにここに張っていてください」


 自分達の目的を達成する上で欠かせない手助けをしてもらっている立場で、この頼みを無碍にすることは出来ない。レプトとフェイだけではなく、ジア達もそのことはよく分かっていた。だからこそ、五人は互いにその答えを確認する必要もなく、アルマの言葉に頷き、各々が彼女の指示に従うのだった。

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